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ジャスティスへのレクイエム(第一部)

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 アレキサンダー国だけなら何とかなったかも知れないと思っていた小国首脳だったが、さすがに強大国の侵攻による二方向作戦には明らかな無理があった。
「もはやこれまで」
 と、小国の陸軍参謀部長は、その責任を感じて、自害した。
 ここに小国の運命は決したのである。アレキサンダー国と強大国の二国で小国は分断され、それぞれで統治されることになった。
「これがアレキサンダー国の狙いなのかも知れない」
 とシュルツは感じたが、その言葉を聞いた人には、彼の本意は分からなかった。
 アレキサンダー国の脅威はそのまま世界各国の政治的分割に繋がり、主義主張によって、世界は完全に二分された。そのことをシュルツは、
「アレキサンダー国の狙い」
 だと思ったようだった。
 元々アレキサンダー国は、同盟を結んだ強大国とは政治体制が異なるものだった。そういう意味ではこの二国間の同盟は、他の国から見れば完全に、
「寝耳に水」
 だったのだ。
 それを知らされると、他の国のほとんどは脅威に感じていた。
――自分の国が狙われるのではないか?
 という思いが現実味を帯びてきたからだ。
 最初は、建国して間もないアレキサンダー国に何ができるというのかとタカを括っていた。一応、他国との同盟までは考えの中にあったが、今のところアレキサンダー国と同盟を結んで利を得る国は存在しないと思われていたので安心だったのだが、まさか政治体制の異なる国と同盟を結ぶなど、考えてもいなかったからだ。
 長い歴史の中でも、昨日までお互いに敵対していた国といきなり同盟を結ぶなどなかったことだ。あくまでも同盟と言っても、小国を屈服させるためだけに結ばれた応急的な同盟であり、基本はお互いに敵対していることだろう。
 この二国は、同盟を結ぶ直前まではお互いに仮想敵国として思い描いていた相手だった。それだけに同盟が形だけのものであることは分かっていたが、どちらがキツネでどちらがタヌキなのか、ハッキリとしないところが不気味だった。
 アレキサンダー国の国家元首がそこまで頭がいいとは思えない。誰か側近の入れ知恵なのだろうが、そう考えると、またアレキサンダー国でクーデターが起こらないとも限らない。
――ひょっとすると、戦争を仕掛けるのは、クーデターを起こす隙を与えないための内省的な問題が大きいのではないか?
 とシュルツは考えていた。
 もちろん、その考えは少なくとも最初から考えていた。だが、そこまで大きな影響を与える発想だとは思っていなかっただけにこの二国の同盟は不気味だったのだ。
 完全に意表を突かれた。確かに誰もが想像もつかなかったことであろうが、シュルツにはそんな自分が訝しく感じられた。
 この二国間の同盟の表向きの考えは、この小国の一部が、昔強大国の植民地だったというのも大きな理由であるが、ここには重要な軍港が存在し、軍港を抑えることで、自国の安全保障上、大きな影響があることは否めなかった。
 小国はあっという間に、この二国の侵略を受け、分割されてそれぞれの国に編入されることになった。小国はあっという間に世界の地図上から消えてしまったのだ。
「明日は我が身だ」
 と感じた国も少なくないだろう。
 特に小国に国境を接している国は、気が気ではない。
「次は我が国が侵略を受ける」
 と思うと、早いうちから他の国に援助を申し出ていたが、他の国は援助は仕方ないが、兵を出したり、同盟を結んで、戦争を遂行することはできないとしてかなり消極的な対応だった。
 そのため、アレキサンダー国の快進撃は目に見えて早くなってきた。
 何かに取りつかれたように侵略を重ねるアレキサンダー国。アクアフリーズ王国もそれなりに対策を考えないと、容易に侵略を許してしまう。
 だが、アレキサンダー国はなぜかアクアフリーズ国を攻めてこなかった。まわりの国を固められて逃げることができなくされて、一気呵成に侵略を済ませるつもりではないかと思えた。
 シュルツのその考えは当たっていた。
 アクアフリーズ国と同盟を結んでいたほとんどの国は、すでにアレキサンダー国の侵略を受け、我が国との同盟を破棄させられ、さらにアレキサンダー国と新たな同盟を結ばされた。
 最初はさすがに抵抗していた国も次第に抵抗が和らいで、アレキサンダー国に逆らうことは自国の滅亡を意味するということを思い知らされるようになっていったのだ。
 アレキサンダー国の国家元首は、チャールズの親戚筋であった。
 今から思い出せば、チャールズの父親が国王だった時、アレキサンダー国の国家元首の父親が窮地に陥った自国での立場回復のため、援助を申し入れてきたが、チャールズの父親は断った。
「これは内政干渉になってしまう」
 というのが建前で、本音がどこにあったのか、チャールズには分からなかった。
――もしかしたら、シュルツには分かっていたのかも知れない――
 とチャールズは思った。
 シュルツは先代から遣えている。海千山千の長官だった。
 シュルツはその時のことが鮮明に思い出されて、恐怖に感じていた。
――これは復讐だ――
 ということである。
 だが、これをチャールズに話そうとは思わない。話したからと言って、どうなるものでもない。不安を煽るだけではないか。シュルツはチャールズの気持ちを思うあまり、このことを口外しないように努めた。
 そんなシュルツの思いとは裏腹に、それまで何でも話してくれていたシュルツの気持ちを計り知ることができなくなってしまったチャールズは、このままどうしていいのか途方に暮れていた。
 こんな時に相談していた当の本人のことで悩んでいるのである。他に相談できる人がいるはずもない。
――考えてみれば、私は今までシュルツだけを信じて、シュルツ以外の人を見てこなかったんだ――
 それがいいのか悪いことなのか分からなかったが、招いてしまったのは自分であり、シュルツに罪はないと思った。
――そういえば、父はシュルツのいうことだけを聞いていればいいと言っていたっけ――
 というのを思い出すと、父を恨みたくなる気分にさせられた。
 だが、そんな父ですら完全に信用しているシュルツだけに、悩んでいる姿を見ると不安しか残らない。
――私はどうしたらいいんだ?
 チャールズはそう思うと、シュルツの顔を見るのが怖くなった。
 完全にアクアフリーズ王国は、機能を失いかけていた。
 実はこれがアレキサンダー国の狙いだった。一気に攻めてくることはなく、じわじわと攻めてくることで我が国の頭脳であるシュルツの力を封じたのだ。これほどの戦略はないだろう。
 だが、アレキサンダー国は時間を使いすぎた。シュルツを封じてしまったことで安心しきってしまったからなのかも知れない。シュルツという男が落ち込んだことがないので、その立ち振る舞いは未知数だが、彼を知っているという意味では、圧倒的にチャールズの方が上である。そのことが落とし穴となって、アレキサンダー国に対して、一矢を報いることができそうだった。