ジャスティスへのレクイエム(第2部)
と言われるが、それは終わり方をいかに自分の方に有利に終わらせるかということが重要である。
ひとたび戦争を始めるということは、国家予算の投入や、国民を総動員したりして、戦時体制に持っていくということである。国家を挙げての大事業に、何ら利益もなく戦争を終わらせるということは、始めたことにさかのぼっての国家の罪となるのである。
ただ、戦争を終わらせるということは、被害を最小限に食い止めるということでもあり、国家の方針ともあながちすれ違っているわけでもない。それ以上に戦争遂行者と政府との間に隔たりがあるとなかなかまとまらず、ズルズルと戦争が悪化していくかも知れない状況で、暗中模索していても仕方のないことだろう。
今回の実験は、実際に戦争状態の続いている国で、しかも科学者や政治家の中にニコライと同じ考えを持っている国に任せることにしたのは当然のことだった。
考え方としては同志の国であり、もし国内に同じような開発を行う機関があって開発のテストをお願いしてくれば、二つ返事で了解したことだろう。
だが、今回は兵器の輸入であった。
しかも、実践を最終テストとして考えているのだから、未完成のものを輸入したことになる。失敗すれば国家的に問題になるのは必至で、よく引き受けてくれたものだった。ただそこには上層部での目に見えない根回しや忖度があったことに違いはない。そういう意味でも、これが核兵器であるということは、相手の政府にも秘密にしておかなければならず、本当に一部の人間だけしか知らない機密事項であった。
実際に使用された兵器の効果は、戦闘機に載せられたビデオカメラによって撮影され、閣議の会議場にリアルタイムで写し出された。
「おお」
という感嘆の声が聞こえる中、映像には相手戦闘機が爆発することもなく、急に減速し、エンジンも停止し、飛行不可能となって墜落していく姿が見えた。
搭乗員はそれぞれパラシュートで脱出を試みる。自分の機が爆発したわけではないので、脱出にもさほど苦労はしなかった。
「搭乗員は全員無事のようです。さっそく捕縛に参ります」
と、無電が入った。
その無電は戦闘を指揮している司令官からのもので、司令官も同じ映像を見ながら、現場で指揮をしていたのだ。
その横にはニコライがいて、いろいろと指示を与えている。シュルツと教授の二人は、まさに今閣議の会議室に招かれていた。
とは言っても来賓というわけではなく、
「兵器を売り込みに来た商人」
としての立場で、モニターを見ながら補足説明を加えたり、閣僚からの質問を受け付けて、それに答えたりするためだった。
まず最初にニコライが司令官に連れられて、実際に戦闘機の墜落現場に赴いた。それを見た司令官が一言、
「何だこれは。いったいどうなっているんだ?」
と叫んでいた。
それを聞いてニコライは無表情ではあったが、心の中ではニンマリと微笑んでいた。この微笑みはしてやったりというよりも、単純に相手の反応に共感していたのだ。ここでしてやったりという気持ちになったら、相手に気持ちを見透かされてしまう可能性があったからだ。
相手は何と言っても軍の司令官。人を見る目はあるだろう。そんな相手に自分のような学者が相手をしても、すぐに気持ちを見透かされてしまうのではないかと思ったからだ。
司令官は墜落した戦闘機の焦げ目に目を向けているのではない。逆に焦げていないところに注目していた。
「これだけの高さから墜落したのだから、本来ならもっとバラバラになっていたり、炎上していて姿が確認できなくなっていそうなものだが、ここまで原型をとどめているだけでも魔法のようなのに」
と驚いていたのだ。
その次の言葉をニコライは待った。司令官は完全に言葉の途中だったからである。
「それにしても、焦げている部分と焦げていない部分があまりにもハッキリしていて、焦げていない部分、これはいったいどういうことなんだ? まるで溶け堕ちているように見えるけど」
という驚きだったのだ。
「普通なら漕げ落ちるものなのだろうが、溶け落ちるとはどういうことか。金属部分がまるでプラスチックのようであり、そのプラスシックが腐敗して溶けたような感じになるのは見たことがあるが、金属がこんな風になるのは初めて見たかも知れない。しかもこんなに短時間の間に」
と続けた。
「短時間だから兵器になるんです。これを相手が見た時、どのように感じるでしょうね。戦争をするのが怖くなると思いませんか?」
壊れてしまって木端微塵になっているというのであれば、現象的には理解できるが、溶解してしまったというのは理解できない。戦争という特殊な精神上やいで理解不能な状況を見て、戦意が喪失しないとは考えにくいだろう。
それを見て、実験に使用してくれた国は喜んだ。
「さっそく、これを使うことにします」
と言って、司令官はまだ決まってもいない兵器に戦争での勝利を確信したかのようだったが、その様子を見て、
――なんとなく不安だ。何が不安なのかは分からないが、この人を見ていると不安しかないのはなぜだろう?
とニコライは考えた。
同じ頃、閣僚会議室でも、教授の説明とともに、兵器の導入について話し合われていた。もちろん、現場の司令官からの意見も踏襲した上でのことであるが、司令官としては何においても兵器の購入を前提に話しているようだったので、実際に効果を目の当たりにした軍の司令官がいうのだからという思いも閣僚たちにはあったようだ。
「どうですか? 反対意見はございますか?」
と議長が閣僚に話しかける。
閣僚会議とは言いながら、なかなか議題に上がった当事者でなければ発言がないのがこの会議の特徴だった。
「反対意見がないようでしたら、次の閣議での議題は、この件といたします」
と言って、閉幕となった。
次回の閣議ということであるが、この国の政策は一度の会議で決定することはない。まず一度召集されたメンバーで話し合いを行い、今度は全体での会議となる。要するに国会の場で審議されるということだ。
この場はあくまでも政府としての内閣の場、つまりは行政であったり、実務としての会議である。しかし、次は本当に国の立法に関わるところ、ここで賛成されれば国として承認され、法律化されたも同然であった。
国会閣議は翌週開かれたが、ここでも全会一致でチャーリア国の兵器を導入することで意見が一致した。
だが、このことは世界的には伏せている。なぜならこの国とチャーリア国との間に正式な国交は開かれていない。近い将来開かれる予定にはなっているのだが。実際にはまだである。
国際法として明記されてはいないが、国際ルールとして、
「国交のない国同士での武器や兵器の売買は原則禁止」
ということになっているからである。
実際にチャーリア国はまだできてから数年しか経っていなかった。国際的には以前のアクアフリーズ王国と国交を結んでいた国であっても、チャーリア国は元首が同じというだけで、まったく別の国家という認識だった。
シュルツは分かっていて、それをこの国に売り込んだのだ・
作品名:ジャスティスへのレクイエム(第2部) 作家名:森本晃次