小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

短編集56(過去作品)

INDEX|19ページ/21ページ|

次のページ前のページ
 

 個性のない連中は、誰か一人を中心に、まわりはその人についていく。一人の方向性が皆を導くのだ。それはそれでいいのだが、小田切には向かない。まわりの個性のない人間にはなりたくないし、中心にいる一人という感じでもない。人を導くような性格が、小田切の中にある個性とは違うものだと感じているからだ。
 小田切の中には一匹狼的なところのある個性派を好きになる傾向があった。それは自分にも言えることで、
――人の中心になってしまっては、自分の本当の個性を醸し出すことができない――
 と思い込んでいた。
 個性と一匹狼という考え方は、小田切の中では親密なものだった。同じ感覚だと言っても過言ではない。小田切にとって女性という憧れ、それは自分の個性を満足させてくれる相手でなければいけなかったのだ。
 付き合う前は、誰でも相手のことを分からないので、神秘的に見える。それは相手の女性にしても同じであろう。
 小田切はそれでも次第に相手を好きになってくる方なので、相手の個性的な部分を見つけ出せるが、相手は、小田切の個性を醸し出そうとする態度に、最初感じていた神秘性とは別の感覚を抱いてくるに違いない。
 そんな気持ちを抱かせないようにうまく付き合っていく男性もいるはずだ。だが、小田切は相手の女性が自分に対して考えていることよりも、内面的に潜在している性格を必死で探ろうとする。そんな気持ちが相手に不安を募らせてしまうのかも知れない。
 自分ではそんなつもりではないのに、重荷に感じさせてしまうのはきっとそのせいではないだろうか。
「友達以上には思えないの」
 と言われて、
「では友達のままで」
 と答えたとしても、
「いえ、それもきっと難しいわ」
 という答えが返ってくるように思えてならない。今まで付き合っていた女性と別れ際、そこまで話したことはないが、きっとそう言われるに違いないだろう。
 小田切の中で相手を思うという気持ちが相手を探る気持ちになっていることに気づかないうちは、出会いと別れを繰り返すことになる。
 次第に自分に自信がなくなってくるのも仕方がないことで、大学時代だから簡単に女性と知り合うこともできて、相手が興味を持ってくれると、小田切も相手を好きになってくる。
 ずっと繰り返してきたことなのだが、小田切にとって、きっとまわりが考えているほど辛いものではなかったかも知れない。出会いと別れを繰り返すことも次第に慣れに変わってくる。
――いけないことだ――
 と思いながら出会いを求め、出会った瞬間から別れを想像していたのかも知れない。決して後ろ向きの交際だと思っていなかったが、結果としてはそうとしか写らない。
 だが、付き合っていた彼女たちはどうなのだろう。小田切と付き合ってきた数ヶ月をもったいないと果たして感じているだろうか。
 彼女たちは小田切と別れると、不思議なもので、すぐに他の男性を付き合い始める。他の男性から告白されるようだ。まるで小田切が彼女たちの魅力を引き出したのではないかと思えるほどで、その見方は当たらずとも遠からじである。
 小田切もそれで嫉妬するようなことはなかった。普通であれば、
「お前の別れた人たちは皆円満なのに、お前はどうしてなんだ?」
 という皮肉の一つも言われるだろう。だが、不思議なことにそれを言われたとしても腹が立つことはない。却って誇らしいくらいだ。
――プライドがあるのかないのか分からないな――
 と感じたこともあるが、きっとプライドはあるのだろう。別に痩せ我慢しているわけではなく、心の底から感じていることだからである。
 佐和子と出会ったのは、そんなことを感じ始めた頃だった。
 かつて付き合っていた女性を一人一人思い出させるような雰囲気を持っていて、それぞれのよかった部分すべてを醸し出しているように見えたのだ。
――理想の女性なのかも知れないな――
 と感じたのだが、どこかに違和感があった。
 その違和感の原因が分からないまま佐和子と接していたが、彼女にも人に言えない過去があるようだった。
「佐和子さんって、女性から見ても魅力を感じる人なのよね」
 喫茶店が似合うかと思えば、お洒落なバーも知っているような女性だった。前に付き合っていた男性とよくバーで呑んだことがあるようで、何度かつれていってもらった。男性一人でも気軽に入れる店なので、小田切も時々一人で来て、カウンターで呑んでいた。
 カウンターの中にはバーテンダーと女性がいるが、その女性が佐和子について話していた話だった。
「確かにそれは言えるかも知れないね。スリムで少し彫りの深さも感じるし、男性っぽいところがあるのかも知れないね。それが男性にとっても魅力の一つなんだけどね」
 男性から見て魅力のある女性、それは感じる人によってそれぞれ違うが、女性から見ても素敵に感じる女性に対して、男性の目はそれほどたくさんな見方はないように思えてならない。
 百貨店の高級婦人服の売り場に立ち寄ることもたまにあった。営業が百貨店がらみのため、どうしても目が行ってしまうのである。
――高級婦人服って、結構男性っぽい恰好になっちゃうんだな――
 と、前を通るたびに考えていた。女性っぽい可愛らしい服が決して安いわけではないが、シックな色合いのものが高級に見えるからではないだろうか。モノトーンな色が、シックな雰囲気を醸し出している。
 佐和子も背が高くスリムなので、黒を基調としたシックな服装が似合った。実際に、会社でも数人の部下を従えているようで、キャリウーマンの雰囲気が滲み出ている。
 男性の前でもその態度は変わらないようだ。
「男の人がダラダラしている姿を見るとイラついてくるのよ。いくら男女同権だって言っても、まだまだ女性蔑視のところがあるから、余計にイライラするのよね」
 アルコールが入ると、さらに男性っぽくなる。「オヤジ」化していると感じることもある。だが、会社でストレスの溜まる立場にいるのは間違いないようで、そんな彼女の癒しになれればと思っている小田切だった。
 今まで付き合った女性に感じたことのない思いである。
――自分から尽くしたい――
 という思いは今までになく、相手から尽くされることに男冥利を感じていた。相手に尽くすというのが女々しいと思っていた自分がいたのも事実だった。だが、この心境の変化はどこから来るのだろう。
――これが本当の俺なのかも知れない――
 半分本気で、半分自分に言い聞かせているように思えた。
 大学時代までの小田切には、付き合っていた女性が尽くしてくれた。男冥利に尽きながら、
――こんな関係が、ずっと続けばいいのにな――
 心地よさに酔っていた。
――その思いがいけなかったのかも知れない――
 思い上がりは目の前を遮り、間違った方向に導く一番の過信である。そのことに気付いたのも佐和子に出会ってからだった。
 今まで付き合ってきた女性に対しては一目惚れはなかった。相手が好きになってくれたから好きになったという感覚が強い。しかし、佐和子に限っては違った。小田切の一目惚れだったのだ。
「惚れた者の弱みとはよく言ったものだ」 
作品名:短編集56(過去作品) 作家名:森本晃次