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ジャスティスへのレクイエム(第一部)

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 もし、シュルツが秘密組織の存在を誰であろうと知られてしまうことを恐れているのであれば、学者は殺されても仕方がない状態である。
「もし、私があなたの立場だったら、その学者を殺すという選択をしたかも知れないですね」
 と、シュルツが自分に危害を加えないということを確信した時、シュルツに語った。
「あなたならそういうと思っていましたよ。だから私はあなたに危害を加えるつもりはありません。あなたが我が国の秘密を話すということは百パーセントないと私は思っていますからね」
 というシュルツに対し、
「どうして百パーセントなどと言えるんですか? 百パーセントなどというのは軽々しく口にできるものではないと思いますが」
 と学者が答えると、
「あなたは長所と短所が背中合わせであることと、鏡を左右、あるいは前後に置いた時、映し出される自分の姿を無限だと言い切れる人のように思ったからです。そういう考えの人であれば、私は百パーセントを公言してもいいと思っているんですよ」
 というシュルツに対し、
「私にはよく分かりません」
 と正直に答えると、
「そう、そのあなたの正直さが私に百パーセントを悟らせるんですよ」
 と言われた。
「なるほど、私はよほどの相手ではないと、本当に正直になれないと思っていますからね。それが長官であるということは私にとっていいことだと思えてきましたよ」
「それはありがとう。私はあなたの考え方の中に入ることができると思っていますからね。言わなくても分かる相手というのは、そうはいませんからね」
 というシュルツの言葉に、学者は何度も頷いた。
――この人は政治家であり、人徳者でもあるんだ。こんな人が国家元首のそばにいて、そして秘密組織を指揮しているんだったら、この国こそ理想の国家を形成できるのではないかと思える――
 と感じていた。
 学者は、シュルツの言った百パーセントという言葉の本当の意味は、自分には永遠に分からないと思いながらも、シュルツへの信頼度が自分の中で百パーセントになっているという矛盾を感じていたのだ。
 それから一か月の間にグレートバリア国のクーデターは沈静化していた。反乱軍は国のほとんどの土地を制圧し、声明を他国宛に発表していた。
 内容として、クーデターの主旨は、現在の帝政から立憲君主制の国への転換だった。いきなりの共和制を敷くというわけではないので、それほど難しいことではないかと思えたが、立憲君主制ということなので、少なくとも憲法は必要だった。
 グレートバリア国には憲法は存在しない。それぞれの私法としての民事、刑事、その他の法律はあくまでも君主である皇帝の承認の元に構成されることになっていた。
 さすがにすべての訴訟や紛争を、皇帝自らすべてを裁可できるわけではないので、皇室内に裁定のための司法機関が存在した。つまりは皇室がすべての法律を司っていて、臣民の権利義務はすべて皇室の配下にしか成り立たないのだった。
 アクアフリーズ王国をはじめとした他の国も、グレートバリア国には憲法が存在し、憲法の元での君主だと思っていただけに、その話を聞いてびっくりした。
「そんなまさか。私の情報とはかなり違っています」
 と、シュルツも焦っていた。
 シュルツを焦らせるほど、グレートバリア国は今までダークな部分が完璧だったということになるのだが、そのせいもあってか、国際社会は最初反乱軍を悪として見ていたが、クーデターの発表声明を見て、ほとんどの国が反乱軍に同情的になった。
「それなら仕方がないですね」
 反乱が起こってから、国際社会の間で開かれた会議は数回を数えたが、その会議では具体的な善後策が話し合われたわけではなかった。時間だけが無駄に進んでしまい、時間の経過を各国首脳が感じている以上、泥沼に入ってきていることを皆が自覚してしまっていたので、結論が出るはずもなかった。
 しかし、声明文の発表を見て、善後策のきっかけが話し合われるのではないかと感じた国は一つや二つではなかっただろう。
 声明文は主旨の後に、具体的な内容も書かれていた。
 皇帝を処刑する日を具体的に列記していた。
 失効日は二か月後の革命開始の日であり、その日を持って、グレートバリア帝国の滅亡を宣言すると書かれていた。
 新しい国名は、それまでに決めるとも書かれていて、君主とどのようにするかというのも現在検討中ということだった。
 だが、案として挙がっていることとして、大統領制は敷かないというもので、議院内閣制を敷くことで、必然的に国家元首を首相に委ねることになるという。
 首相を国家元首として置く国は、そのほとんどが共和制を敷いているのだが、首相が国家元首での立憲君主制というのもありではないかと声明文では謳っていた。
 アクアフリーズ国内の政治学の専門家も、
「国家の体制としては、今までにほとんどなかったケースですね。でもなかったわけではないんです。実際に存在していて、過去には平和を築いたという例もあるくらいです。共和制というのは聞こえはいいですが、自由というのはそれだけいろいろなパターンを秘めていて、権利が義務を凌駕してしまうと、貧富の差が激しくなったり、一部の人間が得をするという世界が形成されます。そうなると、平和というのは風前のともしびになってしまうことが往々にしてあります。それが民主制、共和制の脆いところでもあるんです。そういう意味で、あの国がどのような政治運営を行うか、興味深いところですね」
 と話をしていた。
 実際にそれから数か月で、グレートバリア国の水面下では他国にいろいろ交渉を行っていて、着実に成果を上げていた。
 それは、今までの君主に搾取されていたという反乱軍に好意的な国家が多かったということで、秘密主義にしていた皇帝側にとって、まったく予期もしていなかった展開であろう。
 もちろん、我が国にも反乱軍からの接触はあった。国王自ら彼らに会って話もした。だが、チャールズもシュルツも反乱軍に対して好意的なイメージは持っていなかった。あくまでも武力で国家を転覆させたというイメージが強いからだ。やってきた交渉相手もそれくらいは分かっていたかも知れないが、他の国の反応が完全に頭の中にあって、我が国も決して敵対する相手には見えなかったことだろう。
 彼らは他の国同様の要求を他の国にしたのと同じように済ませていった。それは完全に形式的なことで、受ける方からすれば、茶番にしか見えなかった。そこまで彼らは見えていなかったことが、チャールズとシュルツには滑稽に思えた。だが、これからのことを思うと滑稽に感じているだけではいけない。
「明日は我が身」
 だということを、認識しなければいけなかったからだ。
 日にちが経つのは早いもの。あっという間にクーデターから三か月が経ち、彼らの生命通りに刑の執行が行われた。弁護人の有無はおろか、裁判すらまともに行われずの執行、反乱軍にもはや法律の概念などあるのだろうか?
 憲法の草案も着々と組み立てられているようだったが、それよりも急速に進んでいる時間に、反乱軍はどう感じていただろう。