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ジャスティスへのレクイエム(第一部)

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「チャールズ様、ここまでくれば、もう安心です。ここから先は今までのように秘密裏を必要としませんので、いよいよチャールズ様が表舞台に立たれて、実際に活躍される時がやってきたのです」
 とシュルツは言った。
 チャールズもシュルツの完璧な計画に感嘆を覚えながら、自分の震えが止まらないのを感じていた。
「武者震いがしてきたよ」
 というチャールズに、シュルツは安心したかのように微笑むと、
「これで第一段階が終了したというところですね。これからが本当の勝負ということかも知れませんね」
 というシュルツに対し、
「そうかな? 今までのシュルツを見ていると、私は安心しかないんだよ。シュルツはかつて口を酸っぱくして言っていただろう。『戦いは始まる前にすでに決しているものですよ』ってね。今のシュルツを見ていると、前準備ですべてやり尽くしたように思えるんだが、どうだい?」
 とチャールズは言った。
「さすがでございますね。確かにおっしゃる通りです。しかし、時間というのは刻々と動いております。不測の事態にならないとも限りません。だから気を緩めてはいけません」
 とシュルツは言った。
「分かった」
「それに私がやってきた前準備は、チャールズ様にもできることだと思っております。それだけの教育は受けていると思いますし、私のそばでいつも見ているのだから、チャールズ様にもそれだけの力が備わっていると私は感じております」
 というシュルツに対して、
「買いかぶりすぎだよ」
 とチャールズは苦笑いをしたが、その表情はまんざらでもないように見えた。
 その裏には、自信が漲っているように感じられるとすれば、それはシュルツだけではないだろう。
 アクアフリーズ国から逃れて難民となった人は、昔からの神話を知っている人たちだった。
 この国には知られざる神話が残っていて、一部の宗教団体であったり、王家から分家となって民間として生きてきた家系にだけ伝わっているものだが、宗教団体に分家が関わることになってから、彼らの勢力は強くなっていた。
 アクアフリーズ王国では、絶対王制を敷いてはいたが、比較的宗教活動に関しては自由に行われていた。
 しかし、布教に関して制限があったりしたが、それはあくまでも宗教活動と称して、あこぎな取引に利用されることを恐れただけで、そのあたりへの厳しさは、他の国の比ではなかった。
 そんな中、アクアフリーズ国独自の宗教団体が存在していた。他の国では自国のみの宗教団体というのは存在しない。もちろん宗教団体がそのまま国家となっている国はあるにはあるが、国家としては実に特殊なもので、国家としての財産は存在せず、すべて信者である国民によるものだった。つまりは国民総意がなければ国家としての決定ができるわけではなく、そんな国が長く存続することなどできないと思われた。
 ただ、国際社会の暗黙の了解として、その国への侵略は許されないものとして存在した。実際にこの国家が建国され三十年くらい経っているが、侵略を受けたことはなかった。
 その理由は、
「国民がすべて宗教団体の信者ということもあり、侵略しても国民感情を蹂躙することが困難であること。そして、国土が狭く、侵略しても領土的な利益はほとんどない。何しろ地下資源などは皆無であり、国民も国の産業を開発するという考えがないこともあり、国民感情と合わせても、侵略する価値のない場所だ」
 という共通認識があるからだ。
 ただ、実際の国土は狭いわけではなかった。山岳地帯が多かったり、人が生活をしていくにはライフラインの提供が難しいことで、侵略しても価値がないという意味で国土が狭いという表現になっているだけだ。
 シュルツは、この国に目を付けた。侵略というわけではなく、金銭でその土地を譲り受け、そこに難民や集めてきた武器、弾薬を貯蓄しておく場所をキープしていた。
 そして宗教団体への援助も行いながら、次第に自分たちの勢力を高めていく。
 独立国家構想が実際に形になってきたのは、この国の一部の割譲に成功したからだった。
 アルガン国の一部に独立国の本部を立ち上げ、実際の軍事基地や、兵器格納の場所として割譲してもらった宗教団体の国の中に建設していた。割譲された場所を正式に独立させることは、宗教団体との最初からの密約であり、軍事基地や難民の避難場所として確立してしまったこの場所を、宗教団体としても自国の領土としていることに懸念があったからだ。
 国としての本部と、軍事基地とが離れているのは少し気がかりだが、直線距離ではさほど離れているわけではない。しかも、その間を結んでいる場所を領有する国とは友好関係を結んでいるので、本部が強襲されたりした場合に、スクランブルにて直線距離での救援には、領空侵犯という問題は発生しない。そういう意味でも軍事基地としてこの場所を決めたのは、シュルツのシュルツたるゆえんとでもいうべきか、軍人としての本領発揮であった。
 アルガン国の政府も、
「なるべく手を貸してあげたいと思いますが、あまり表に出ないようにしないといけないので、制限があることはご了承ください」
 と言っていた。
「いえいえ、そのお気持ちだけで嬉しいです。国土を割譲いただけただけでも本当に感謝しております。貴国にはご迷惑をおかけしないように努めてまいります」
 というシュルツの言葉に、アルガン国首脳は、両手で手を握り、切に願っていることを身体で表現していた。
 こうやってできあがったのがチャーリア国だった。
 国際社会へは承認されたが、さすがにアレキサンダー国は成立を認めない。
「我々にとってチャールズとシュルツは国家犯罪人とみなしています」
 と、宣言していた。
 だが、実際に二人を国家犯罪人として認識している国はどこにもなく、アレキサンダー国だけが承認し、それに追随する形で認識している国は、すべてがアレキサンダー国によって作られた傀儡政権だけだったのだ。
 アレキサンダー国自体はそれほど表立ってひどいことはしていなかったが、傀儡政権と目される政府は、かなりの国際的には容認されない非道なことを行っていた。
 傀儡国家というのは、元々あった国に対してアレキサンダー国が侵略し、侵略した国を統治するために、自分たちに都合のよかったり、言いなりになる連中を国家首脳とした政権をいう。
 ほとんどの侵略を受けた国には傀儡政権が存在する。傀儡政権でなければ、元々侵略を受けた国の首脳は、いつ裏切るか分からないからだ。
 また、傀儡政権にはアレキサンダー国にとってありがたいこともある。
 元々の政権では自分たちの友好国が動こうとする時、反発を受ける可能性があった。しかし傀儡政権は自分たちの体制による政府なので、こちらを正当な政府だとして友好国がいろいろな条約を結ぶことができる。
 たとえば軍事的に友好国から軍隊を駐留させることができる。もちろん、居留民保護という名目があってのことだが、それも条約を有利に結んでいればこそのできることであった。