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短編集54(過去作品)

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 小学生の頃には、集団登校があり、一時期、下校も集団の頃があったので、いつも一人というわけには行かなかった。一人でいると苛められる気もしていたので、絶えず誰かのそばにいたのだが、それも輪の外からじっと見ているだけで、自分から発言したり、目立ったりなど決してすることはなかった。
 中学に入ると、いよいよ一人になった。一人でいる友達も増えて、下手に会話にならない人同士で一緒にいると、却って苛めに遭うように思えたからだ。もちろん、苛めを起こす連中はそんなことはおかまいなし、どこに理由があるか分からないが、賢三が苛められることはなかった。
――苛める側と、苛められる側の相関関係など、元々ないのかも知れない――
 見ているだけで苛めたくなるという理不尽な話もあるが、それでもまだ理不尽ではあっても理由がある。しかし、実際の苛めは、どこに理由があるのかすら分からない。
――いつの間にか苛められるやつが決まっていて、始まってしまうんだ――
 という印象しかなかったが、あくまでも賢三一人が感じたことである。社会問題になっている「苛め」とはまた種類が違うのかも知れないとまで感じていた。
 一人でいて、何か趣味でもなければ辛かった。
 賢三は本を読むのが好きだった。それも歴史上の人物の本を好んで読んだ。中には小説になっているものもあるが、実際の史実とかけ離れた小説を読む気にはなれない。読むとすれば、史実に忠実な話だけである。
――フィクションであるならば、完全なフィクションでなければ気がすまない――
 これが賢三の考えであった。歴史上の人物は存在していたのである。その人の事実を知らずして、フィクションを読むのは自分の中の性格に反していた。曲がったことが嫌いな賢三らしい性格である。
 本を読むと眠くなるので、あまり集中しないようにしていたが、それでもストーリーに引き込まれていった。
 孝也は、自分の性格をどう感じていたのだろう?
 孝也は、賢三の弟である。小さい頃はいつも兄の後姿ばかり追いかけていた弟だったが、中学に入る頃から、自分が変わって行くことに気付いていた。
 最初は何がどう変わったのか分からなかったが、兄の背中ばかり追いかけていくことに嫌気が差していた。
 いつも一人でいる兄と違って、自分は目立ちたいという思いが強くなっていったのだ。
 小学生の頃から、兄のことは孝也のクラスでも有名になっていた。
「いつも一人で暗い性格」
 そんなことを皆から言われていても、それでも兄の背中を見続けていくことに違和感はなかった。自分たち兄弟は、皆とは違うと思っていたからだ。
 実際に小学四年生くらいまでは、皆と普通に遊んでいた。リーダーシップもそれなりに発揮できていたはずなのに、五年生になると急に皆が冷たくなる。すでに兄は卒業していて、この学校にはいなかったのに、なぜ皆が敬遠し始めたのか分からなかった。理由があるとすれば兄のことしか考えられなかった。
 だが、苛めに遭うことはなかった。これは兄といい孝也といい、兄弟共通の性格の成せる業だったに違いない。
 どちらかというと、知的でインテリな道を選んで進んでいる兄と違って、人との協調や、協和を目指すのが孝也だった。
 一人でいてもつまらないと思うからではなく、最初は兄への反発の気持ちが強かった。誰かに対して反発心を持つことは、エネルギーになるということを感じていたからだ。
 中学に入ると、孝也を見るまわりの目は変わって行った。明らかに兄の賢三とは違って、活発で、会話にも積極的に参加してくる。話題性に関してはどうだっただろう? 誰かが発言したことに対してストレートな意見が受けたことは間違いない。だが、裏を返せば知識や教養を元にした意見ではなく、聞いたことをそのままその時の意見として返しているだけだ。根拠があるわけではない。
 それが却って受けたのは、中学生という輪の中だったからかも知れない。下手に教養があって、ひけらかすようなマネをしてしまえば、まわりが白けてしまって、干されてしまう可能性だってないわけではなかった。それを思うと、思い出すのが兄の顔だった。
 孝也にして教養のないことを気にしないわけではない。少しでも教養があれば、もう少し皆の意見に答えるとき、深みが出てくることくらい分かっているつもりだ。今はまだストレートな意見が受けているが、そのうちに受けなくなる可能性だってなくはない。そう思うと、教養を身につけることは決して悪いことではない。
 だが、それは兄に対しての反骨精神に反することになる。それがジレンマとなってのしかかって行った。
 孝也は中学に入ると野球部に入部した。
 何かスポーツをしたいと思うのも兄を意識してのことだった。学年が二つ違いなので、新入学の時に兄は三年生。受験生であった。
 三年生の途中くらいまでの兄は相変わらずのんびりした性格で、受験勉強にあくせくしているという雰囲気ではない。両親は気が気ではなかったようだ。
「大丈夫なのかしら」
 そんな声が聞こえてきていた。
 両親は、そんな兄弟を見ていて、どう感じていたのだろう。
 家で家族と話をするのは、もっぱら孝也の方だった。だが、逆らうのも孝也の方が多く、叱られることも多かった。
 兄は家族の中でも浮いた存在だった。
――兄だけ、本当に家族じゃないのかも知れない――
 口に出して決して言ってはならない言葉である。それほど兄はどこか家族の中で違っていた。
 父親は一介のサラリーマン。自分のことを、
「俺は所詮しがないサラリーマンだからな」
 と呟いていたが、決まってそれは呑んでいる時である。父親はあまり酒が強くないのは見ていて分かる。何しろビールをコップ一杯呑んだだけで顔が真っ赤になってしまうのだからかなり弱い。
 それでも晩酌は毎日のように続けていた。タバコも吸っていたが、タバコだけはさすがに、
「やめてくださいな。今はどこでも禁煙の場所が増えてきているでしょう」
 と母親から戒められて、簡単にシャッポを脱いだ。
 確かに世間では嫌煙権が叫ばれ始めて、タバコを吸っている人が白い目で見られる時代になってきていた。だが、元々孝也はタバコの匂いが嫌いではなかった。それが父親の匂いだと思っていたからだ。
 だが、このことに関しては、兄も同じ意見だったようだ。タバコ自体に嫌悪感は持っていたが、父親が家で吸う分には別に嫌な顔するわけでもなかった。
 兄の賢三の性格からすると、
――嫌なものは嫌――
 という意識が強いせいか、露骨に嫌な表情になる。これが兄の最大の短所だったのだ。
 そのことに気付いたのが孝也が中学に入ってからだった。兄がまわりから鬱陶しがられて、そのとばっちりが孝也に来た理由がそこにあった。
 賢三は、父親のことは根本的に嫌いだった。自分のことをしがないサラリーマンと声に出して家族の前で言う父親は一番嫌いだった。
 そんな父親の血を引いていることに嫌悪感があったのだろう。教養を身につけたいという思いであったり、あまりまわりと接したくないという思いが、父親に対しての反発から来ている。
作品名:短編集54(過去作品) 作家名:森本晃次