小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

隆子の三姉妹(後編)

INDEX|15ページ/38ページ|

次のページ前のページ
 

 裕也には、逆に分かってしまった。
 由美が洋子とは血の繋がりがなく、逆に自分と血が繋がっていることで、
――本当は最後まで黙っておきたいことなのだが、話してしまわないと気が済まない――
 という状態になっていたに違いない。
 裕也に分かってもらおうとして話をしたわけではない。裕也が、自分の感じていることを素直に話してしまいたい相手であるということなのだ。
 裕也は年下なのに、どこか頼りになるところがある。そのことに関して、なぜなのか、由美は絶えず考えていた。今までに年下を頼りになるなどという発想は、頭の中にはなかった。ひょっとすると、これからもないだろう。あるのは、裕也に対してだけだった。
 裕也と知り合った時のことを思い出していた。
 その時、由美はちょうど好きになりかかっていた男性から、事実上フラれたような格好になっていた。別に告白をしたわけではない。告白するつもりもなかった。ただ、そばにいられるだけでいいと思っていた相手で、自分よりも二つ年上の男性だった。
 由美には年齢以上に頼りになる男性に思えた。
――男性に対する感情に、年齢は関係ない――
 と思っていたのだが、実はそれは錯覚だった。
 頼りになるかどうかというのは、相手の雰囲気と年齢差を比較することで感じることだった。そのことに気付いたことで、さらに年齢差を意識しないわけにはいかなくなった。裕也に対して自分よりも年下なのに、しっかりしているのを感じると、
――きっとこの人は、私なんかよりも、波乱に満ちた環境で育ってきたんだわ――
 と感じた。
 どれほどの波乱なのか、見てみたい気がしてきた。付き合うことになるとはその時はまだ思っていなかったが、その時以下の関係になるということはないだろうという予感はあったのだ。
 由美は、好きになった人に対してはもちろんのこと、他の人であっても、少しでも自分より勝っているところを見つけると、
「この人には勝てない」
 と、簡単に諦めてしまうところがあった。そんな由美に対して、
「もっと、自分に自信を持てばいいのに」
 と言ってくれたのが裕也だった。
「俺は由美よりも年下だけど、年下だなんて感じたことはない。年齢がどうであろうと、男女の仲に変わりはない」
 そう続けた裕也は頼もしかった。腕を組んで歩いている時であっても、裕也の背中を見ながら歩いているような気持ちになっているのだった。
 裕也が、
「兄の墓参りに行くんだけど、一緒に行ってくれないか?」
 と言われた時は嬉しかった。
――彼の背中を見ながら歩いてもいいんだ――
 と言われているようで嬉しかったのだ。
 ただ、その時の裕也の表情が普段よりも真剣だったことが気になっていた。
――まさかプロポーズされるんじゃないかしら?
 と感じたほどだ。
 付き合い始めて、まだそれほど経っていないのにプロポーズはさすがにないだろうと思っていたので、真剣な面持ちには緊張が走ってしまった。
 その時裕也は、由美と一緒に二人で旅行して、自分の気持ちに節目をつけたいと思っていた。姉である由美に対して自分がどんな態度を取ればいいのか、中途半端ではいけないと思っている。
 墓参り先で裕也は、兄の隆二と落ち合うことになっている。隆二は洋子を連れていることだろう。由美が、
「洋子姉さんが近くにいる」
 と感じたのも、まんざら信じられないことではない。
 もちろん、裕也は隆二との待ち合わせの計画を綿密に立てていたわけではない。何しろ偶然を装うことなどできないからだ。作為がなければ、落ち会うことに必然性は考えられない。
 隆二は今回の計画に消極的だった。ここで裕也と落ち合ったことをどう言い訳すればいいか分からないからだ。洋子は裕也と面識があるが、まさか自分が裕也の兄であるなど、思ってもいないに違いない。
 しかも、裕也が連れてくる由美は、自分の妹に当たる。まさか自分のことが分かるわけもないが、何か嫌な予感がしていた。
 由美は、裕也と歩きながら、ふいに何か予感めいたものを感じた。
「これから、誰かと会う約束でもあるんですか?」
「えっ、どうしてなんだい?」
「いえ、洋子姉さんが近くにいるような予感ばかりがさっきからしていたんですけど、今度はそれ以外に、誰か違う人の予感がしたんです。今までに感じたことのない思いなんですけど、初対面のはずなのに、以前に会ったことがあるような感じがする人なんです」
 正直、裕也は由美が恐ろしくなった。まるで、
「あなたのことは何でもお見通しよ」
 とでも言いたげであるのが分かるからだ。
「そんなことはないよ」
 と、もうここまで来てしまっては言えるはずもない。ここから計画以外の態度を取るのは、あまりにも不自然さを誘発するだけだった。
 なるべく平静を装うしかないと思いながら、何とか普段の自分を取り戻そうと懸命だった。
「それはまるでデジャブのようだね」
 平静を装うには、まるで他人事のように話題を変えるしかなかった。
「そうかも知れない。時々、私は自分の記憶がところどころ欠落しているんじゃないかって思うことがあるのよ」
「どうしてだい?」
「何かを思い出そうとすると、途中から急に先がなくなっているのに気付くんですよ。それはまるで道を歩いていて、そこから先が忽然と消えているような感じで、霧に包まれた道の向こうには、本当に今までと同じ道が繋がっているのかと疑いたくなる。そう思った時って。心の中では、繋がっているわけはないという結論は出ているんですけどね」
 由美は、自分の記憶を道に喩えていた。その喩えは実に的確なのかも知れないと裕也は感心していた。
 しかし、感心しているだけではいけない。いかにして由美の意識をはぐらかせるかが問題だった。
 今、ここで意識がはぐれたとしても、隆二に会った時には、最初に感じた感情がよみがえってくるに違いない。予知というのは、まったくの勘違いでない限り、その人の感じた思いとさほど開きがないものらしい。ということは、由美が感じた思いは、的を得ているということになるだろう。
「由美は、自分に予知能力があると思っているのかい?」
「予知能力はないと思っているわ。姉のことがそばにいるのを分かるのも、予知能力ではないと思っているのよ」
「そうかな? 僕は違うと思っているんだ」
「どういうこと?」
「君が考えているのは、テープの逆回しに似ているということかな? 君はお姉さんがそばにいることを感じたという一点しか見ていないだろう? 本当はその先にある、お姉さんと会っている自分を想像しているからじゃないかって、僕は思うんだ」
「……」
作品名:隆子の三姉妹(後編) 作家名:森本晃次