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不可能ではない絶対的なこと

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 明日美は、自分だけ一人で考えている時は、自分の理論は筋が通っていると思っているが、こうやって誰かと話をすると、たまにであるが、自分の筋が通っていないことを感じることがある。だが、それは自分を納得させるための理屈が優先するからであって、まわりまわって、結局は同じところに着地点を求めているような気がするのだった。
 明日美は自分を変わり者だと思うようになったのは、友達に言われたことと自分を納得させるための理屈に温度差を感じた時で、その温度差はいつも感じるわけではない。
 しかも、その温度差を感じるのは一瞬のことであり、その瞬間我に返ってしまうと、感じた温度差を忘れてしまっている。
 それは温度差を感じたということすら忘れてしまっているようで、まるで一瞬の夢を見たかのような感覚だと言えばいいのかも知れない。
 そのことを人に話すと、
「それはまるで夢を見たかのような感覚なんじゃない?」
 と言われた。
 友達の方が自分よりもよく分かっているようで、普通なら癪に障るのかも知れないが、このことを看過した友達に対しては、癪に障るようなことはなかった。それよりも敬意を表するくらいの気持ちになっていて、彼女と話をしていると、
――自分なのに分からないことも結構あるんだわ――
 と感じさせられた。
 むしろ、
――自分だからこそ分からないこともある――
 と言われているようで、本当なら気付いているはずのことに気付かない自分を思い知らされたようで、目からウロコが落ちているかのようだった。
 意外と近くにあることの方が目につきにくいものであるということは、昔から言われていて、誰もが知っている常識的なことだと思っていたはずなのに、自分のこととなるとまったく感じることもなかったのである。
 ただ、自分でも分からないようなことを、他人が分かるはずもないという理屈が明日美の中にあったのだが、それは単純に、
――自分が先にあって、他の人を見る余裕がある人というのは、そんなにいない――
 と思っているからだった。
 明日美はその友達とはいつから仲良くなったのか、ハッキリと意識したことはなかった。気が付けば仲良くなっていたのであって、そもそも明日美が考えている友達という意識とは少し違った関係性にある仲だった。
 彼女の名前は坂戸舞香という。
 舞香と知り合ったのは、本屋でのことだった。
 普段から短大からの帰りには、いつも駅前の本屋に寄るのが日課になっていた。
 その本屋はそれほど大きいわけではなく、立ち寄る人はいつもまばらだった。それは明日美が学校から帰る時間だったからであって、まだ夕方くらいだったからだ。六時を回った頃から通勤の帰宅ラッシュが始まることで、会社帰りのサラリーマンやOLが結構立ち寄っているようだった。
 明日美はその日、いつものように夕方の四時過ぎくらいに本屋に立ち寄り、文庫本のコーナーを眺めていた。雑誌コーナーであれば、少しは人もいるのだが、文庫本コーナーともなれば、明日美の立ち寄る時間に人がいることは稀であった。その日も誰もいないことを確認して文庫本の棚を目で追うようにして背表紙を眺めていたが、ふいに誰かの気配を感じて、思わず立ち止まった。
 その人はすぐそばまで来ていて、
――どうして気付かなかったんだろう?
 と感じたが、なるべく平静を装うようにしようと明日美は感じた。
 相手は明日美がそこにいようがどうしようがお構いなしという雰囲気だった。それが、明日美に対して、相手の気配を感じさせない雰囲気を醸し出させたのだろうと考えた。
 明日美はそんな彼女を思わず観察してしまった。彼女は明日美に観察されているのを意識していないのか、明日美と同じように本の背を眺めていた。
 明日美はそんな彼女を見ながら、
――あれが普段の私の姿なのかしら?
 と感じた。
 人の姿を見て、自分をイメージするというのは、子供の頃にはちょくちょくやっていたことだった。それがいつの間にしなくなったのか自分でも忘れてしまっていることに明日美はショックを覚えた。
 彼女がどんな本を探しているのか、その時の明日美には想像もつかなかった。明日美も彼女の様子を横目に見ながら、自分も同じように本の背を眺めていたのだ。
 明日美は読む本のパターンが決まっているわけではない。ただ、読まないジャンルは決まっているので、それ以外という探し方をしている。
 明日美は基本的にはノンフィクションは嫌いだった。ドキュメントであったり、誰かをモデルにしたようなサクセスストーリーだったりという作品はあまり好きにはなれなかったのだ。
 中学時代に、国語の授業でよく読書感想文を書かされたのだが、その時の国語の先生が選ぶ題材のほとんどがドキュメントだったり、サクセスストーリーだったりした。読書感想文自体嫌いな明日美は、さらにその題材になっているのが、人の成功例である。自分中心を自負している明日美が自分中心を意識するようになったのがその時で、
――なんで、人の喜びをこちらも感じなければいけないんだ――
 と思ったからだった。
 そこに妬みがあるのを否定するつもりはない。確かに人の成功例を自分の励みにする人もいるだろうが、それを強制するということには納得がいかない。その頃から明日美は妬みや嫉妬を露骨に感じるようになったのだった。
 明日美が読む本のほとんどはミステリーやホラーだった。フィクション色の強いもので、現実からかけ離れた感覚が好きだった。そんな明日美がどうして歴史学を専攻しているのか、同じ歴史を専攻している人から見れば不思議に思えたようだ。
 まわりの人は比較的、本を読むのが好きな人が多かった。そのほとんどが歴史に関係のある本で、それは当然といえば当然なのだが、皆が読む本は小説ではなく、歴史書と呼ばれるものがほとんどだった。物語というよりも歴史学として読むような本が多く、内容は物語ではなく、ドキュメンタリーだった。明日美は皆が読むような本を読むことはなかった。
「学校のテキストだけでいいじゃない」
 というのが明日美の考え方で、あくまでもドキュメンタリーは嫌いだという立場を貫いていた。
 だが、舞香と出会うことでその信念は揺らぎ始めた。舞香も歴史が好きな女性だったのだ。
「歴史の本って、私はフィクションを読むことはないの」
 と舞香は言った。
「どうして?」
「私は歴史を見る時、その時代の中の一点に絞って見ることが多いのよね。歴史小説のようなフィクション系の小説は、人を中心に描かれていることが多いでしょう? しかもそこには作者の考えを描いているように見えるんだけど、実際には読者がいかに楽しく思えるかというのを中心に描かれている。それを考えると、個性がないように思えるのよ」
 と舞香が言ったが、
「それがフィクションというものじゃないの?」
 と明日美が言い返すと、