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ジャスティスへのレクイエム(第2部)

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「その通りです。私は、今のあなたのその表情が本当のあなただと思っています。その丘になるのを、私は待っていました」
 キラキラした目で見つめられると、大統領は歓喜に満ちた表情に変わった。
「分かりました。私は今一度大統領として、国民にその権威を示すことで、私も国家も先に進めるのだと思います。教えてくれてありがとうございます」
 大統領は完全に相手国の大統領を崇拝しているようだった。
――ふふふ、うまく行った――
 と、相手国の大統領はほくそ笑んでいた。
 元々、大統領がプライベートで同盟国とはいえ、他の国の国家元首と会うということはタブーだったはずだ。そんなことも知らないアクアフリーズ国の大統領は、権力だけはあるが、権威に関しては、その片鱗すら見ることのできない人だった。
 確かに自国民からすれば、一番安心できる大統領だったが、彼を選んだ理由のほとんどは、
「他に誰もいなかったから」
 という理由が六十パーセントを超えていた。
 しかも投票率は最低クラスで、これでは組織票が存在しても、誰も不思議には思わない。彼を大統領にするということは軍としても政府としても、共通の意見であった。その最大の理由は、
「利用しやすい」
 というもので、軍や政府からすれば、評価は最低だったのだ。
 そういう意味では、アレキサンダー国の臨時大統領よりもたちが悪い。自覚がまったくないからだ。
 他国の大統領でも、彼を見ているだけで、
――こいつは、傀儡君主だ――
 と思えてくるくらいだった。
――友達にはなれるかも知れないな――
 と感じたこともあって、彼を利用するのは気が引けるようだった。
 それでもアレキサンダー国の決定として、
「アクアフリーズ国を先鋒としてチャーリア国に侵攻させること」
 というのが、チャーリア国に侵攻するための大前提だった。
 アクアフリーズ国に侵攻させて、あとから侵攻する。その名分として、
「同盟国との協約に基づいての宣戦布告」
 ということにすれば、アレキサンダー国の対面も保たれるというものだ。
 だが、現在のアクアフリーズ国の軍と、チャーリア国の軍とを比較すれば、いくら奇襲であったとしても、緒戦はそれなりの戦果を得られるだろうが、すぐに形勢は逆転するだろう。それだけチャーリア国の軍は急速に整備されている。
 そうなってくると、アクアフリーズ国にとって難しいのは、
「侵攻のタイミング」
 であった。
 アクアフリーズ国が侵攻してすぐに侵攻すれば、こちらの被害も甚大になるに違いない。確かに緒戦はアクアフリーズ軍が優勢であろうが、あくまでも相手は我が国に対しての侵攻には備えているのだ。簡単には侵攻を許すはずがない。
 そうなると、せっかくアクアフリーズ国を侵攻させる意味がない。挟撃して、相手を殲滅できるのであれば、それが一番いいのだが、さすがにそこまではない。そもそもアレキサンダー国としては、相手の軍を殲滅させる必要などない。相手国に混乱を招いて、内乱でも起こってくれれば、こちらが深入りすることもなく、勝手に滅んでくれると思っているからだ。
 まずアクアフリーズ国に、神器奪還という大義名分のもとに侵攻してもらい、ある程度消耗したところで侵攻するのが一番だと思われた。
「いくらクーデターでできた政権とはいえ、元々神器によっての権威の継承だったのだから、国民が納得しないかも知れません。それに国民が神器というものを国の象徴であり、宝のように思っているとすれば、奪還は国家を挙げての義務になるんじゃないでしょうか? まずは国民を納得させるにはどうしたらいいかをお考えになる必要があると存じますが」
 と、アレキサンダー国の大統領が囁いた。
「それが戦争をする大義名分」
「ええ、我々もあなたがたに全面的に協力いたします。最後には笑ってあなたが神器を持って自国に凱旋している姿が目に見えてきそうです」
 そう言って目を瞑った相手を見ていると、自分も目を瞑って瞑想に耽ってしまいそうになっていた。
「これで、もう迷うことはありませんよね?」
 と言われて、
「大丈夫です」
 と胸を張った姿は、相手から見ると、さぞや滑稽に見えただろう。
――こんなにも簡単にプロパガンダが成功するなんて。国家元首同志のプライベートな話というのは、結構有効なのかも知れないな――
 と感じていた。
 アクアフリーズ国の大統領は、あやかしの自信を胸に抱いて帰国した。そこに待っていたのは、御前会議であり、それはすでに分かっていたことだけに驚きはしなかったが、本当であれば、
「何の会議なんだ?」
 と会議の意味が分からなかったことだろう。
 御前会議というのはそもそもそういうもので、すでに閣議決定していることを君主に事後報告することがほとんどで、その時の元首は発言しないというのが憲法で禁じられているわけではないが、慣例になっていた。
 この御前会議が戦争への最終決定になったようで、何事もなくすぐに終わった御前会議の次の日から、国は完全に臨戦態勢に入っていた。戦時体制と言ってもいいだろう。
 新生アクアフリーズ国にとっての初めての戦争。今までは国王のためだったが、今度は誰のために戦えばいいのか、軍は混乱していた。
 しかし、大統領のテレビ演説で、神器を取り戻すという大義名分が語られた時、国民は納得した。それだけ国民には神器の大切さが分かっていたようだ。
 大統領の裏の考えを国民の中で分かっている人がいただろうか? 官僚の中には分かっている人もいただろうが、何しろ君主制の国で主権は大統領にある。官僚の罷免は大統領の権限でもできたのだ。
 それを思うとおおっぴらに逆らう人はいなかった。しかし、今大統領がやろうとしていることが本当にアクアフリーズ国にとっていいことなのか疑問であった。少し考えれば、この戦争がアレキサンダー国の言いなりになっている姿を思い浮かべてしまうだろう。どうしてアレキサンダー国に味方をしなければいけないのか、疑問だった。
 確かに同じ立憲君主の国ではあるが、国家の体制は違っていた。アレキサンダー国は積極的にまわりの国に働きかけ、外交活動でうまくいかない場合は戦争を仕掛けるような危険な国ではあった。そういう意味ではWPCから目をつけられてもいた。それに比べてアクアフリーズ国は、クーデターこそ成功し、立憲君主の国に生まれ変わったが、現在は内政を固める段階で、他国とのかかわりに力を注ぐ時期ではなかった。同盟国はアレキサンダー国だけで、条約を結んでいる国も数少なかった。そんなアクアフリーズ国としては、国防という意味で、アレキサンダー国にすがるしかないのも事実だった。
 アクアフリーズ国との同盟にしても、閣議ではかなり論議が紛糾した。軍部はアレキサンダー国を推していたが、政府はアレキサンダー国と同盟を結ぶことは、諸外国の反感を買うとして反対だった。
 政府としては、少しでも外交交渉に訴えたかったが、軍部はそんな回りくどいやり方では国内もまとまっていないのに国防体制に時間をかけているようでは先に進まないとして早期のアレキサンダー国との同盟を望んだ。