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ジャスティスへのレクイエム(第一部)

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 チャールズも子供の頃からの教育で、そのしきたりを守ることが自分の責務であることを認識していた。だから、学生の頃もなるべく女性を好きにならないように心得ていた。好きになってしまうと自分が辛いというのもあるし、まだ未熟な自分に言い寄ってくる女の中には百戦錬磨の悪女もいるからだった。
 実際にチャールズに言い寄ってくる女性も少なくはなかった。中には身の程知らずを思わせる女性もいて、チャールズは話をするのも億劫な気分にさせられたりもした。それでもさすがに王位継承者。誰にでも愛想を振りまくことを忘れずに、怒りを抑える性格になっていた。そんなチャールズの王位継承者としての辛さを知っているのは数少なく、いつもそばにいるシュルツくらいのものだったのかも知れない。
 アクアフリーズ国では、国王は婚礼を迎えるまでには童貞を捨てることは責務となっていた。本気の恋愛ができない代わりに、肉体的な欲求不満を持たないように「筆おろし」の相手は決まっていて、側室となる女性たちもすでに決定していた。すなわち国王には好きになった相手を妃にしたり側室にしたりはできないのだった。
 チャールズという男は女性に対して律儀なタイプの男性だったが、側室の存在に疑問を持つことはなかった。彼女たちの一人一人には優しく、チャールズが恋をしなくとも、側室の方がチャールズに惚れてしまうという現象は起こっていたようだ。
 中には側室同士で確執があったのも事実だったが、チャールズは知らなかった。いち早く側室内の異変に気付いたシュルツが、うまく収めていたのだ。そもそも確執を生む女性にとってチャールズという男性に対しての確執ではなく、自分の威厳に対しての確執だったので、金や名誉をちらつかせると、女性たちは黙ってしまう。そのことを一番分かっていたのもシュルツだったのだ。
 チャールズの正室にマリア妃が決まったのは、チャールズの十九歳の誕生日だった。マリア妃というのは、隣国の姫ではなく、アクアフリーズ王国とちょうどその頃に同盟を結んだ国の姫で、政略結婚というよりも、和平の使者としてアクアフリーズ王国に迎えられたことは、送り出す方にとってもありがたいことで、この婚礼は当時の世界の情勢の中では、ほのぼのとしたニュースとして伝えられたのだった。
 マリア妃は当時まだ十三歳。結婚というにはあまりにも若かったのだが、アクアフリーズ王国では気にはしていなかった。実際に過去の皇太子の婚礼の中で、最年少は十一歳で輿入れしてきた姫もいた。それを思えば十三歳というのは決して幼くはなかった。
 ただ、マリア妃には年齢では言い表せない幼さがあった。見た目は確かに十三歳なのだが、その雰囲気は怯えよりもおしとやかさが表に出ていて、度胸という点では肝が据わっているのではないかと思えるほどだった。
 この国では、婚礼の前に妃になる人は早めに入国して、妃になるための教育を受けることが習わしになっている。逆にこの国の姫が他国に輿入れする時も、相手の国のしきたりを覚えるために早めに相手の国に行くことが慣例となっていた。だから、マリアが早めに入国したことは別に珍しいことではなく、ただその若さから妃が寂しくならないかということをまわりが気を遣わなければいけないことが大変だった。
 だが、実際にはそれは取り越し苦労だった。マリアは最初から覚悟を決めてやってきたことは一目瞭然で、まわりが却って恐縮してしまう様子をシュルツは微笑ましく思えるほどだった。
「これでいいんだ」
 と、チャールズとの婚礼を前に、マリアには何の問題もないことが分かり、ホッとしていた。
 チャールズはマリアとは婚礼の時まで会わないのが慣例となっている。もちろん写真や教育の過程などは報告を受けているし、メールのやり取りくらいは許されている。あくまでも会うという行為が婚礼の時が最初であればいいという程度のことだった。
 チャールズはマリアの幼さを見るたびに、自分が童貞を失った時のことを思い出していた。
 あれはチャールズが十五歳の頃のことだった。十五歳の誕生日に童貞喪失という儀式があるのもこの国の慣例であり、実際の成人とは別に身体の成人として認識される年齢が王族では十五歳ということになっていた。
 十五歳というと、身体は完全に大人になっている。女性に対しての興味も他の男性同様にあるのは当たり前のことだった。却ってない方がおかしなくらいで、それはそれで大きな問題だった。チャールズの成長における精神的な部分も肉体的な部分も把握しているのはシュルツであり、シュルツは十五歳になるまでのチャールズに何ら心配を抱くことはなかった。
 チャールズの筆おろしの相手は、いずれ側室となる女で、彼女の年齢は二十歳だった。三十歳になったチャールズから見た五つ年上とその頃に感じた五つ年上とでは天と地ほどの差があり、彼女は姉というよりも母親に近い感覚の尊厳を感じていた。
 チャールズの相手の名前はマーガレットと言った。それが本名なのかどうか分からなかったが、
「綺麗な名前だね」
 とチャールズに言われて、マーガレットは柄にもなく照れていたようだ。
「そんなことおっしゃられるなんて、光栄ですわ」
 女性を知らないチャールズには、どうしても身構えてしまう姿勢が見られ、マーガレットの態度にその本意を看過することはできなかった。
 それも当たり前のことであり。最初から看過されてしまうと、マーガレットとしても立場がないというものだ。それでも照れていたのは本当のことで、相手がそれを看過できないと分かりながらも、
――知られたくない――
 と感じた自分に、まだ乙女チックな部分が残っていたことを知らされて、ビックリさせられた。
「マーガレットって呼んでいいかい?」
 チャールズは恥ずかしがりながらそう言った。
「ええ、いいわよ」
 とマーガレットは下着姿になっているチャールズの身体を余すことなく愛撫を加えながら答えた。
 マーガレットも下着姿だった。
 この国での童貞喪失の儀式は、寝ている女の寝室に皇太子が忍んで行くというもので、それは女性に委ねることが国王の性行為であるという認識からくるもので、逆に国王の側室になる人というのは、一応の英才教育だったり、武道などにかけても長けていた。いざとなれば国王を身を持って助けるという任務も一緒に帯びていたからだ。
 マーガレットも護身術はもちろん、国王を守れるだけの訓練を、秘密警察から受けていた。この国の秘密警察とは軍部とも警察とも関係のない、皇室が独自に持っている軍隊と警察機関を兼ね備えた組織であった。
 いわゆる「国王親衛隊」とでもいうべきであろうか、その団体からの訓練を受けていることで彼女たちも皇室ではないが、一番皇室に近い存在として君臨していた。
 マーガレットはチャールズの期待に十分に応えた。チャールズが期待していた以上のものを与えたに違いない。
――私の初恋って、マーガレットだったのかも知れないな――
 と心では思っていたが、もちろん口に出すことはしなかった。
 マーガレットの寝室に忍んで行った時のことをチャールズは今でも夢に見ることがある。