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時代の端っこから

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 それから3日ほど経った金曜日の夜、僕は食後にリビングで阪神巨人戦の中継を見ていた。八回裏の阪神の攻撃一打同点のチャンス。関西人のテンションが一番上がるカードと時間帯だ。
「賢太郎」
「なんだよ、今エエとこやのに」
 八回裏ノーアウト満塁、阪神絶好のチャンスのところで後ろのテーブルから巴姉ちゃんの呼ぶ声がした。
「せっかく調べて来てやったのに」
「何が?」
「軍艦島が衰退した理由よ」
今自分の中でのホットトピックである軍艦島の話題。ちょっとのことですぐに門戸を閉ざす姉の機嫌には逆らえない。僕は気になるテレビを横目で見つつ、姉のいるテーブルにへと場所を移した。

「何が分かったん?教えてよ」
「しょうがないわねえ」
 姉ちゃんはそう言ってまとめた資料を見せてくれた。理系の人だけにまとめ方が半端なくスマートで、推測や曖昧なところが見られない。大雑把な僕からみればそれは市販の本のようだ。
「まず、19世紀。産業革命の影響で軒並み発掘された石炭。あの島が『軍艦』に変わったきっかけ」
 石炭が国の産業を変えたことは僕も調べて分かっている。石炭があったからのどかな島は重要な場所に変わりまさしくその名前を冠するまでに姿を変えた。
「時代は戦争に突入し、石炭の需要は増え島はとても忙しくなった」
 20世紀に入って石炭は戦争に使うべく大量に掘られ、島は活気づき、賑わい潤ったようだ。僕は姉ちゃんの説明にただ頷いて聞いていた。 
「それから戦争が終わり、20世紀の中頃に『エネルギー革命』が起こったのよ」
 姉ちゃんはノートの矢印を進み、その先にある『エネルギー革命』の単語で止まった。
「世界のエネルギーは石炭から石油に変わった。コスト、効率、公害そして……」
「そして……?」 
「採掘のリスク」
 石炭の採掘方法は、地中に深く深く掘り下げる。島そのものは外観を変えないが、地下には脈々と石炭を掘った穴がアリの巣のように張り巡らされている。それも細く、長く。空気も、光りも十分に届かない上、度々落盤があって命の危険も高い。そして以前ほど掘っても儲からなくなった。
「石炭石炭って言うけど、掘ってくるのは命懸けなのよ。それでいて効率の良い石油エネルギーに押されて企業も坑夫もどんどん離れていったわけ――」
「ふーん、それで島から人がいなくなったってこと?」
「そう、昭和49年にね。掘ればまだ出るんだろうけどね。」
 確かに、働くという機能を考えれば素晴らしく効率的だ、でも当然のことだろうけど儲からなければ意味がない。いつかは聞いていないけど、おじいちゃんたちも規模が縮小されてゆく中で島を出たのということだろうか。

 僕は、初めて端島の機能性を知った時は何て合理的な場所なんだと思った。そして自分もそんなところに住んでみたいと思った。毎日電車に揺られて学校に行く時間の無駄がないし、自転車転がして遠いスーパーに買い物に行く手間が省けると思った。
 でもそれは安易な皮算用であって反面的にある問題点は全く考えていないことを姉ちゃんに知らされた。
「まさに軍艦を動かす『エネルギー』がなかったら、みんな離れていくわね。確かに便利だったんだろうけど」
 
 僕は何も言い返す事がなかった。沈黙のリビングでテレビからアナウンサーの悲鳴に近い叫び声が聞こえた。
「三しーーーん」
 
作品名:時代の端っこから 作家名:八馬八朔