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不可能ではない絶対的なこと

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 あの時と状況は違っているが、現象は同じだった。それを思うと、舞香にとって今回の同窓会への参加は、このことを再認識させるために催されたのではないかと感じ、不思議な感覚に陥ったのだ。
 一人いないという感覚が何年も経ってからよみがえってきたのだが、舞香にとってはまるで昨日のことのように思えた。不可思議な感覚は、時間を飛び越えて同じ位置に戻ってきたのだった。
 舞香は明日美が同じように同窓会で、かくれんぼの思い出を話していたなど知りもしなかった。お互いに自分の中にある何かが舞香は明日美によって、明日美は舞香によって引き出されたに違いない。

                 死ぬということ

 明日美は舞香のように自分のすべてを否定されたという意識を持ったことがなかったが、最近、
――自分のすべてを否定されたら、どんな気分になるのかしら?
 と考えるようになった。
 それは、最近知った宗教団体によるものだが、最初からその宗教団体に興味を持っていたわけではない。その団体に興味を示したのはあくまでも偶然であるのだが、明日美は偶然など信じられなかった。
 明日美は偶然という言葉を信じないわけではないが、この時に限っては偶然を信じるという気分にはなれなかった。
 その宗教団体はビラ配りをしていた団体だった。そこにいた人の一人から声を掛けられ、戸惑っているうちに明日美はその人に引き込まれるように誘われ、喫茶店で話を聞いた。相手が女性だったということも明日美の興味をそそった。
 今まで自分の知り合いで宗教団体に興味を持っている人は男性ばかりだった。女性で宗教団体に入信している人の気が知れないというのも明日美の考えで、その人の気持ちを聞いてみたいという思いが次第に強くなった。
「あなたは、私が宗教団体に入信していると思っているんでしょう?」
「ええ、ビラ配りを見ていると、明らかに宗教団体ですからね」
「あなたのいう通り、私は確かに宗教団体に入信しています。でも、あなたの想像しているような宗教団体とは少し違っているような気がするんです」
「というと?」
「私たちが声を掛ける人は、私たちを普通の宗教団体だと思っている人に声を掛けます。ほとんどの人がその対象なんですが、声を掛けた瞬間に逃げ出す人が七割程度いますね」
「それでも声を掛けるんですか?」
「ええ、残りの三割の人で、実際にこうやってお話を聞いてくれる人は、さらにその二割くらいです。だから、十数人声を掛けて、一人いるかいないかでしょうね。これでも十分確率的には高いと思っているんですよ」
 明日美は、この人に対して、
――宗教団体なのに確率を気にするなんておかしな感じだわ――
 と感じた。
 明日美の思っている宗教団体の人というと、世俗と隔絶されたかのような人で、聖人君子を目指しているかのように思っていたので、世俗的な発想を話すことはないと思っていた。それなのに、思ったよりも世俗的な話し方をするこの人に興味を持ったと言ってもよかった。
「確かに十数人に一人なら、確率は高い気がしますね」
 と明日美がいうと、
「あなたはその中でも少し違っているような気がするんです。話を聞いてくれる人がいても、ほとんどが興味本位に聞くだけで、真剣には聞いてくれません。その証拠に会話になることはなく、こちらから一方的に話をするだけなんですよ。お話を返してくれるだけでもあなたには他の人にはない何かを感じます」
 と相手が言った。
「そうでしょうか? 相手が話をしてくれているんだから、相槌を打つくらいは普通だと思っていますけど?」
 と明日美がいうと、
「確かにそうなんですが、相手に対して警戒心を持っていると、ほとんどの人は相槌なんか打ちませんよ」
「じゃあ、私はそういう意味で他の人と違うと?」
「そうです。だからと言って、私たちに興味を持ってくれているかと言えばそうではない。ただ自分の中の常識に従っているだけですからね。でも、その常識が大切なんです。常識という言葉は公的なものと私的なものがあると思うんです。一般的な常識と、人それぞれに持っている常識ですね。それを同じ常識だと考えている人は、人それぞれの常識を認めようとせず、自分独自の常識を他人にも押し付けようとする。でも、本人にはそんな意識はないんですよね。だから二人の間には確執が生まれて、溝がなかなか埋まらないことが多い。そのことを分かっている人は少ないと思います」
 という相手の言葉に、明日美は頷いていた。
 その言葉には明日美を納得させるだけの説得力があった。彼女は続けた。
「この世には不可能と思えることがたくさんあります。それもその人の常識の尺度で考えれば人それぞれなんでしょうけど、不可能を可能にしようと考えるのが、皆さんが考えている、いわゆる宗教団体と言われるものではないでしょうか?」
「その通りです。だから、胡散臭さも感じるので、敬遠する人が多いんだと思います」
「実際に、宗教団体による事件も多発した時期がありましたからね。マインドコントロールによるものがほとんどなんでしょうけど、人の心なんてそんなに簡単にコントロールできるものではないと思うんです。何しろ、常識というものを混同している人が多いこの世の中なんだから、それだけ人の心は多種多様でしょうね。でも、多種多様なだけに、いくつかの溝があるのも事実。そこを狙えば人の心をコントロールするなんて無理なことでもないと思います」
「たとえば?」
「人というのは、口では信じていないと言いながら、実際に信じていることって結構あったりしますよね。特にオカルトな話や伝説などは信じていないと言いながら信じてしまっている。そう思うと、世紀末など、人の心をコントロールするのは難しいことではない。ただし、一度にたくさんの人の心を動かすわけだから、当然カリスマ的な人の存在も不可欠だし、人を信じ込ませるような神かかったことも必要になってくる。相手を信じ込ませるためには、それなりに周到な準備も必要だというわけです」
 彼女は重たい話をしながら、饒舌さからか、明日美の心を捉えているようだった。
「人を信じ込ませるために、欺くというのも不可欠なんじゃないですか?」
 と明日美がいうと、
「そうでしょうね。それはマジックのようなものなんでしょうけど、人を欺くというのは、右を見させておいて、実際には左で細工をしているというものに近いかも知れません。でもそれをするにもテクニックが必要。人を欺くというのも、その人の能力であり、悪いことではないと思います」
「じゃあ、悪いことって何なんでしょうね?」
「それは私にも分かりません。分かっていれば、きっと悟りのようなものが開けているんだって思います。もっとも分かっていれば私も宗教団体にいることはないと思うし、そんな人が多ければ、宗教団体の存在意義もないような気がします」
「じゃあ、どうして宗教団体に入信したんですか?」
「きっと、自分が分からなくなっていたからなんでしょうね」
「じゃあ、今は分かっていると思っているんですか?」