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ジャスティスへのレクイエム(第一部)

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「もちろんそうでございます。永世中立国としての我が国は、軍隊はあくまでも国防ということに従事しております。ただ、国際社会の平和を乱す国家を懲らしめて世界平和を目指すために組織される国際連合軍に参加することは、ひいては最終的な国防に繋がると思っております。いわゆる『攻めこそ、最大の防御』ということでしょうか?」
 というシュルツに、
「その言葉は聞いたことがあったが、我が国の精神にはそぐわないものだとずっと思っていたんだ。平和主義の我が国で、どうして攻めという言葉が出てくるのかってね」
 とチャールズ国王は聞いた。
「言葉というのは、時として同じ言葉でも正反対のことを示すことがあります。それはあくまでも背中合わせという意味でお考えいただければいいと思っておりますが、チャールズ様はウスウスお気づきではないかと思っております」
 というシュルツに対して、
「私は、長所と短所という言葉を考えた時、正反対でありながら、その実は背中合わせではないかと思っているんだ。実際に教育を受けた時にも、似たような話をしてくれた先生がいたような気がするんだ。ハッキリとした言葉では言わなかったんだけど」
 とチャールズは答えた。
「そうでございましょう」
 とシュルツは答えたが、よく考えればチャールズは教育を受けていた時、そのほとんどが曖昧な言葉で終始していたように思えた。それをチャールズは、
――私に考えさせようという意思が働いているんだろうな――
 と感じていたが、その考えに間違いはなかった。
 シュルツは続けた。
「もう一つ考え方としてですが、チャールズ様は自分の前後、あるいは左右に鏡をそれぞれ置いた時、その鏡には何が写るとお考えですか?」
 チャールズは少し考えてから、
「自分の姿が無限に映し出されるんじゃないか?」
 と答えた。
 チャールズは本当は即答できるだけの想像力を持っていて、実際に答えたことをすぐに想像できていたが、敢えて間を取って答えた。
「その通りですね。でも、映し出された自分の姿はどんどん小さくなっていって、最後には見えなくなってしまうでしょうね。それでも無限だと言い切れますか?」
 と言って、シュルツは少し笑った。
「私は言えると思っている。どんなに小さくなろうが消えるわけではないのだから、無限という言葉を否定することはできないと思うんだ」
 というと、
「その通りです。つまりは、『限りなく小さくなった自分』がそこに存在しているんです。それは消えてなくなるものではないんです。それをなくなってしまうという勘違いをしてしまうと、長所と短所が紙一重だという考えに永遠に行き着かないと思いますよ」
 とシュルツは言った。
 チャールズはその理屈は分かった気がしたが、なぜ今シュルツがそのことを自分に言うのか分からなかった。
 今は分かっているような気になっているが、本当の真髄までは分かっていないのかも知れない。その真髄を分かる時がくれば、その時こそ本当に自分が国家元首として平和を目指すアクアフリーズ国の国王として君臨できるのではないかと思うのだった。
 チャールズはシュルツのことを全面的に信頼していて、尊敬もしている。国王になってからも一番の側近として彼を絶えず自分のそばに置いているのも当たり前だと言えるだろう。
 シュルツも、そんなチャールズの気持ちを痛いほど分かっている。実際に先代国王からも寵愛され、遣えてきたことが、今役立っているということを分かっているからだ。
 シュルツ長官は、今でこそ肩書きとしては軍部の総元締めのようになっているが、それはあくまでも兼任というべきで、実際には国王の相談役としての存在が大きいのだった。
 そのことは他国には秘密主義のアクアフリーズ王国の中でもあからさまに表に出していることで、
「我が国の秘密主義はあくまでも平和主義を貫くためのものなので、平和を脅かさないことは表に出しても差し支えない」
 と、チャールズも教育を受けていた。
 だが、そんな平和主義を公然と宣言しているアクアフリーズ王国であるが、世界の中にはこの国を、
「胡散臭い国」
 として見ているところもあった。
 そのほとんどは国家としてはまだまだ後進国で、文明という言葉とは縁遠い国が多かった。
 王国として君臨している国で、先進国と呼ばれるのは実際には我が国だけだった。他の国は自国の産業が世界一であることから繁栄を保たれていて、逆に言えば、唯一の力だけで存在しているようなものである。そんな国が先進国に仲間入りできるはずもなく、そういう意味では我が国は世界の王国の中でもモデルとされるべき地位にいる国と言えるのではないだろうか。
 ただ、それは国家としての秩序を理解している国にだから言えることで、昔からの伝統に固執していて、他の先進国の文明を受け入れる姿勢のない国には、孤立という道しか残っていない。そのため、同じ体制でありながら、他の国の文明を受け入れて繁栄している国を見ると、嫉妬ややっかみから、胡散臭い国としての認識しか見えてこないのも当然と言えるだろう。
 かと言って、一つの国家にはいろいろな人がいる。絶対王制のこの国を、独裁国家としてしか思えない人も少なくはない。どんなに国家の繁栄を尽くそうとも、個人個人に起こる貧富の差であったり、差別的な状況であったりは、避けて通ることのできないものである。
 しかも、そんな彼らを国家では監視するシステムが出来上がっている。クーデターが起こらないように見張っているのだが、見張られている方も自分たちが見張られていることを分かっているので、さらに固執してしまうのは当然のことだ。
 シュルツは表向きは軍部の総元締めという立場であるが、裏の組織も統括していた。むしろ裏の組織の統括の方が難しい。表には出してはいけないものだからだ。
 この組織に関しては、国王の感知するところではない。むしろ国王も知らない組織が存在していると言ってもいいだろう。ただ、裏組織の存在自体は国王にも話をしているが、その本当の存在意義を知っているのは、国王を含まない本当に限られた人だけだった。
 そういう意味では本当の絶対王制の国というわけではないが、世界に歴史上存在していた絶対王政の国というのは、類に漏れることなく、国王も知らない秘密組織が存在していたということは、最近の歴史学から証明されようとしていた。
 最初はシュルツはこの事実が気になっていた。
 国王も知らない組織の存在は絶対に知られてはいけないのに、歴史で公表されてしまってはせっかくの秘密組織の意味がなくなってしまう。
 だが、歴史学者はそのことを証明するという活動はしていたが、公にするということはしなかった。
「これを公表するということは、世界平和を風前のともしびにしてしまうだけの力があることなのかも知れませんからね」
 と、一人の歴史学者がシュルツに話した。
 彼はアクアフリーズ王国に秘密組織があることを看過していて、知っていて誰にも話をしなかった。ただ事実を確かめたいという一心で、シュルツに対談を申し込んできた。
 彼は死を覚悟していたのかも知れない。