小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

時代の端っこから

INDEX|7ページ/16ページ|

次のページ前のページ
 


 その夜、自分なりに調べたことを報告しようと誰かに話したくて、食後に姉ちゃんと一緒に旅行もののテレビを見ながら軍艦島の話題を挙げてみた。すると、姉ちゃんも興味があるようで普段の鬱陶しがる顔をせず、僕の話に耳を傾けるそぶりを見せた。
「……で、そこは沈まない船みたいなところなんよ。そこで仕事もできて学校も娯楽だってある。通勤通学の無駄も無くて合理的やん」
「ふーん。あんたも好っきゃねえ、そうやって図書館で調べものするの。学校の勉強はあんませえへんのに」
「うるさいなあ……」
 姉ちゃんはテーブルに広げた僕のノートに落書きを始めた。ノートの上で姉ちゃんが落書きした犬がはしゃいでいる。
「母さんは、じいちゃんたちが軍艦島にいたこと知ってた?」
 姉ちゃんは僕の後ろでご飯の後片付けをする母さんに問いかけた。
「うーん。『いた』というのは知ってたけど、」流しの水を止めて、リビングに寄ってきた「だってお父さんがあそこを離れたのは子どもの頃よ。私と出会う前のことやからね」
「そや賢太郎。島が閉鎖になったのっていつやった?」
「あ、そうか……」僕は自分のメモを確認した。昭和49年までにはすべての住民が島を離れ、以後無人島になっている。
「ってことはお父さんは中学出たくらいの時だ」
「そりゃお母さんもわからへんわ」
 
「でも何でそんな便利なところを離れたんだろう」
「それも図書館で調べてきたらエエやんか」
姉ちゃんはテーブルに広げた僕のノートをペンでトントンと叩いた。
「僕は部活あるねん、姉ちゃんみたいにヒマとちゃいますねん」
「あっ、言ったな?あたしもちょっと調べたろ思とったのに」
姉ちゃんは持ってたペンを指で弾いて転がすと、消ゴムのところまで転がって止まった。さっき書いた犬はまだはしゃいでいる。「大学の図書館の方がヒント一杯あると思うよ」
 僕はその言葉には逆らえなかった。姉ちゃんは僕よりもはるかに賢い、姉の専攻は女性には珍しいエネルギー工学だ。島の沿革と歴史とは縁が遠そうな、いわゆる理系の人。それでも自分をはるかに凌ぐ知能を貸してくれるなら断る理由はない。
「お願いします、姉上」
「仕方ないわねぇ」
という姉ちゃんの口元は笑っていた。姉ちゃんも興味があるのは顔に書いていたけど、姉なりのプライドだろう自分から口にはしなかった――。

作品名:時代の端っこから 作家名:八馬八朔