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不可能ではない絶対的なこと

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――まわりの皆は私のすべてを否定しようとしているんじゃないだろうか?
 という思いだった。
 その最たる例が学校の先生であり、親だった。
 親は別にしても、学校の先生に感じた自分を否定しようとする雰囲気は、舞香が先生の言いたいことを全面的に否定していたからなのだろうが、舞香は舞香で考えがあった。それなのに、先生は頭ごなしに舞香を否定してこようとすると、上から抑え込まれる状態で頭を出すことのできないのは、水に頭をつけられて、抑えつけられている様子に似ていた。声を出すことはおろか、呼吸もまともにできない。次第に力が抜けていき、バタバタともがいているはずなのに、どうすることもできない自分をいつの間にか諦めていた。
――このまま早く楽になりたい――
 と感じた。
 舞香が人から冷徹な視線を浴びせられても、あまり焦った様子にならないのは、早く楽になりたいという思いを最初に抱くからではないかと思うようになっていた。そう感じるようになったのは中学に入ってからのことで、まわりから冷徹な目で見られていても、自分が人と関わらなければ、楽になれていると思っているからだった。
 さすがに最初から自分のすべてを否定されていると思っていなかった舞香は、学校の先生から何かを言われても、言い訳をするだけの言葉は持っていた。しかしいつの間にか言い訳を言わなくなったことを感じるようになると、その時初めて、先生が自分のすべてを否定しようとしているのだと感じたのだ。
「坂戸さんは、どうして先生の言うことが聞けないの?」
 と最初の頃にはよく言われたが、次第にそれも言われなくなり、冷めた目だけを浴びせられ、次第に無視されるようになった。
 この時が舞香にとって一番辛い時期だった。
「言われているうちがハナよ」
 とよく言われているが、まさにその通り、言われなくなるとホッとする反面、自分が見捨てられたということを自覚するようになり、見捨てられたということが自分を否定されたということに繋がることを自覚するようになった。
 自分が否定されていると自覚してくると、堂々巡りを繰り返しているという意識に陥ってしまう。最初は、
――相手に負けないように自分も何かを言わないと――
 と感じ、自分が対等、あるいはそれ以上であることを自覚してから始めないと、その時点で気おくれしてしまうからだ。
 そのうちに相手の言葉に戸惑いを示すようになる。ただ、相手も同じことを考えているだろうから、ここで先に折れてしまった方が負けだということは分かっていた。
 それでも舞香は相手の言葉に何とか逆らおうとするが、自分が逆らっているということを意識すると、それが言い訳だと思えてくる。
 そうなると、言い訳は自分の負けだという意識を持つため、気おくれしていないにも関わらず、後ろめたさが感じされるようになる。
 相手も同じように言葉がだんだんとなくなってくると、次第に言い訳を口にするようになっていることだろう。問題は言い訳を自分で言い訳をしていると感じて話をするかということだ。
 言い訳だと感じてしまうと相手に負ける前に自分に負けてしまう。そうなってしまうと独り相撲ととってしまい、相手に不戦勝を与えてしまうことに繋がりかねない。そう思うことがなければ、また最初に考えが戻ってくる。つまりは気おくれしないようにするというところに戻ってくるのだ。
 だが、すでに自分が否定されているという感覚は芽生えている。そうなると精神状態と状況との間にギャップが生じ、否定されていることが、本当は自分自身で否定していることになるのだということを感じてしまうのだ。
――自分で自分を否定する――
 その事実が堂々巡りを繰り返すと考えると、堂々巡りについて単独で考えるようになった。
 堂々巡りの発想で、最初に思い浮かんだのは、左右、あるいは前後に鏡を置いて、そこに写っている自分が無限であるということだった。
 またもう一つの想像としては、大きな箱を開けると、その中にはまた箱が入っていて、さらにその箱を開けると、さらに小さな箱が出てくる……。
 この二つの共通点は、
――限りなくゼロに近い――
 という発想である。
 鏡の向こうに、さらに向こうに見えている姿は次第に小さくなってくる。箱にしても同じように、開ければ開けるほど小さくなってくる。
――最後にはゼロになってしまうんじゃないか?
 と感じるが、実際にはゼロになることは理論上でもありえない。
 つまり、
――限りなくゼロに近い存在――
 を意識するということだった。
 自分を否定しても、最後がどこにあるのかも分からないので、絶対にゼロになることはない。そう思うとすべてを否定されてゼロになれば楽になれるのに、ゼロにならないことで、まるで生殺しのような状態に陥ってしまうことが一番怖かった。
――こんなこと、誰も考えたりしないでしょうね――
 舞香は、いつもそう思っていた。
 だが、同窓会ですべてを否定してきた人たちが来るというのに、どうして参加する気になったのか不思議に思う舞香は、明日美の存在が自分にとって大きなものになりつつあることを自覚していた。
――明日美も同じような発想を持っているのかも知れない――
 明日美と一度宗教の話をしたことがあった。
 明日美は宗教について不思議なことを言っていたが、それがどういうことを言いたかったのか、今では分からなくなっていた。
――同窓会に参加しなければ、分かっていたかも知れないわ――
 と舞香は感じていた。
 同窓会に参加したメンバーの中には、舞香の知らない人もいた。
「ねえ、彼、誰だったかしら?」
 舞香は勇気を出して、誰かに聞いてみた。
 わざと小学生時代に話もしたことのない人に聞いてみたのは、差し障りなく答えてくれると思ったからだった。
 すると彼はビックリしたように、
「えっ? 彼は桜井君だよ」
 と言った。
「桜井君?」
「ああ、桜井君は目立たなかったけど、いつも奇抜なことを言っては、みんなをびっくりさせるタイプだったんだ」
 と言った。
 舞香は、奇抜なことを言って、皆をビックリさせる人の存在を知っていた。それは、人と関わらないようになる前の自分ではないか。舞香は少しおかしな気分になっていると、舞香が訊ねた相手から、
「ところであなたが誰でしたっけ?」
 と言われて、ビックリさせられた。
 いくら、人と関わらないようにしていたとはいえ、面と向かって誰かなどと聞かれるとは思ってもいなかったからだ。
「え? 私は坂戸舞香ですけど?」
 と少しむくれた気分で答えた。
「そんな人いたっけ?」
 と言って、きょとんとしていた。
 その表情を見ているうちに、
――彼はウソをついているようには思えない――
 と感じた。
 どうしたことなのだろうと思っていたが、自分が聞いた人は明らかに自分ともう一人舞香の知らない相手とを混同している。舞香が知らない相手を舞香だと思っているのだ。
――そういえば、かくれんぼでも一人誰かがいなかったように言われたけど、誰も人数が減っていることに違和感がなかったわ――
 というのを思い出した。