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不可能ではない絶対的なこと

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「僕はあの時、最初に隠れていたその場所を、そいつに見つかって、『ここは俺の隠れ場所だ。お前は出ていけ』って言われたのさ。僕は気が弱かったからその言葉に抗うことができず、スゴスゴと引き下がって、他の場所に隠れたんだ。案の定、すぐに見つかったんだ。最初に見つかったのはこの僕だったということさ。その時、僕はかくれんぼというゲームから解放されたんだよね。だから、客観的にその様子を見ることができた。鬼だった明日美さんの様子も、次々に見つかっていく人たちもよく見ると面白いと思ったよ。明日美さんも見つかった方も、同じようにホッとしている。見つかった方が悔しさを感じているなら面白いなんて思わない。当たり前のことだからね。そうやって見ていると、最後の一人がなかなか見つからない。その頃になると、もう最初に見つかった僕の存在なんて、誰の意識にもない。しかも僕は暗かったので気配自体も薄かったからね。そうなると、皆に見えないものが見えてきた気がしたんだ」
「どういうことなんだい?」
 と誰かが聞くと、
「事実以上の真実はないって僕は思っていたんだけど、でもその逆はどうなんだろう? って思ったんだ」
 という彼に対し、
「というと?」
 さらに誰かが念を押すように聞いた。
「真実以上の事実ってあるのかなって感じたのさ。事実と真実という言葉を考えた時、普通なら、狭義の意味として事実があり、広義の意味として真実があるんだって思っていたんだけど、実際にそうなのかなって思う。真実と事実を同じ次元の上で考えていいものなのかって思うと、それまでの暗かった自分が可笑しく感じられたんだ」
「どうして、そんな風に思ったんだい?」
「だって、皆五人いたって言っているでしょう? 僕は四人だったって本当は思っているんだ。事実は確かに五人を示している。でもそれが真実なのかどうなのかを考えると、真実じゃどっちなんだろうってね? そしてやっぱり一人がいないって言われて、それが僕の代わりにそこに隠れたあいつだって知った。それは僕の防衛本能が彼の意識に働きかけて、そこに隠れるのは危険だということを彼を通して教えてもらったんじゃないかって思ったんだ。そう思うと、僕には人にはない不思議な力があるんじゃないかって考えて、そこから発想がそれまでとまったく変わった。ただ、そのせいもあってか、鋭い感覚に翳りが見えてきたような気がしてきたんだけどね」
 と言って、彼が口元に不敵な笑いを浮かべた。
 すると別の人がまたおかしなことを言い始めた。
「そうなのかい? 僕はもう一人違う人がいたような気がしたんだ。それも男ではなく女だったような気がするんだ」
 とその話をし始めたのは、元々その日、かくれんぼをしようと言い始めた人だったように思う。
 普段から目立つ方ではなかったが、たまに発言すると、彼の意見が通ることが多かった。本人は意識していないが、まわりに与える彼の影響力は結構強いものがあった。
 ただ、それは彼の人間的な性格というよりも、彼が発言する時というのは、いつも意見が割れている時が多く、彼の発言によって割れた意見に結論を与えるもので、その時には彼が意見を一刀両断にしてくれたことを分かっているのだが、後になるとその理屈が忘れられていて、彼の意見がすべてを決めたように思われるところがあり、次第に彼の影響力が大きかったように思えるのだった。
 そのことを明日美は思い出していた。その彼が口を開いたのだ。その口からどんな話が語られるのか、少し気になっていた。
 彼の影響力の強さを感じていたのは明日美だけに限ってのことなのか、他の人は彼の言い出した話にあまり興味を持っていないようだ。
「どうして、そんな話を今になってするんだい?」
 と言わんばかりの雰囲気に明日美は少し戸惑っていた。
 まわりは誰の味方をするというわけではなく、傍観していると言った方がいいくらいだった。その様子を見ながら気にはなっているにも関わらず傍観している自分に対しても不思議な感覚を持っている明日美だった。
「女の子というのはどういうことなんだい? うちのグループで女の子というと、明日美くらいしかいないじゃないか」
 そう言ったのは、自分の意見を横から掠め取られそうになっている昔は目立たない男の子だった。
「俺もそう思っていたんだけど、あの時だけは一人女の子が混じっていたような気がしたんだ。その女の子は明日美が連れてきたんだって思っていたんだけど?」
 彼は言うに事欠いて、明日美をこの話の中に巻き込むような発言をした。
 それを聞いてまわりの人は一斉に明日美を直視した。
 さすがに一気に直視されたことのなかった明日美はビックリして、後ずさりしそうになっている自分に気が付いた。誰を見ていいのか分からない状況に戸惑いながらも、視線の痛さを初めて感じた気がした。それだけ今まで人に直視されたことがなかった証拠なのだろうが、誰か一人に直視されるのと、一気にまわりの視線を浴びせられるのとどちらが厳しいものなのか、想像もつかなかった。
「えっ、私?」
 思わず自分を指差してしまった明日美を見て、皆驚きの表情を浮かべている。
「違ったかな? 違ったのならごめん」
 と言っては見たものの、ここまで明日美に視線が集中してしまうことを想像していなかったのか、言った本人も戸惑っているのか、慌てて否定していた。
――謝るくらいなら、最初から余計なこと、言わなければいいのに――
 と思ったが、浴びてしまった視線を思うと後の祭りだった。
「でも、言われてみれば、今まで遊んできた中で、明日美以外の女性がいたと言われればそんな気もするんだよな」
 と今度は別の人が言い出して、それを見て、他の人も思わずだろうが、頷いているようだ。
――えっ? どういうことなの?
 明日美はまた戸惑ってしまった。
――知らないのは私だけってこと?
 と思うと、自分がいない時、誰か他の女の子が自分の代わりを演じていたように思えて不思議な感覚だった。
「そうだね。あの日の鬼も、今まで明日美だったと思っていたけど、別の女の子だったような気もしなくもないんだよね」
 と言い出したから、明日美は根本から記憶を疑ってみなければいけないような状況に追い込まれていた。
「いやいや、あの時鬼だったのは、この私なんだけど」
 というと、
「うん、確かにあの時は明日美だった」
 と今度は他の男の子が言った。
「でも、明日美だったら、誰かの存在を忘れてしまうなんてことないと思うんだよ。だからあれは別の日のことだったんじゃないか?」
 というと、今度は他の人が、
「うん、俺の記憶では、かくれんぼをしていて、誰かが行方不明になって捜索したというのが一回だけではなかったように思うんだけど、皆はどうなんだい?」
 というと、
「それは俺も感じていたけど、明日美がさっき話していたのは、行方不明になったやつが転校していったことで、事の真相が分からなくなって、誰もが口にしなくなったあの時のことだよね。でも、それ以外に一人行方不明になって、その子はすぐに見つかったことで、何も問題にならなかった。ここにいる連中の中にも、そのことを気付いていない人だっていると思うんだよ」