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ジャスティスへのレクイエム(第2部)

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「なるほど、よく分かった」
「しかも、相手は王位継承の神器を取り戻すというスローガンを掲げている。向こうには大義名分があるんです。そんな相手にあの兵器を使用することは非常に危険だと思います」
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
「相手は我が国が新兵器を開発しているということは知っているんですよね?」
「ああ、うちの諜報部員が相手の国の政府に入り込んでそこまでは掴んでいる。しかし、その兵器がどんなものなのか具体的には分かっていないようだ」
「だったら、相手を疑心暗鬼にさせてしまえばいかがですか? 新兵器を使うぞと思わせて、その新兵器の準備まではしておくんです。相手は臨戦態勢に入るでしょうから、ひょっとすると今のこう着状態を崩すこともできるかも知れませんよ」
「なるほど、その手があったな。君に相談してみてよかった。ありがとう」
「いいえ、シュルツ長官。でも、我が国は専守防衛の国だということを忘れないでくださいね。今世界が我が国に同情的な目を持っていてくれているのは、専守防衛があるからです。相手国のように我が国には大義名分がない。攻められたから防衛しているという大義しかありませんからね」
「分かった。だが、もし相手が我が国の領土に侵攻し、制空権もすべて掌握しそうになった時は、例の兵器を使用するかも知れない」
「それは致し方のないことだと思いますが、それも大きな掛けであることには違いありませんよ。そのあたりはしっかりとわきまえておかないといけないと思います」
「分かった。君の言う通りだと私も思う」
 シュルツは、ニコライの研究室を後にした。
 ニコライはこの時、軍に対しての発言力も持っていたが、彼の方から発言することはなかった。ニコライの発言力はシュルツが与えたもので、ニコライが望んだものではない。もっとも、
――彼なら、自分から発言するようなことはないだろうな――
 とは思っていたが、それでもこの時のように、自分から想像に行くこともあるのを見越して、相談しやすい環境を作っておく必要もあったのだ。
 ニコライもシュルツが訊ねてきたと聞いた時、
――やっと来たか――
 と感じたようだ。
 戦争がこう着状態に入ったことは分かっていたし、そのことで二進も三進もいかず、シュルツが悩んでいることも分かっていた。
 例の新兵器を使う時は、まずニコライに相談するという最初の決め事があっただけに、本当はシュルツがやってきたと言われた時、ニコライには緊張が走った。
 確かに新兵器を開発したのはニコライだった。シュルツの要望に応えるには、どうしても核兵器でなければいけなかった。しかも、史上最少の兵器で、放射能も調べなければ分からないほどの微量なもので、ただ効果は抜群であるというもの。
――よくもこんなむちゃくちゃのものをよく依頼したものだ――
 とニコライが感じれば、
――よく、こんな無茶ブリに答えてくれたものだ――
 とシュルツも感じていた。
 チャーリア国というのは、まだまだできたばかりの新興国家である。しかもクーデターから逃れた亡命国家である。世間的には劣等感で見られても仕方がないのだろうが、シュルツがいることと、専守防衛という世界に迷惑を掛けない考え方を持っていることで、国際社会の仲間入りができたと言っても過言ではないだろう。
「アレキサンダー国とは我々は違うんだ」
 というのが、スローガンだった。
 アレキサンダー国は、クーデター国家である。同じ新興国家でありながら、相手は世界的にも認められた革命を成功させた国家であった。
 やはり世界的に独立機運が高まっていた時代背景がアレキサンダー建国を後押ししたのかも知れない。そんな彼らがチャーリア国への侵攻を、王位継承神器奪還をその一つにしているというのはビックリだった。
 しかも、宣戦布告までその大義名分をひた隠しにしていた。なぜなら、アクアフリーズ国がチャーリア国に侵攻する先陣となるということをチャーリア国に悟られてはいけなかったからである。
 アクアフリーズ国は先制攻撃を加えたが、その効果は戦果としてさほどのものではなかったが、チャーリア国にとっては、精神的な打撃は大きかった。
「どうしてアクアフリーズ国が侵入してくるんだ?」
 ありえないと思っていたことが起こってしまったことで、最初からつまずいた気持ちになった政府は浮き足立ちかけていた。
 それを必死にシュルツはなだめて、なんとか戦争をこう着状態にまで持ってきたのだ。
 浮き足立った時に、まさにこの時とばかり、アレキサンダー国が侵攻してきた。浮き足立った軍は、アレキサンダー国を包囲していた完璧な陣形を崩して、アクアフリーズ国を撃退するために動いたのだ。
 これがアレキサンダー国にとっての狙いだった。
「敵に後ろを見せることがどれほど危険か、思い知らせてやる」
 動いた軍は、前からアクアフリーズ国、そして後ろからアレキサンダー国の軍から挟撃を受けた。
 浮き足立っている上に挟撃を受けたのだから、どうしようもない。総崩れになっても仕方のない状況に陥っていた。
 それでもがんばって盛り返した軍だったが、それはアクアフリーズ国があまりにも簡単に崩れたからだった。
「弱体な軍であることは分かっていたが、ここまでひ弱いとは思わなかった」
 とアレキサンダー国も予想以上に早くアクアフリーズ軍が崩れたことは計算外だっただろう。お互いに計算外が続いたことでのこう着状態に突入したのだった。
 お互いこのまま半年が経過し、精神的にも消耗してしまった双方に、WPCから休戦の勧告があるのも、無理もないことだった。
 第三国からの仲介があれば、休戦などは簡単に成立する。お互いに落としどころをわきまえたうえでの勧告だったので、双方とも異論はない。
「とりあえずの休戦だ」
 と、ここで戦闘はいったん終了した。
 これが第二次戦争だと言ってもいいだろう。

                  (  続  )



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