小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ジャスティスへのレクイエム(第一部)

INDEX|5ページ/31ページ|

次のページ前のページ
 

「我が国に対しては何もありませんので今のところは問題ございません。どうやら以前から暗躍していた立憲君主を目論む団体が起こしたクーデターのようですので、帝政が崩れるというわけではないようです」
 シュルツが落ち着いているわけが分かった。
「あの国は元々憲法があるはずなので、立憲君主だと思っていたが違ったのかい?」
 とチャールズが聞くと、
「ええ、憲法があって、いくら皇帝であっても憲法に逆らうことはできませんが、ただそれは表向きで、憲法で規定されている皇帝の権利は絶対のものなので、絶対君主と言ってもいい体制でした」
 とシュルツは話した。
「じゃあ、皇帝の地位は安泰だと思っていいのかな?」
「ええ、立憲君主の団体は、皇帝の地位を脅かすわけではなく、皇帝の権利を制限し、改憲によって表も裏も立憲君主の国にしようとしている団体なんです。ただ、その中でも彼らは一枚岩というわけではなく、烏合の衆なので、過激な連中と穏健派とが存在していました」
「なるほど」
「今までは、その二つの存在がうまくバランスを保っていたので、紛争は発生しなかったが、どうやら過激な連中が行動を起こしたようですね」
「それで皇帝は? 確かあそこはネル皇帝ではなかったかな?」
「ええ、そうです。ネル皇帝は宮中で監禁されているようですが、拘束されているというわけではなく、ある程度は自由なようです。元々立憲君主派の連中には、皇帝を滅ぼそうという意思があるわけではありませんからね」
「そうだよな」
 ネル皇帝というのは、チャールズ国王よりも五つ年上だった。何度か宮廷内のパーティで会ったこともあれば、地域連盟会議で一緒になったこともあった。
 親密な会話をしたことはなく、形式的な挨拶にとどまったが、それはお互いに自分たちの立場を分かっていることから、余計なことは口にできないという思いが強かったからだろう。
「チャールズ様は、グレートバリア帝国のことはあまりご存じではなかったでしょうか?」
 隣国ではありながら、あまりグレートバリア帝国のことを詳しく教えられたというわけでもない。そのことを一番分かっているはずのシュルツ長官がこのようなぼかしたような言い方をするのは、何か含みがあるからではないかと、チャールズは感じた。
「ああ、そうだ。あまり知らない。何しろ曖昧にしか教えられていないからね」
 というと、
「どのあたりまでご存じですか?」
 とシュルツが言った。
 どうやら、シュルツとすれば、これを機会にグレートバリア帝国のことを話してくれようとしているのかも知れない。だからチャールズがどれほど知っているかということを確認したいのだろう。中途半端にしか教えられていないのが分かっているので、下手なことを言えば、余計な誤解を招くと考えたのだろう。
「あの国は、昔から我が国とは共存を続けてきて、王家も親戚のような関係にあるような話を聞いていました」
 というと、
「そうですか」
 と軽くシュルツは頷いた。
「そうではないのか?」
 と訊ねると、
「確かにそんな時期もございました。元々我が国とグレートバリア帝国とは同じ国だったのでございます。それがちょっとした兄弟喧嘩が元で大きな戦争に発展し、ついには国家が分断されたんです」
「そうだったんだ」
「チャールズ様は、我が国が国家元首を国王といい、グレートバリア帝国の国家元首を皇帝ということに疑問を感じたことはありませんでしたか?」
 と聞かれて、
「それが当たり前だと思っていたからね。皇帝も国王も同じ地位なんだろうから、別に気にしたことはなかったよ」
 と言った。
 確かに帝王学を勉強した時、国王と皇帝の違いや、その地位について教わったという記憶はない。たぶん、同じものとして教えられたことを何も感じずにスルーしたので記憶に残っていないのであろう。
「実は、この地域でいうところの国王と皇帝とではれっきとした違いが存在するのであります」
 とシュルツは言った。
「どういうことだ?」
「先ほども言いましたが、元々我が国とグレートバリア帝国とは同じ国でした。そこで分裂したんですが、元々の国家は我が国のアクアフリーズ王国で、分断されて新しくできた国家がグレートバリア帝国になります」
 シュルツは淡々と話す。
 シュルツは続けた。
「先ほど兄弟喧嘩と言いましたが、その時の国王が兄である我が国の国王の祖先になります。そして新しく建国された国家の方が弟になり、弟は自分を皇帝と名乗り、建国された国家を帝国としたのです」
「じゃあ、国王は皇帝よりも偉いんだね?」
 というと、
「一概にはそうは言えません。あくまでもこの地域で言われていることを申しているだけでございます。それだけ世界というのは広うございます」
 とシュルツは答えた。
「政府の体制とかはどうなっているんだい?」
 とチャールズが聞くと、
「我が国の国家元首は申すまでもなく国王であるチャールズ様ですが、実際の代表者としては、首相というのが存在します。いわゆる議員内閣制と言われるものですね。お隣のグレートバリア帝国では、皇帝が一番上にいますが、その下に大統領というのが存在します。実は、これは世界でもここだけのことであって、帝政を敷いている国に、大統領がいるというのは他ではありえません」
「どうしてなんだい?」
「大統領というのは、首相よりも力は絶大なんです。軍部を統括したり、閣議に架けなくても大統領命令というものを出すことができて、もちろん憲法の範囲内なんですけどね。そういう意味では大統領制の国は、一種の立憲君主に近いと言ってもいいかも知れません」
 とシュルツは言った。
「じゃあ、グレートバリア帝国は立憲君主ではないと?」
「ええ、皇帝が存在する以上、皇帝の権力は絶対で、ただ、非常事態などでは大統領令を発することができて、大統領令に関しては、皇帝も否定することができません。基本は承認するだけなんです」
「それでも、絶対君主になるのか?」
「ええ、大統領はあくまでも皇帝の下に位置していますからね。大統領といえども、皇帝の命令には逆らえないんですよ」
「うーん。よく分からない政治体制だね」
 とチャールズは答えた。
 それも無理もないことであり、世界のどこを探してもこんなおかしな国家は他にはないだろう。
「だから、今まで反乱も何度となく思っています。でも最後は皇帝の軍隊が出てきて、平定して終わりなんですよ。皇帝の軍隊はあくまでも内政面だけのもので、その主な任務は皇帝の保護なんですよ。国の軍隊は国家防衛の任務についていて、別に大統領の軍隊ではない。皇帝と大統領の内紛になれば、当然強いのは皇帝ということになります」
 とシュルツは言った。
「なるほど、それで国家の安定と平和が保たれているわけなんだな?」
「そういうことです」
「我が国の場合は?」
 というチャールズに対して、
「我が国の場合、軍隊はすべて国王直轄になっていますからね。内政面でも対外面でも国王の意思が優先されます。本当の絶対君主国というわけですね」
 チャールズにも分かっていることだったが、話の流れで再確認したかったのだ。
「でも、どうしてグレートバリア帝国のことを私は教えられたわけではないんだ?」