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不可能ではない絶対的なこと

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――冷静にものを考えるということは、冷めた目を持つことに繋がる――
 というものだと思っていた。
 冷めた目で見るという考えは、諦めが早くなった自分を、さらに追い詰めるような気にさせることで、本当は嫌な思いのはずなのに、どうして冷静にものを見るということを考えなければいけないのかと思うようになっていた。
 友達を絞らなければいけないという思いとは裏腹に、
――親友と呼ばれる人がほしい――
 と考えるようになったのも事実で、その二つが相反した考えであるかのように最初は感じていたが、友達を絞ることで親友という定義が見えてくるということに気付いたのは、やはり高校を卒業する頃だった。
 それは自分の考えに反する矛盾した思いであることも分かっていた。
 せっかく気付いたことではあるが、自分の中ではリミットと考えていた親友ができるであろう時期に理解したということは実に皮肉なことだと思ったのだ。
 だが、親友というのがどういうものなのかということに気付いた時、それまで自分の考えとして確立していた、
――親友を作るなら、高校時代まで――
 という考えが間違っていたことを思い知らされた。
 それを感じさせてくれたのが舞香との出会いであったが、舞香との出会いからすぐにそのことに気付いたわけではない。
 まして、舞香を最初から自分の親友だと思っていたわけでもなく、明日美にとってそれまでの友達とは異色な人だという意識はあったのだが、それ以上のものはなかった。舞香と出会ったことで最初に感じたのは、舞香という女性に対してなのか、舞香との出会いという出来事への思いなのか分からなかったが、
――新鮮さ――
 というイメージが他の人との出会いの中で感じることのできなかったものである。
――新鮮さって何なんだろう?
 明日美はそう感じていたが、舞香の方も明日美との出会いに同じような新鮮さを感じていたことを明日美は分かっていなかった。
 もっとも、明日美が感じたのと同じような感覚があったからこそ、明日美は舞香のことを親友だと思うことができるようになったのだし、舞香の方でも明日美のことを親友だと思うようになったに違いないと明日美は思っていた。
 舞香と一緒にいる時間は、明らかにそれまでの友達と一緒にいる時間とは違っていた。舞香と一緒にいると、時間の感覚はマヒしているように感じたし、舞香との会話には、それまでになかった魔力のようなものを感じたのは気のせいではなかった。
――舞香は、超能力者なんだろうか? 私の言いたいことを的確に言ってくれる――
 と感じた。
 舞香という女性は、きっと他の人から見れば、これ以上分かりにくい人はいないと思わせるに違いないのだが、明日美が見た時、
――これ以上分かりやすい人はいない――
 と思えた。
 だが、それも舞香と出会ってすぐに気付いたわけではない。最初はやはり一番分かりにくいと思っていた。だからこそ、他の人の目がどう感じるかということも分かるというものなのだ。
 そこで明日美は気付いた。親友というものがどういう存在かということである。
――親友とは、自分で意識していない間に、自分を変えてくれる力を持った人のことを言うのだ――
 と感じたことだ。
 だから、親友は一人である必要はないが、一生のうちに一人もできないという人もかなりいるに違いない。そんな親友に出会えた人は、それだけで人生の中の成功例としての一つを自分の中に刻み付けることができるというものなのだろう。
 舞香を親友として見るからなのか、舞香には自分に似たところがたくさんあるような気がした。ただ、舞香には相手に気を遣っているという素振りはない。自分さえよければいいという雰囲気を醸し出しているのだが、明日美に対しては気を遣ってくれているようにしか思えない。いい意味で誤解を受けやすい性格なのかも知れないと感じたが、それが舞香にとってどう反映されるものなのか、よく分からなかった。
 舞香は、自分のことをなかなか話しがらないくせに、よく明日美のことを聞いてくる。他の人だったら、そんな相手に自分のことをペラペラ話すことはないのだろうが、明日美はついつい話してしまう。舞香の話し方が誘導するのか、それとも明日美の方の話したいと感じている感情をくすぐるのか、ほいほいと話してしまう自分に対して不思議に感じる明日美だった。
 舞香は明日美の話を聞いたからと言って、何かをアドバイスしてくれるというわけではない。ただ黙って聞いているだけで、たまに相槌を打ってくれるだけだ。明日美にとってはその方が気が楽なので何とも思わない。二人は相性が合っていると考えていいに違いない。
 舞香のことを知るようになったのは、知り合ってから半年ほどしてからだった。舞香が自分の口から少しずつ話してくれるようになったからであるが、舞香の様子がその頃から変わってきたというわけではなかった。
 舞香が高校を卒業してから働き始めたことは知っていた。そして本屋で会ったあの時だけではなく、舞香は読書が好きな女の子で、本屋には毎日のように訪れていた。
「そんなに本を読むのが好きなの?」
 と聞くと、
「ええ、私は歴史が好きなので、歴史の本を読むのが好きなのよ」
 という舞香に対して、
「そうなの? 私も歴史が好きなのよ。でも歴史の本を読もうという気はしないんだけどね」
 と明日美がいうと、
「なんとなくその心境は分かる気がするわ」
「えっ、どうして?」
「私も最初は歴史の本を読もうという気にはなれなかったの。私は本を読む時はフィクションしか読まなかったからね」
 それを聞いて、明日美は舞香と知り合ったという意味がなんとなく分かったような気がしてきた。
――二人は知り合うべくして知り合った仲なんだわ――
 と感じた。
 明日美は舞香のことを早い段階で、
――親友だ――
 と思っていたが、舞香の方ではどうだろう?
 明日美が舞香のことを親友だと思うようになった頃は、まだ明日美のことを警戒していたような気がする。もっとも警戒していたと言っても、尻込みしていたような雰囲気ではなく、手さぐり状態ではありながら、その視線には熱いものが感じられ、
――舞香には目力がある――
 と感じさせられた。
 今まで明日美のまわりに目力を感じさせる人はいなかった。明日美自身が、
――自分には目力がある――
 と感じていたこともあって、目力のある人同士は引き合うことはないという意識を持っていた。
 お互いに相手の視線を感じると、目を合わそうとしないはずだという勝手な思い込みなのだが、明日美が相手を避けている証拠だと感じるようになったのは、中学に入ってからのことだった。
 小学生の頃までは、まわりに目力の強い人を感じることはなかった。中学に入ってまず自分に目力を感じた。それは鏡を見るようになったからで、鏡に写った自分が、小学生の頃とまるっきり違っているのを感じた。
 それは成長期に入ったことで、誰もが通る道なのかも知れなかったが、まわりに目力を感じる人はおらず、逆に背伸びを感じさせるわざとらしさを、最初にまわりに感じたことで、
――目力など感じることはないんだわ――
 と思い知った気がした。