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ジャスティスへのレクイエム(第一部)

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 確かに本当の最終目標は、チャールズの考えた通りだが、それまでの過程が違っていた。シュルツはもっと壮大なことを考えていて、その思いがチャールズの眠っている感情を引き出すことになろうとは、チャールズ本人もシュルツも想定外のことであった。
 シュルツは、ホットラインが途切れた瞬間から、部下にもう一つの命令を出していた。
 それは、
「軍隊は、これから今まで以上に混乱してくるのは分かっている。混乱してくる前に、軍隊の順列を書き換えて、三個師団くらいをその序列から外してほしい」
 と言っていた。
 部下は最初、よく分からなかったが、
「君たちが外した軍をうまく率いて国外に脱出してくれ、武器も一緒に持ってだよ」
 というシュルツの言葉に、
「そんなことできるんですか? いくら相手が新興国家とはいえ、軍隊の三個師団を動かすんですから、それなりに目立ちますよね」
 というと、
「そこは、何とでもなる。幸いにも我が国には植民地にしていた国を属国にしているので、その国に派遣するとでもいえば、国外に出ることもできるだろう」
 当時の世界では、植民地という考え方は廃止されてきた。ほとんどの国が独立を果たしているが、中にはまだ内戦を引きずっているところもある。実際に母国にも前に植民地にしている小国があったが、最初独立を促したのだが、国家として成立させるほどしっかりした国家体制ではなかったことで、国際調停に提訴することで、その国の委任統治を、我が国が受け持つことにした。
 植民地としての朝貢はできないが、緩い体制での属国という意味であった。
 つまりは、属国に不穏な動きがあれば派兵もありえるということで、この場合の派兵も口実としては十分なのだ。
 ただ、それもあくまでも怪しまれた時の言い訳というだけで、アレキサンダー国の監視の目は、軍隊の一部の国外への派遣くらいは気にもしていなかった。
 しかも、実際に傀儡政権が樹立された時、傀儡政権の政府は、その時に一部の軍隊が外国へ派遣されたなどということを知らされていない。つまりは軍隊の編成図がすべてだったのだ。
 これもシュルツの計算通りだった。
 抜けた三個師団は、当初の予定通り、委任統治国に入っていた。委任統治国はあくまでも統治するのは正規政府であり、傀儡国家に支配されることはない。これは国際法上でも容認されていることで、委任統治国はあくまでも傀儡政権を容認できないという声明を発砲していた。
 そんな時、シュルツから委任統治国へ連絡が入った。
 確かにこの国は植民地として支配された時代があったが、他の植民地のように搾取されていたわけではなく、友好国という認識が強かった。
 現在も傀儡政権ができるまで、正規政府と普通に交渉していて、その交渉の代表者がシュルツだったのだ。
 シュルツは委任統治国にとっては、国家元首に等しい存在だった。
 シュルツ長官から、委任統治国の首相に連絡が入った時、
「シュルツ長官、ご無事でしたか。心配をしておりました」
 と、電話口の向こうで涙ぐんでいることは、シュルツには想像がついた。
 それくらい二人の間には信頼関係が樹立されていて、それもシュルツの人徳のいたすところであった。
「ああ、大丈夫だよ。チャールズ様も一緒だ」
 と、亡命してから今までの経緯を話した。
「それはそれはよかったです。いずれは我が国へいらっしゃってくだされば、いくらでも面倒を見させていただきます」
 と言ったが、
「それはありがたいのだが、今はそういうわけにもいかない。アレキサンダー国の目が光っているのは分かっているし、あからさまに私たちがそちらにいけば、彼らを一気に刺激することは分かりきっているからね」
 と言って、やんわりと断った。
「なるほど、そうですね」
 と首相がいうと、
「ところで、母国から三個師団をそちらに派遣したのだが、そっちで面倒を見てくれないだろうか?」
 とシュルツがいうと、
「どういうことでしょう? 確かに三個師団が来られましたが、委任状も命令書も何もなかったので、おかしいとは思っていましたが」
 という首相に、
「すまない。これは極秘の計画の一部なので命令書はないんだ。君にも詳細を告げるわけにはいかないが、悪いようにはしないので、申し訳ないが、三個師団を受け入れてほしい。母国では最初からなかったかのように細工はしているからね」
「分かりました。長官のお考えですから、相当に練られた計画なのではないかと思います。私にお任せください」
 という首相の言葉に、
「ありがとう」
 とシュルツは本当に助かったと思いながら、受話器を握りながら頷いていた。
――これで第一段階は終了だな――
 と、シュルツは感じていた。
 三個師団の司令官は、シュルツが軍部で一番信用している男だった。だが、彼の階級は少将であり、軍部の首脳ではない。軍部の首脳には確かに信頼のおける人間を配置していたが、任命するのは国王で、それを推薦するのが長官だった。
 長官は全体的に見て一番ふさわしい人を首脳に据えていたが、本当に信頼できる人間を別に作るということを考えていた。このようなクーデターに備えていたというわけではなかった。軍部という特殊な体制の元では、自分の腹心を作っておくことが懸命だと思っていたのだ。
――これこそ不幸中の幸いとでもいうべきだろうか――
 と胸を撫で下ろしたが、事態は本当に最悪を免れたというだけのことだったのだ。
 彼の名前はマーシャルという。
 マーシャル少将は、頭が切れるという点では陸軍ナンバーワンと言ってもいいだろう。しかし、まわりとの協調性に欠けることで、彼に味方は少なかった。だが、それも彼の計算の中にあることで、下手に仲間を増やすことは、造反しそうな人間を単純に増やすことになる。それなら、本当に信頼のおける人間だけをまわりに置くことがいいと考えた。
 だからマーシャル司令のまわりには、本当にマーシャルの考えを理解できる人しかいない。そういう意味ではシュルツ長官も彼の仲間の一人である。シュルツはチャーチルにマーシャルを紹介する時、
「彼ほど、自分の一番の味方はおりません」
 と言って、紹介していた。
 チャールズもシュルツの性格をよく分かっているので、シュルツの軍部で一番信頼している人間がマーシャルであることは分かっている。階級は確かに少将だが、シュルツにとっては提督であってもいいくらいに思っている。
「彼は十個師団を率いて戦わせてみたい唯一の将軍ですよ」
 と、シュルツは話していた。
 それだけ統率力にも長けていて、仲間が少ないということに関して矛盾であった。
 そんなマーシャルは軍部で起きたクーデターを予知できていたようだ。そして、シュルツがそのうちに命令を直接下してくれるのを待っていた。自分の率いる三個師団を他の国に退避させたいと考えたのは、マーシャルも同じだったからだ。