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ジャスティスへのレクイエム(第一部)

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 アクアフリーズ王国が崩壊してしまった今となっても、シュルツとチャールズが生きている限り、彼らに対してのスパイは収まることはない。特にチャーリア国の建国は、アレキサンダー国にとっては寝耳に水だったに違いない。
「叩き潰したつもりだったのに」
 と思っていることだろう。
 前々から計画し、クーデターを起こした時から始まった一連の革命は、今まだ半ばなのに違いない。
 最初に革命を起こしたのは彼らだったが、革命の余波は至るところに浸透していて、その一環としてチャーリア国も生まれたと考えていいだろう。しかし、チャーリア国の建国まで革命側が予知していたかというと、そこまでは考えていなかったように思えた。
 アレキサンダー国もチャーリア国も、この革命から生まれた国家だが、その建国に至るまでの過程はまったく違う。
 チャーリア国には母国が存在し、母国は革命軍の傀儡とされてしまってはいたが、国王であるチャールズにとっては、かけがえのない先祖代々の母国なのだ。
――チャールズ様は、ご先祖様に申し訳ないとお考えなんだろうな――
 とシュルツはチャールズの心境を思い図り、その胸中を哀れに感じていた。
 ただ今は、チャールズ国の国家元首として君臨しなければならず、委任統治国としてのジョイコット国も存在する。
 彼らは完全な未開の土地であり、今まで国家という体制の中で、トップに君臨してきた自分たちにはまったく縁のなかった地域である。
――チャールズ様は、映像すら見たことはないんだろうな――
 国王として君臨している人間は、下等民族と思しき民族を見ることはない。
 当然、身分の違う国であり、彼らと一生関わることなく生きている自分たちが見る必要などまったくないからだ。
 底辺を地平線に平行にじたばたしなから生きている連中と、下から見上げられる立場で、同じく地平線に平行である皇室にとっては、
「交わることのない平行線」
 がずっと続いていくだけのことだった。
 そのどちらも矛盾を抱えているはずなのに、矛盾を意識することもなく、矛盾を意識することができないから、陥ってしまったジレンマの正体が何であるのかということを、一生分からずに過ごしていくのだ。
 シュルツは、そのことをおじさんから幼い頃に教えられた。だから今そのことを感じているチャールズとは、考え方という面で天と地の違いがあるように思っている。
――チャールズ様と今の自分が感じている矛盾というのは、本当に同じものなんだろうか?
 とシュルツは感じ、その基本になっているのは、
――元々、皆が感じると言われるジレンマというものも、本当に皆同じものなんだろうか?
 と感じた。
 そもそもこれが同じだという前提でない限り、先を考えることはできないに違いないと思うからだ。
 委任統治というのは、WPCが発足してから考えられた考え方で、ジョイコット国のように未開で、とても自分たちだけでの独立などありえない国を、WPCの公認により委任性での統治権を保有するというもの。
 国によっては、統治している国が多いため、いくら連盟によって指名されたからと言って、統治を請け負わなければいけないことに不満な国もある。
 確かに委任に際しては国際的な立場の保障であったり、貿易間での優遇がかなり受けられるという利点もあるが、最初からそれに代わるものを持っている国からすれば、委任統治などというものは、
「ありがた迷惑」
 以外の何者でもなかった。
 だが、ほとんどの国は委任統治権を得ることで、国際的な地位が不動のものになることを喜びとしていた、特に建国間もないチャーリア国には降って湧いたような話であり、光栄以外の何者でもなかった。
 チャーリア国を全面的にバックアップしているアルガン国の後押しの強さ、そしてチャーリア国のシュルツ首相の国際的な信用が大きかったのだろうが、逆の意味としては、ジョイコット国というのが世界の中でのお荷物で、統治を任される国は貧乏くじのように思われていたこともあって、その大任が自国に来なかったことで、列強はホッと胸を撫で下ろしたことだろう。そういう意味でこの決定に不満をいう国が存在するわけもなく、委任権は全会一致で承認された。
 ただ、アレキサンダー国が黙って承認したとは思えなかったが、自分たちも建国間もなく、しかも革命政権による建国なので、自分たちの国に対しての国際社会の反応も微妙なものであった。
 そんな状態で他の国を批判するということは国際的な孤立を招きかねないという意味で、自殺行為に匹敵する。それを思うと、黙って従うしかしょうがなかったのだ。
 悲喜こもごもの考えがある中で、委任統治権を得たチャーリア国だったが、さすがにジョイコックという国に入ったシュルツは閉口しないわけにはいかなかった。
 未開とは聞いていたが、首都に入ってみたものの、そこは中心部からスラム街の様相を呈していて、とても独立国家になれるだけの体裁を整えているわけではなかった。
「こんなところを、チャールズ様に見せるわけにはいかない」
 と言いながら市内を視察していたが、そのうちに国家首脳が車でやってきた。
「これはこれはチャーリア国のシュルツ様ですね。こんなところをお見せしてしまって、恥ずかしい限りです」
 と言って恐縮していた。
 彼らは、絶えず頭を下げていた。
――そこまで卑屈にならなくても――
 と、いくら劣等国とはいえ、国家首脳なのだから、ここまで卑屈になってしまえば、国民感情も分かろうというものだ。
 国民を見ていると、誰もこちらを見ようとは思っていない。わざと目を逸らしているわけではなく、意識していないのだ。見えているのは間違いないのだろうが、そこに誰がいたとしても、気にしていない。
――ひょっとすると、このまま殺されても誰も無視したままなのかも知れないな――
 と感じたほどだ。
 シュルツが知っている人間としての最低限の感情すら彼らにはない。それを見てしまうと、なるほど国家首脳がこれほど萎縮している理由も分からないわけではない。
――この人たちは我々を恐れているんだ――
 まったく違った人種が、攻めてきたような感覚なのだろう。
――我々が他国から侵略を受けた感覚よりもさらにひどい。まるで宇宙から侵略された感覚になっているのではないだろうか?
 同じ人間をまったく別の生物のように感じている感覚が、国家首脳にすらあるということにシュルツは大いにショックを覚えた。
――これは一筋縄ではいかないな――
 と感じたのだ。
 そう思うと、百年以上前に先祖が植民地獲得競争に明け暮れた時代も致し方のないことのように思えてきた。未開の人種を自分たちで洗脳し、利益だけを貪り、現地民を奴隷にしてしまえば、これ以上の経営はないというものだ。列強を侵略するよりもよほど被害は少なく、得られる利益は莫大である。しかも、労働力も同時に手に入れることができるのだ。意識改革するまでもなく、ただ恐怖の中で操ればいいだけだからだ。
 しかし、今の時代はそんな植民地時代の反省から、人種差別や国家に対しての劣等感を持ってはいけないことになっている。