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ジャスティスへのレクイエム(第2部)

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 民主国家に存在する大統領に比べれば圧倒的な権力を有しているが、その行使に関しては、憲法での制限がある。実際に大統領になってみると、精神的に落ち着かないのも当然かも知れない。
 初代大統領もそうだった。
「シュルツ長官やチャールズ国王は、ずっとこんな重圧の中で、国を纏めていったり、海外との交渉も行っていたりしたんだ」
 と思うと、不安になったりもした。
 国民から選ばれたことで、いくら君主とはいえ、国民に対しての責任はある。その思いは実際に国家元首になってみないと分からないものだ。
 初代大統領に選出された人は、アクアフリーズ王国があった頃には、まだ陸軍将校であった。
 階級も中佐であり、
「これから目指すは少将だ」
 と思っていた。
 少将くらいになると、軍での発言力は抜群に増す。それに軍の司令官として軍に入った時に目標としていた、
「司令官という立場」
 を達成できることになるのだ。
 それなのに、少将はおろか、大佐に昇進して少しして突貫で出来上がった憲法の下、大統領選挙が行われたのだが、その時にはいつの間にか担ぎだされて、大統領候補にされていた。
「どうして私なんかが?」
 と考えたが、
「軍としては、あなたを大統領に推したいと思います」
 と、軍令部からの通達だった。
「まさか大統領になれるなんて」
 少将よりも当然上である。何といっても国家元首であり、君主になれるのだ。
 だからこそ、自分にはありえないと思って、選挙戦も気楽に戦っていた。
「どうせダメでも、原隊復帰は許されている」
 大統領選への立候補は、落選した場合に軍に今のまま復帰できるというのが条件だった。
 そうでもなければ、選挙になど立候補するわけもない。今のまま落選して保障がなければせっかく今まで軍で積み重ねてきたものがふいになるからだ。
 大統領選を裏で操っていた中にアレキサンダー国の諜報部員がいることに彼は気付いていなかった。もっともそれも無理もないことで、アクアフリーズ国内部で、そのことに気付いている人はまずいなかっただろう。
 首尾よく、つまりはアレキサンダー国の目論み通りの大統領が誕生すると、アレキサンダー国は、いろいろアクアフリーズ国の内政干渉に乗り出してくる。だが、これも他の人に分からないように、大統領だけに進言することだった。アクアフリーズ国の立憲君主制は、アレキサンダー国の傀儡と言ってもよかったのだ。
 アクアフリーズ国でそのことを感じた人は、シュルツを頼ってチャーリア国に亡命した。最初はそのことに大統領も気付かなかったが、そのうちに気付くようになると、亡命禁止令を出して、さらに国が指定した国家にしか、国が認めなければ出国できないようにしてしまった。
 立憲ではありながら君主国なので、それくらいの権限は大統領にはあった。国交がある国でも、国家の許可、つまりは大統領の許可がなければ行くことができないことに対して国民の多くは反発したが、そこは君主国であることで、あっという間に制限が加えられた。そうなると、国民には何もできなくなる。
 アクアフリーズ国は、入国もかなり制限していた。特に異民族であったり、国交があっても制度の違う国、特に民主国家からの入国にはかなりの制限があった。
「自由を履き違えている国の国民が流入すると、わが国民に悪しき影響しか与えない」
 ということで、民主国家から見れば、まるで鎖国でもしているかのようにさえ見えるくらいだった。
「我が国の体制を脅かす一番の脅威は、民主国家だ」
 というのが、国家首脳の考え方で、この考え方は首脳部では全会一致でまとまったものだった。
「民主国家は、自由、正義を振りかざして、自分たちの利益に繋がるのであれば、平然と内政干渉してくる」
 と一人の官僚がいうと、
「その通りです。土足で上がり込んで、正義という言葉さえ口にすれば何をしてもいいという考えだ」
 ともう一人がいう。
 アクアフリーズ国が民主主義を「仮想敵」とし始めた頃は、首脳同士でこのような会話が横行していた。
「民主国家というのは、競争世界なので、自分たちの正義を通すことさえできれば、あとは自分たちの利益を公然と追及する。そこに人間的な感情なんかないんだ。数の理論とでも言えばいいのか。多数決という言葉がそれを象徴している。多数決で決まってしまうと、少数派は握り潰される。合法的に決まったこととしてね。だから民主国家には先がないんだ。私には限界しか見えてこない」
 というと、
「私もその通りだと思う。決してしまったことに対して異論を唱えることは女々しいことのように言われるが、本当はそこから先を協力して事に当たるというのが、本当の自由主義なんじゃないかって思うんだけどね」
「私も本当は自由という言葉は嫌いではないんだ。しかし、民主国家を見ていると、口先だけにしか思えないのは、正義という言葉を軽々しく用いすぎるからなのかも知れないな」
「自由と言ってもその後ろには競争という言葉がついているんだ。ただの自由だけなら収拾がつかなくなる。だから競争という言葉を外して、分かりやすくしているつもりなんだろうが、軽くしか思えてこないんだ。言葉だけで飾るのは、国民を欺いていると言っているようなものだよな」
 というと、
「そう考えると、絶対王政で自由がなかったように思えた以前のアクアフリーズ国だけど、今の体制よりも以前の体制の方がよかったような気がするよ」
「よせよ。そんなことを公然と口にすると、どこで誰が聞いているか分からないぞ」
 と急いで相手の言葉に注意を促した。
「そうなのか?」
「ああ、俺たちにだって監視の目はあるんだぞ」
 国民に対しては、絶えず監視の目が向いているのは官僚クラスであれば知っていた。国家に対する非難ももちろんだが、誹謗中傷などがあっては、政治を円滑に進めることができないからだ。
 国民だけではなく官僚にまでというのは冷静に考えれば当たり前のことだったのだが、この時の二人は少し精神的に疑念があった。
「こんな国に未来なんかあるのか?」
「それは俺にも分からない。だが、今度チャーリア国に攻め込むという話があるんだがな」
「俺は聞いていないぞ」
「じゃあ、本当に一部の人にしか公開していない情報なのかも知れないな」
「ということは、俺はその一部から除外されたということか?」
「そういうことになる」
 二人は黙り込んだ。
 すると、除外された方が、
「チャーリア国を攻めるのは、嫌だな」
「俺もそうなんだ。前の国王やシュルツ長官を好きではなかったが、今から考えれば、今の大統領よりもよほどよかった気がするんだ。少なくとも国家の未来に対して真剣に考えていたように思う。今の大統領は、国家というよりも自分の利益を優先しているように思うんだ。そんな人に君主としての権限を与えてもいいんだろうか?」
「具体的には?」
「民主国家を完全に敵視しているだろう? 王国時代にもその傾向はあったけど、どこが悪いのか研究していたんだ。今の体制ではただ排除に向かっているだけで、民主主義の正統を粛清したり、影で何をしているのか、分かったものではない」
「恐怖政治のようだ」