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不可能ではない絶対的なこと

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 と感じると、小学生の頃、話ができていれば、どんな感情になったのだろうかと思うと、話をしなかった自分と、彼がどうしてあの時今のように話しかけてくれなかったのかを考えると、結局は自分が悪かったのだという結論にしか行き当たることはなかった。
 彼が話しかけてくれなかった理由は、他ならぬ自分に、相手に話しかけるだけの余裕を見せていなかったからだろう。話しかけるだけの雰囲気を相手に与えられないのは、よほど小学生時代の自分が予防線を張っていたということだろう。
――予防線って、何なのかしら?
 人から声を掛けられることがなかったことを、あの頃はホッとした気分で受け止めていた。
 小学生というのは、結構自由だったように思う。勉強を親や先生から強要されるが、勉強しなかったからと言って、進学できないというリアルな危機に直面することはなかったからだ。
 あの頃の舞香は冷めた目では見ていたが、その目線は正確なものだったに違いない。感情が入らないことで、冷めた目は冷静な目として判断を誤ることはない。それが舞香をまわりから見て、
――寂しい人間――
 として写るように仕向けたのかも知れない。
「私はいつも何かを考えていたその端から、何かを忘れていったような気もするんです。だからいつも頭の中では同じことを考えていたわけではないのに、堂々巡りを繰り返していたという思いに至ってしまったんじゃないかってね」
 その言葉を聞いて彼は、
「その考えは今の俺に近いかも知れないな。俺が今になって考えるようになったことを、小学生の頃に感じていたという君は、すごいのかも知れないって思うよね」
「それは褒め言葉なのかしら?」
 と舞香がいうと、
「もちろんさ」
 と彼が言った。
「ありがとう」
 舞香は一言礼を言った。その言葉は冷めた表現に聞こえるかも知れないが、舞香としては本心からそう感じていた言葉を口にしただけだった。
 その証拠に舞香には笑顔が浮かび、
「坂戸さんもそんな表情ができるんだね」
 とニコッと笑って彼は言った。
 その言葉に皮肉が含まれているのは重々承知していたが、その時の舞香には悪い気はしなかった。むしろ喜んでいた。それまで自分が笑顔になっても、まわりにその笑顔を気付かれることはないと思っていたからだ。久しぶりに会ったと言っても、今まで会話をしたこともない相手から、初会話ですぐに看過されたことは喜び以外の何者でもない気がしたのだ。
「坂戸さんは、小学生の頃、誰かと会話してみたいと感じたことはなかった?」
 いまさらそんなことを聞かれても、今までの舞香だったら、その言葉に返事をすることすら億劫に感じたに違いない。
 だが、相手が山下であれば別だった。むしろ山下がどういう意図でこんな質問をしたのか、彼の真意が知りたい気がした。そう思うと無下に返事もできないだろうと舞香は思った。
「思ったこと、あったかも知れないわ。でも、そう思うと、何を話していいのか分からない自分がいて、最初から計画できないことをそれ以上考えるということができない気がしたの」
 というと、
「坂戸さんならそうかも知れないね。俺の場合は行き当たりばったりのところがあったから、その場でアドリブの会話が多かったね」
「もし、それで友達を失うことになったら?」
 と舞香が聞くと、
「今だから言えるんだけど、友達はたくさんいたので、俺が変なことを言ったくらいで一人友達を失っても、一人くらい減ったとしてもって思っていたんだ。でも、今から思えばその考えは本当にもろ刃の剣のようだよね」
 という彼に対して、
「どうして?」
 と舞香は素直にその話を聞いてみたい気がした。
「だって、一人の友達を失ったことで、その友達にだって友達がいて、その友達と俺とを天秤に架けた時、どっちが重いかを考えるでしょう? もしもう一人の友達だったとすれば、その人がもし俺の友達のうちの一人だったら、その友達も同時に失うことになるということを考えたりもしなかったからね」
 と言われて舞香はビックリした。
 舞香は、まず最初にそのことを考えるからだ。まさか山下ほどの友達がたくさんいる人が、そんな簡単なことも分かっていなかったのだと思うとビックリさせられる。そう思うと自分が子供の頃にどれだけ深く考えていたのかを思い知らされた気がして、そこまで深く考える必要もなかったのではないかと思うと、山下と自分は、それぞれに両極端だったのかも知れないと感じた。
 らだ、その両極端というのは、お互いの長所と短所が背中合わせになっているもので、相手が表に出ている時は、こちらは裏になり、逆にこっちが表に出ている時は相手が裏にまわっているという、お互いに出会うことのないどんでん返しのステージをそれぞれの場面で演じていたのではないかと思った。
 舞香は、この時、山下と出会ってこんな話をしなければ、今の舞香はなかったかも知れない。それを言えば、舞香が小学生の頃、山下と正反対の両極端でなければ、同窓会での会話もない。そういう意味では、小学生の頃から繋がっている状況での同窓会の一場面が舞香にとってのターニングポイントになっているなど、その時は想像もできていなかっただろう。
 舞香にとって同窓会で山下と出会ったということがどういうことなのか、自分でもよく分かっていなかった。確かに何か自分の中でタガが外れたような気がしていたが、それが何を意味するものなのか分からなかった。
「俺は、小学生の頃、友達と遊んでいて行方不明になったことがあったんだ」
 といきなり山下は話し始めた。
「それはどういうこと? 私は知らないわよ」
 と舞香がいうと、
「それはそうだろうね。俺が転校してくる前のことだったんだからね」
 という山下の顔を見ると、彼が何を言いたいのか、舞香にはよく分からなかった。
「それをどうして今私にしようとするの?」
 と舞香がいうと、
「どうしてなんでしょうね? 坂戸さんには聞いてもらいたい気がしたんですよ」
 という山下に対して、舞香はどう答えていいのか困惑してたが、山下はそんなことにはお構いなしだった。
 山下は続ける。
「俺は、この学校に転校してくるまでは、いつも影のような存在で、人と会話をすることもまったくなく、人と馴染むなんて考えはまったくなかったと言ってもいいんだ。そんな俺だったんだけど、その日、一人の女の子が俺に対してかくれんぼをするんだけど、一緒にやらないって誘ってきたんだ。俺は嬉しかったね。いつもだったら誘われれば困惑してしまって、相手が誘ったことを後悔してしまうんだ。そして二度と誘わなくなる。俺はそれを狙っていたんだろうね。それなのに、その時俺に誘いかけてくれたその女の子の顔を見ると、なぜか楽しい気分になってね。思わず二つ返事でかくれんぼに参加したものだよ」
 と山下は言った。
 舞香にとって、寡黙で人と関わりを持たないようにしていた雰囲気など記憶にはない。それどころか、彼はまわりの誰から見られても人気があって、輪の中心にいても違和感がない雰囲気だった。
――そんなイメージを植え付けるだけの雰囲気が、彼にはあったわ――
 と小学生の頃の山下を思い出していた。