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ジャスティスへのレクイエム(第一部)

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 実際にアルガン国は戦争を行っても無敗を誇っていた。ただ、彼らから戦争を仕掛けることはなく、そのほとんどは他国からの侵略であった。最初は本当に領土的野心からの侵略だったが、アルガン国の強さを思い知った他の国は、アルガン国をただ侵略するために戦いを仕掛けることはなくなった。
 アルガン国への戦いは、あくまでも牽制の意味であり、他国への侵略の際に、介入してこないように一度警告をしておくという意味での仕掛けだった。
 確かにアルガン国は軍事大国でいったん戦闘になれば負け知らずだったが、国家の方針としては、完全な平和主義の国であった。
 したがって同盟を結んだり条約の締結には、軍事的な文章は存在しない。あくまでも平和的な意味での締結であり、経済提携が中心だった。
 だが、彼らには世界有数の軍隊があった。彼らは、
「自分たちの権益や尊厳は、自分たちで守る」
 というポリシーを持っている。
 だから、そういう意味では永世中立国と似ている。
 だが、自分たちを永世中立だと宣言しているわけではない。
「どこが違うんだ?」
 と言われると一口で説明できるわけではないが、少なくともアルガン国への侵略や攻撃は、国際社会の秩序を乱すものとして国際的に非難されても仕方のないことである。
 アルガン国は、アクアフリーズ王国とは多数の条約を結んでいた。そのアクアフリーズ国が事実上消滅して、元首だった男によるチャーリア国が建国された。しかも、チャーリア国の建国に深くかかわっているのもアルガン国だということもあり、一番の友好国ということになる。
「我々は、チャーリア国をアクアフリーズ国の後継国として条約を締結する用意がある」
 と早々にアルガン国の首脳は宣言していた。
 そんなアルガン国も元はチャールズ国王の先祖には、大いにお世話になったものであった。
 アルガン国の建国は、アクアフリーズ国よりも後のことで、国家の成立は曖昧なうちに行われた。
 元々このあたりは、昔から体制や宗教、文化風俗に至るまで、ちょうど入り組んでいる地域になっていたので、
「このあたりの統一は難しく、国家を建国するなど、難しいだろう」
 と言われていた。
 国を建国しても、国土や国民は中途半端で、主義主張の違う他民族の国家となり、分裂の危機を絶えず孕んでいた。
 実際にアルガン国ができるまでは、小さな国ができては消え、流動的な国家を象徴していた。
 しかも、最初にできた国家がいつの間にか分裂を繰り返し、元は一国だったにも関わらず、十個以上の小国が成立していて、それぞれに群雄の存在する、
「群雄割拠」
 の時代を迎えていた。
 それぞれの国にいる将軍は、皆他の国なら、十分な国家元首として君臨できる逸材であったにもかかわらず、この地域に生まれたがために、結局自分の手で国家を統一することができず、志半ばで死んでいった人ばかりであった。
 だが、そんな中にも国家を統一できるだけの男は生まれてくるもので、彼の絶対的なカリスマ性はその地域だけのみならず、割拠していた他の地域にも彼への崇拝者は存在し、いつの間にか彼を神のごとき存在になっていたのだ。
 彼は絶対君主制を唱えていた。
「絶対的な力がなければ、この時代を、そして地域を統一することなどできっこないのだ」
 というのが、彼の持論であり、彼は根っからの英雄であった。
 だが、彼が神であり英雄であると言われるゆえんは、彼のカリスマ性によるものだけではなかった。
 彼には緻密な計算ができるだけの頭のよさがあった。頭の回転の素早さは、それこそ神かかっていると言っても過言ではないだろう。
 緻密な計算だけではなく、彼には人たらし的なところもあった。
 普段は魔王のように、まわりの人をピリピリさせていたが、ひとたび彼の信頼を得られれば、その人はそれまでとはまったく違ったオーラをまわりにまき散らすことができた。このオーラは、
「人々を束ねる」
 という意味で絶対的な力があり、神のような存在のカリスマを中心に、まわりにも同じようなカリスマを持った男たちが現れる。彼らが割拠しているところを治めるようになると、群雄割拠だった地域は自然と統一されていき、一つの大きな連邦国が存在するようになる。
 割拠と呼ばれていた部分は「州」や「県」、「省」ではなく、「国家」なのだ。
 そんな体制が数百年と続いた。
 そのうちに、世界は帝国主義を迎える。後進国と言われる未開の地域をこぞって侵略していき、そこに自分たちの植民地を建設していくのだ。
 そこには、植民地を経営することでの経済的な利益と、植民地を支配するという国家としての面目の両方を得ることができる。強大国や列強がその甘い蜜に飛びつくのは当たり前のことであり、
「植民地獲得競争時代」
 と呼ばれる時代を迎えるようになった。
 もちろん、アルガン国の前身国家も、その甘い蜜を見て見ぬふりをするはずはなかった。結構早い段階から植民地獲得競争に名乗りを挙げ、着実に植民地を獲得していく。植民地経営のノウハウもしっかりしていて、植民地からの不満が上がってくることもなかった。
 植民地には植民地の事情があり、その事情にアルガン国の前身国の体制はうまく噛み合っていた。
 植民地と言っても、完全に国家として見下しているわけではなく、条約上は不平等ではあったが、そこに不満が起こることのないよう、植民地の人間たちを差別することはなかった。
 他の列強は、明らかに彼らを下等民族としてのレッテルを貼ることで、彼らにトラウマを植え付けた。
 植民地民族と先進国民族との精神的な開きは、その矛盾を感じさせないほどに開きがあった。
「我々は差別を受けても仕方がないんだ」
 と思っていたのだが、それも仕方のないことだ。
 元々未開の地を支配していた連中も、自国民を同じ人間として考えていないところがほとんどだった。
 完全な身分制度を敷いているところが多く、支配階級と支配される階級とでは差別がハッキリとしていたのだ。婚姻はもちろんのこと、職業の自由もなければ、住む場所も国家に決められていた。いわゆる、
「国民は国家の奴隷」
 と目されていたのだった。
 そんなところに列強が未開地として彼らを上から侵略してくる。元々差別を受けていた連中は、最初こそ見たこともない人種が侵略にやってきたので、恐怖を感じていたが、彼らが攻撃してくるのは自分たちにではなく、国家に対してだった。国家が攻められると、国家は奴隷である国民を盾にして、自分たちは後ろに隠れている。最前線に放り出された国民は、
「どうせ俺たちはこういう運命なんだ」
 と諦めていたようだが、実際には彼らに対しての攻撃は本気のものではなかった。
「君たちに恨みもなければ、殺したくもない。悪いことは言わないから、我々の邪魔をしないでくれ」
 というような内容のビラを配られて、さらにビラの下には、
「君たちにも人権はあるんだ。奴隷ではないんだ」
 と書かれている。