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短編集55(過去作品)

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 だが、やっと解禁になってから、典子の中で、どこか男性不信の気持ちが強まってきたことを感じていた。男性不信が次第に一人でいることの安心感を感じるようになり、寂しがり屋のくせに一人を欲している自分がいることに気付く。
――離婚してからの半年間がよかったな――
 と思える時間もあるが、ほとんどは、一人の時間を大切にしている自分が、
――これが本当の自分なのかも知れない――
 と思っていた。
 吉住主任とは、数回だけの情事に過ぎなかった。最初の日、満月だったように思っていたが、今から思えば少し欠けていたように思う。ただ、絶えず月を意識していたようで、一番綺麗に感じられたのが、三日月の日だった。
――魔が差したのかしら――
 後悔をしているわけではないが、あの時の心境を思い出すことは難しい。離婚の原因の一部に吉住主任とのことがないわけではなく、その意味では後ろめたさもある。だが、他の男性を知ってしまって、青木という男性にどこか疑問を呈したのも事実である。遅かれ早かれ離婚していたのではないかと考えれば、吉住主任とのことを正当化しようとしている自分をいじらしくさえ感じてしまう。
 自分の中に男性を道具のように見ているのではないかという疑念が持ち上がった。その時の快楽や安心を得たくて男性を利用している。もちろん典子だけの考えではないかも知れないが、女性全員というわけでもない。男性も同じような考えを持っている人も多いのではないかを考えるがどうなのであろう。それが男性不信の一因のように思えてならない。
 寂しさを紛らわすために、購入したパソコンで、メールやチャットを始めた。最初は同じような考えを持った人を探してみたいというのが目的であったが、いろいろ聞いてみると、同じように離婚した人が何と多いことか。それも女性が多いのには少しビックリしてしまった。
 男性の中にも離婚経験者はいる。ネットということもあり相手の顔が見えないことで、すぐに告白できる。それよりも相手の表情が分からないからこそ、自分のことを話してわかってもらいたいという気持ちが強いのかも知れない。
 むしろ、典子は後者の方だった。分かってもらうにはまず自分のことからと考えるのは当然のことである。
 心と身体がバラバラになっている時期があるのを感じていた。どうしようもなく身体がムズムズしているのに、男性を見るのも汚らわしいと思う時期である。
――男性にも同じ時期ってあるのかしら――
 男性にばかり目が向いてしまうが、女性では珍しいことだと思ったからだ。典子の思い込みなのかも知れないが、少なくとも典子のまわりにいる人からは、そのような精神状態は見えてこない。
――ということは、まわりからは意識されているのかしら――
 はしたない自分を他の女性が意識していると思うと、一気に孤独感が襲ってくる。それに耐えるために、
――自分は孤独が好きなのだ――
 と思い込むしかない。
 寂しがり屋なのに一人でいることを欲している自分がいることに気付くのはそんな精神状態が影響しているからなのだ。それだけは典子にも言い切れた。
 ネットで知り合った男性と、ネットの中だけで話をしている時は、結構気持ちが入り込んでいた。気持ちが入り込んでいく時というのがこれほど新鮮なものであることに初めて気付いたが、それもある程度まで仲良くなるまでである。
「そろそろ実際に会ってみたくなったよね」
 怖い気もしていたが、相手の男性からそう言われるのを待っていたような気がする。
「そうね。あなたは信じてみたい人だわ」
 こんなセリフを平気で言えるなんて、それだけネットの魔力のようなものを感じていたのだ。
 ネットで話をしながら何度となく虚栄の世界に疑問を感じてきた。そのたびに彼のセリフが疑問を解決してくれるタイミングのよさがあったので、次第に彼を信じられるようになっていったのである。
 約束をして、初めて会ったのは、ネットで知り合って一ヶ月した時だった。これが早いのか遅いのかは他の人の話を聞くことがないので分からなかったが、典子の中では遅いのかも知れないと思っていた。それだけネット上の会話にはトキメキを感じていたからだ。
 待ち合わせ場所で待っている時間が一番ドキドキした。写真だけは見ていたが、写真だけの表情しか知らない。実際に目の前に現われても、
――本当にこれが写真の人なのかしら――
 と感じるかも知れないという思いはあった。実際に現れた彼を見た最初の瞬間にまったく同じことを感じたからだ。
 待ち合わせ場所で少し話をして、
「食事でも行きましょうか」
 と誘われて彼が予約を入れておいてくれたレストランで正面にした時に、写真の人であることを確信した。待ち合わせ場所ではあくまでも初対面には違いなかったからである。
 お洒落な人であることは分かっていたが、あまり背伸びするタイプでもない。素のままの彼がいいのだが、この日は彼にすべてを任せてみた。
「ネットで知り合った人も多いんでしょう?」
「そんなことはありませんよ。ネットで初めて知り合ったのがあなたで、それ以外の人とは話をしていても話が合わないことが多いんですよね」
 というと、彼は少し苦笑いをした。むしろ、勝ち誇ったような笑顔だったと言っても過言ではない。
「きっと私をずっと意識してくれていたんでしょうね」
 本当であれば、自信過剰な人はあまり信用できないと思うのだろうが、その時は、
――これくらいのことを言う人なんだわ――
 と感じ、そのことは最初から分かっていたことでもあった。ネットで知り合う男性の多くはナンパな気持ちがあることも分かっていたし、ナンパされることが嫌でもない。ただ、どうせならスマートにナンパされてみたいと思っていたのだ。
 それに関して彼はパーフェクトに近かったかも知れない。実にスマートに話をしてくれた。会いたいと思ったのも彼でなければ思わなかっただろう。何よりも彼以外にあまり他の人と会話しなかったことが一番の証拠である。知らず知らずのうちに、ネットをやっていると、自分の先のことが見えてくるのではないかと思えるようになっていった。
 彼と会った時、想像どおり彼に抱かれた。歩いていて綺麗過ぎるくらいに完全な満月。これ以上ないと思えるほどのシチュエーション。
 だが、結局典子の中で何も変わらない。スマートで完璧すぎるがゆえに、まるで別世界のように思えた。夢のような数時間が過ぎてしまうと、典子の中には何も残っていなかった。
 彼の言葉は一言一言がもっともで重たいものだった。それに比べて彼の存在は軽い。軽いと言っても、ナンパな軽さではなく、心地よい軽さであって、相手に重さを意識させないような意識が働いているようだ。
 物足りないといえば失礼になるだろうが、どこか集中できない。集中できたとしても、すぐに忘れてしまう。元々がネットで知り合った相手ということを意識しすぎているのかも知れない。
 彼とは付き合うまでには発展していない。彼自身もネットで知り合った相手と真剣に付き合う気持ちがなかったようで、典子の中で、
――私はやはり孤独な自分を感じている方がいいんだわ――
作品名:短編集55(過去作品) 作家名:森本晃次