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ジャスティスへのレクイエム(第2部)

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「アクアフリーズ国は、元々王国だったのはご存じだと思いますが、今でも王朝は健在なんです。国王は亡命しましたけど、国王の弟が王家において権力を握っているんですが、まだ天下に号令を発するまでには至っていません。それを達成させてあげられるのは我々しかおらず、そのためにはチャーリア国を侵略する必要があるんです」
「チャーリア国というと、切れ者と評判のシュルツ首相がいるところですよね。彼は軍人としては尊敬しますが、政治家としてはいまいちな気がしてるんですよ」
「それはちょっと考えが違っているかも知れません、彼は政治家としても優秀で、国際平和連合でもしっかりとした発言を行っていましたからね。だから彼を甘く見ていては痛い目に遭いますよ」
 と政府高官がいうと、
「そういえば私が耳にしたところによると、新兵器開発で彼は隣国にそれを売り込んで、大きな成果を挙げたとも聞きました」
「彼は元々軍人だったので不思議はありませんが、その力が今証明されているということなんでしょうね」
 というと、
「人のことはどうでもいいからうちの閣僚にも同じような人がいてくれれば、私も苦労しないんだが……」
 という話の中で、次第にチャーリア国への侵攻が形になり始めてくるのだった。
 まず問題は、大義名分だった。
 いかに休戦状態であるとはいえ、いきなり侵攻を加えれば、他の国の反応はどうであろう?
 アレキサンダー国の政府内部で、次のような会話が、閣僚会議で話し合われていたようだ。そこには財閥系の要人も有識者として招かれていた。アレキサンダー国の政府高官の会議に財閥系の人が入ってくることは珍しいわけでもなく、この時もゲストとして招かれていた。
 もちろん、発言に規制はないが、基本的には財閥系の人たちの発言はほとんどないことの方が多かった。
「アレキサンダー国がチャーリア国に再度侵攻したって聞くけど、この時代にいきなり侵攻するには何か理由があるはずだってウワサされるでしょう?」
「それは大義名分がなかった場合ですよね?」
「ええ、そうなると我々に正義がないどころか、他の国からいろいろ詮索されると思うんですよ」
「というと?」
「チャーリア国には何か資源があるから、それを目指してアレキサンダー国が侵攻したってね。つまりは横取り目的だと思われる」
「そうなると他の国も黙ってはいませんよね。我々に後れを取るまいと、こちらに戦争を吹っかけてくるかも知れないし、逆にチャーリア国の味方につくかも知れない。今の我々とチャーリア国とでは軍事バランスとしてはどうなんでしょうね?」
「それに関しては、三年前に調べた感じでは、まだ少し我々の方が兵器や武器、弾薬の数やレベルでは勝っていると思います。ただこれは以前にチャーリア国に侵攻した時に比べて、明らかにあちらの方が進化していて、うちとしては横ばい状態です。しかもあれから三年が経っていますから、もう一度確認した方がいいと思います」
 というと、他の閣僚が、
「ということは、『攻撃するなら今』ということではないですか? 相手がどんどん強力になってきているのだったら、今のうちに叩いておかないと」
 というと、さらに話を聞いていた閣僚が、
「待ってください。戦争をするなら、まず同盟国との了承も必要ですし、協力も確約しておかないと危ないですよ。そういう意味でも相手がどのような国と同盟を結んでいて、どのような条約になっているかを調べるのも大切です」
 国交が断絶された状態では、諜報活動を行わない限り、それを知るすべはない。チャーリア国の方もそれくらいのことは分かっていて、アレキサンダー国に対して絶えず諜報を繰り返し、以前の戦争の二の前にならないように万全の準備を整えていた。
 しかも、チャーリア国は先制攻撃よりも専守防衛が主たる国なので、攻め込まれてからの方が強い、しかも、今は核兵器という相手をくじく兵器も保有していることから、
「攻めてくるなら負けるはずはない」
 と思っている。
 しかも、相手がアレキサンダー国ではなおさらのこと、以前の戦闘である程度の手の内は知り尽くしていいる。アレキサンダー国はここまでチャーリア国が自分たちの実力を分かっていて侵攻を待ち構えているかまで考えてはいない。何しろ、これから侵攻を考えようというのだから、ある意味では遅すぎるくらいだ。
 チャーリア国はアレキサンダー国から侵攻された時のシュミレーションは何度も行っている。何といっても今のチャーリア国にとっての仮想敵国はアレキサンダー国なのだから当たり前のことだ。
「飛んで火にいる夏の虫とはこのことだ。一網打尽にしてくれる」
 軍の司令官は、いつアレキサンダー国が攻めてきてもいいように待ち構えていた。
 アレキサンダー国はそんなことなどまったく知らず、会議に勤しんでいた。
 戦争をやりたいと思っているのは政府というよりも財閥連中だった。彼らにとって生き残るには戦争をして兵器が売れることが大切だった。侵攻を受けると自分たちの身も危ないが、侵攻をかけるのだから、まずはこちらに火の粉が降ってくることはない。そう思うと、軍部に対しても政府に対しても強気の発言ができるのだ。
 しかも、軍部は自国の財閥を信じきっている。そして財閥からは安価で兵器を購入している関係もあって、財閥とは秘密の関係にもあった。
 軍部は財閥との関係上、戦争を辞さない構えを示していた。完全に政府よりも財閥に近い関係にある軍部は、何とか財閥と組んで、チャーリア国に攻め込みたかった。
 これは前回のリベンジでもある。
 せっかく侵攻したのに、休戦になってしまって中途半端に終わってしまったことで軍部は国民から信頼されない立場になっていたのだ。
 軍部としても、そんな自分たちの立場を国民に示しておかないと、国家から上層部がリストラされるケースがあるからだ。
 アレキサンダー国は完全に達成されてこその部となっているので、数字が大切だった。人情などは存在しないだけに、結束は固いのだろうが、血も涙もない人事には、誰もがビクビクしている状況だった。
 しかも、政府は口には出さないが軍部を嫌っている。軍部は元々の政府なのだが、それは数年前までのこと、民主化の波が押し寄せてきた関係で、政府に官僚や民間からの転用は行われ、軍事政権は崩壊していた。そういう意味で、これまで軍事政権の下で困窮してきたい貧困層の人たちが政府を応援するようになって、さらに軍部の力は衰えていった。軍部もさすがに最近になって国民の目や得票を気にするようになってきたということである。
「軍なんてなくたっていいんじゃないか?」
 とまで言われるようになったくらいで、これはさすがに極端だが、それだけ軍は嫌われているということだ。
 そこに財閥は目をつけた。
 国民の目が民主化に向かっているのは、財閥にとってもありがたくないことだ。それで軍部と手を組んでもう一度軍部による政府の確立を目指そうとしている。それには戦争を行って、確固たる戦果が必要になってくるのだ。