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ジャスティスへのレクイエム(第2部)

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「推理小説などで、凶器を隠す場合、一度警察が捜査したところに入れるのが一番の隠し場所だ」
 というのと同じ理論である。
 この思いはシュルツには昔からあった。綿密な計画を立てたり、カリスマ性に長けているシュルツだったが、油断という意味では時々起こしてしまうことを自覚していないことが彼の最大の弱点だったのだ。
 シュルツは、アクアフリーズ国の大統領の気持ちは分かるつもりでいた。
――彼は今不安に喘いでいるのではないか。なぜなら自分が大統領に選出されたのだが、中途半端な君主であり、主権を持ってはいるが、どこまで行使すればいいのかが分かっていない。下手をすれば自分がクーデターに遭うかも知れないと危惧しているに違いない――
 と考えていた。
 そこに神器が関わっているとは、なぜか考えなかった。あくまでも神器はチャールズのものであり、体制が変わって立憲君主の国になったのだから、もう神器の有無は関係ないと思っていたのだ。
 ただ、シュルツは国民感情を甘く見ていた。クーデターが成功したことを国民は歓迎ムードだったことで、王家に対して恨みを抱いていたと感じていたのだ。それだけにまさか神器を国家の宝のように国民自体が思っていたなど、想像もしていなかった。国民感情としては、クーデターで新しい体制になったことを嫌ってはいないが、王家も嫌いではなかったということだ。そのあたりの勘違いが、シュルツを母国への軽視する目を持たせるにいたったのかも知れない。
 アクアフリーズ国の大統領は、不安だった。国民が神器を気にしていているということは、かつての国王のことを嫌っているわけではないと感じたからだ。
 クーデターが成功したのであれば、クーデターで追い出した相手を憎んでいなければ、クーデターを起こした方は成功だったとは言えないだろう。体制が立憲君主に変わったことを国民は受け入れてくれたが、決して全面的に今の政府や軍部を信任しているというわけではないからだ。
「起死回生の何かがなければ」
 と感じたのが、アレキサンダー国との間の同盟によって生じる、
「チャーリア国への先制攻撃」
 だったのだ。
 大統領の中には、チャーリア国の滅亡を望んでいるわけではない。とりあえずわが同盟軍相手に負けてもらって、神器を受け渡してもらう。そして、こちらに有利な講和を結ぶことができれば、それが最高の結末だった。
 だが、アレキサンダー国はそんなに甘くはない。
「チャーリア国の滅亡」
 を目論んでいた。
 元々、最近できた新興国ではないか。それはアレキサンダー国も同じなのだが、同じ時代に二つの新興国はいらない。一つでなければ十分歴史に名を残すことはできないと考えたアレキサンダー国は、チャーリア国の滅亡を切に望んだのだ。
 ここでアクアフリーズ国とアレキサンダー国の間での温度差が生じていた。
 そもそも戦争を仕掛ける意図はあって、その意味では利害が一致していたが、それ以外のところではまったく主旨が違っていた。そのことを両国で理解していなかったことが、戦争が始まってからの両国への影響があらわになった。
 アクアフリーズ国は、いよいよ戦闘準備を整え、侵攻前夜という時期に差し掛かっていた。
 シュルツはそれでも、アクアフリーズ国を意識していない。甘く見ていたと言われればそれまでだが、アクアフリーズ国も、まさかシュルツがそこまで自分たちを意識していなかったなどとは思ってもいなかった。最初の作戦は手さぐり状態のもので、先制攻撃するのであれば電光石火が必至なのに、手さぐりの状態での先制攻撃、相手が油断していた分大きな失敗とはならなかったが、お互いに痛み分けというところであろうか。
 被害はチャーリア国の方が圧倒的に多かった。そういう意味では先制攻撃は成功したのだろうが、その後で出ていくアレキサンダー国には戸惑いを生じさせた。それがそのまま混乱となり、しかも、まわりはチャーリア国に囲まれる形になっていた。迂闊に出ていってしまっては、蜘蛛の巣に引っかかってしまう。まずはそれを取り除くために、さらにまわりをアクアフリーズ国に攻撃させて、内と外から挟撃しようと考えた。
 ただこれは最初から決まっていた作戦ではなく、たまたまできた作戦だった。急ごしらえの作戦だったこともあって、その効果は抜群に得られたというわけにはいかなかった。アレキサンダー国側の被害も甚大だったからだ。
 ただ、チャーリア国が専守防衛の国で助かった。まわりを固めたアクアフリーズ軍をさらにまわりから攻められて、アクアフリーズ軍を孤立させることも十分に考えられる場面だったからだ。
 だから、アレキサンダー国側の被害も甚大だったのだ。
 完全な消耗戦となったことで、シュルツは例の新兵器を使用しようか、考えていた。ニコライにまずは相談するべきだと思い、ニコライの研究室を訪れた。
「現在の戦況としては、こう着状態と見ていいんでしょうか?」
 とニコライが訊ねる。
「そうだな。こう着状態になってしまったことで、それぞれ引くに引くことができず、被害だけが膨れ上がっている。こちらも苦しいが、相手も苦しいと思うんだ」
「この機会に和解を申し入れるというのはいかがなんですか?」
「お互いに決めてがない以上、先に講和を持ちかけた方が不利だ。足元を見られる可能性がある」
「それでもこれ以上の被害が出ないと思えば、それも致し方ないのでは?」
「講和を持ちかけるには、遅すぎる。ここまでこう着してしまうと、与論も納得しないだろうし、これだけの被害を出して、それに似合う戦果を得られないと、戦争をした意味がないんだ」
「それは分かりますが。それではどうするおつもりなんですか?」
「例の新兵器を使ってみようかと思うんだが、どうだろう?」
 とシュルツが持ちかけると、ニコライは少し考えていたが、
「それは無理だと思います」
 と、アッサリシュルツの意見を蹴った。
「あの兵器は、少なくともこちらが優勢に立っていないと効果がないんです。相手を追い詰めるための兵器ですので、こちらが劣勢であったり、こう着状態で使うことはタブーだと思っています」
「どうしてなんだい?」
「こちらが優勢な時に使えば、相手に精神的なダメージを与えることができると同時に、相手はその兵器が使われた事実を隠そうとするでしょう」
「どうしてそう思うんだい?」
「相手とすれば、最後に追い詰められた事実をなるべく他国には知られたくないものです。しかもそれが見たこともない新兵器であれば当然のこと。だけど逆に起死回生を狙ったものであれば、相手はこの事実を公表し、世間の声に訴えようとするに違いない。そのために兵器の効力を調べあげ、放射性のあることに気付くと、これ幸いにと、国際社会に訴えることでしょう。何といっても核兵器であることには変わりはないんです。それが分かると世間の我が国を見る目は極寒になることでしょう。そうなると、戦争どころではありません。経済制裁を受けたりして、国家としての存続すら怪しくなってしまうかも知れません」
「じゃあ、あの兵器は最後の一手でなければいけないということなのか?」
「そういうことになります。だから使用するにはタイミングが問題なんです」