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ジャスティスへのレクイエム(第一部)

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 実際に初期目雨滴を達成するまで一番最初に成果が出たのが、この傀儡政権に対しての政策だった。
 シュルツはこうやって傀儡政権を崩壊に導くことで、自分たちも傀儡政権とあまり変わりはないという意識が薄いアレキサンダー国首脳をあざ笑っていたのかも知れない。
 シュルツが、アレキサンダー国が本当のクーデターを決行しても、完全な成功までには至らないことは最初から分かっていた。
 彼らは、チャールズ国王が敷いている王国としての体制の崩壊を目指し、自分たちの解放を高らかに宣言していたが、それには肝心な何かが足りないことをシュルツには分かっていたのだ。
「解放や独立するためには、何かカリスマとなる絶対的な存在がないと、中途半端に終わってしまう」
 という理念を持っていたのだ。
 チャーリア国の建国は、国際社会からは容易に認められた。まだまだ国家としては小さなものだが、国を保っていくうえでの体裁は整っていた。それは亡命してから後のシュルツの行動が、
「新しい国を作る」
 という理念で、最初から形成されていたからだろう。
 クーデターが起こり、命からがらと言ってもいい状態で亡命したことを思えば、よく建国までこぎつけたものだと思うが、それだけシュルツという男の頭の中の切り替えが早い証拠だろう。
 普通であれば、クーデターを予知することもできず、国王に命の危険を察するまでの心労を与えてしまったのだ。ショックで何も考えられなくなるものなのだろうが、いったん非難を終えてからの行動の素早さは、それだけ気持ちに潔さがあるというべきか、チャールズはつくづく感心させられた。
 ただ、最初からチャーリア国の建国を目指していたのだとすれば、彼の計画は実に一点の曇りもないものなのだろうが、その先に別の何かを見ているのだとすると、シュルツの次の一手が気になるところだった。
 チャーリア国は、本当に小さな国だった。国家の体裁という意味ではほとんど呈していなかったが、その後ろ盾にはアルガン共和国があった。
 アルガン共和国との間で秘密協定が結ばれていたが、これに関しては誰も知らなかった。アルガン共和国の一部首脳しか知らず、そしてチャールズもハッキリとは知らないことだった。

                 委任統治国

 チャーリア国が正式に国家を建国してから半年ほどしたある日、急に上空から戦闘機が迫ってきていた。時間は早朝で、まったくの奇襲だった。
 チャーリア国というのは、国土は一つの国の首都くらいの広さしかなく、中心部は軍事基地と政府の建物。そしてそのまわりを市民が生活している場所だった。
 まだ領空自体、確定していなかったチャーリア国の防空レーダーが、複数の戦闘機群を捉えたが、まだ軍部には誰もいなかったこともあって、奇襲は見事に成功した。
 奇襲に飛んできた戦闘機は、いうまでもなくアレキサンダー国の国籍機で、軍事施設の一部を爆撃して、すぐに去っていった。彼らにはあからさまに軍事施設を破壊しつくす意図はなかったようだった。
 寝耳に水だったシュルツとチャールズは、ビックリして官邸に入ったが、被害の思っていたよりの少なさに安堵していた。
 実際には、奇襲があるかも知れないという思いもあってか、表に出ていた兵器はほとんどなく、軍事施設の裏にある山に横穴や濠を作って、兵器を隠していた。
 もちろん、チャーリア国は好戦的な国ではない。ただ、攻められれば抵抗できるくらいの軍事力は持っているつもりだった。奇襲をまったく予期していなかったと世間一般には公表したが、それは彼特有の、
「人たらし」
 の一環だった。
 先制攻撃の前には当然あるべき宣戦布告もなかった。そもそも宣戦布告を受けるほど、アレキサンダー国との関係があったというわけではない。これは完全に相手国からのだまし討ちであり、正当な理由などない戦闘行為だった。
 それでもアレキサンダー国は声明を出した。
「チャーリア国は、我が国から軍事力を奪って、自分たちの軍隊にした。これは我が国の軍隊の裏切り行為であり、報復に値するものだ」
 というものだった。
 確かに、チャーリア国の軍というのは、アレキサンダー国にいた元アクアフリーズ国軍のメンバーだった。武器や弾薬までもが自分の国から秘密裏に持ち出されて、アレキサンダー国とすれば、完全に面目を潰された格好になったのだろう。
 シュルツはそれを、
「しめしめ」
 と考えていた。
 元を正せばアレキサンダー国は、自国のクーデター軍も参加している。
「そういう意味では最初に自国の軍を裏切らせたのはアレキサンダー国だ」
 と言いたいところである。
 だが、シュルツはじっとそれを国際社会には提訴しなかった。クーデターが起こって、自国の崩壊に至るまでにした国に対して、自分なりの報復方法が頭に描かれていたからだろう。
 シュルツは、アレキサンダー国の奇襲攻撃を今度こそ国際社会に提訴した。
 その頃には国際社会の間で、国際平和団体という意味のWPCという団体が成立していた。
 この団体は主に、先の大戦で勝利した側の国によって作られたもので、団体を形成しているそれぞれの国が承認しないことは、国家としての犯罪として考えていた。
 その団体にシュルツは提訴することで、アレキサンダー国は、
「何の因果もないはずのチャーリア国に対して、宣戦布告もせずに奇襲した」
 として非難を受けた。
 チャーリア国の狭さを考えれば、領土的野心とは程遠いほどのものに違いないはずなのに、ただ、自軍の裏切りに対しての報復に、独立国として国際社会が認めた国を攻撃するというのは、明らかな暴挙に違いなかった。それでもアレキサンダー国は自国の正当性を訴えていたが、
「攻撃と言っても、完全に機能が停止してしまうような攻撃を加えておりません。我々がこうむった被害を正当に返しただけです」
 と答えたが、国際社会の方では、
「何か、チャーリア国が、アレキサンダー国の軍部を内部から動かしたというような決定的な証拠はあるのかい?」
 と言われて、そんな証拠など存在しないアレキサンダー国は戸惑いを見せた。
「ハッキリとした証拠はありませんが、我が国から出た軍隊が、そのままチャーリア国の軍隊として存在しています。それが私には許せないんです」
 と訴えたが、
「軍が亡命することは、相手国が受け入れてしまうと、その時点で相手国の軍隊になってしまうことはご存じですよね?」
「ええ、知っています」
「だとすると、アレキサンダー国を離れてチャーリア国に入った軍隊を自己所有のような言い方は違うんじゃないですか?」
 と言われて、それ以上の返答に困ってしまった。
 確かに、軍がクーデターを起こしたり、外国に逃れるなどした場合は、受入国があった場合、その国が受け入れてしまうと、その国家の軍となる。そうしないと、今回のような報復が起こってしまうことを考えての国際社会の憲法ともいうべき、いわゆる憲章と呼ばれるものだった。