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隆子の三姉妹(前編)

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 しかし、体型はくびれが目立つような大人の体型にはなっていなかった。いわゆる「幼児体型」なのだが、そんな少女を好きな男は、世の中には結構いるようだ。
 すでに生理が始まっていて、洋子の身体と精神が一緒に変化を遂げた一番最初というのは、生理が始まったその頃だったのかも知れない。
 そんな洋子は、その頃から友達とは一線を画していた。まわりが自分を見る目が変わったことを感じたからだ。
――私が好きで変わったわけじゃないのに――
 と、理不尽な気持ちになっていたが、それはまだ成長を遂げることのできない他の人から見た「妬み」以外の何ものでもないように思えてならなかった。
 男の子の視線よりも、女の子の視線の方に鋭さを感じた。男の子は、どちらかというと、チラリと見るだけで、意識はしていても、そこに感情を込めることはなかった。しかし、女の子の場合は、明らかに感情が含まれている。それが妬みであることは分かっていたが、視線を感じるだけで、苛めを受けているわけではないので、必要以上に意識しないようにしていた。意識するだけ、損なのは自分だからである。
 同じ年齢の友達が、皆自分よりも劣っているという思いに駆られたのは、妬みの視線があったからだ。妬まれるということは、それだけ自分が人よりも優れている証拠だという論理を簡単に解釈する。自分に都合のいい解釈をしても、それが自然な解釈なので、疑う余地もない。それが洋子を増長させた。
 増長は孤独を正当化させる。
――私は、あなたたちとは違うのよ――
 まるで女王様気分だった。
 そんな時、年上のおじさんが現れて、自分を女王様扱いしてくれれば、まだ小学生の女の子、増長が相手への優位性となって現れたとしても無理もない。相手がどんな気持ちで近づいてきたかなど、考えるまでもなく、自分を女王様のように扱ってくれるこの男性の存在は、それからの自分を変えてくれる存在になると確信した。
 洋子は、安易に自分に対して確信するところがあった。まわりを疑うことはあっても、自分を疑うことはなかった。自分に自信があるのは悪いことではない。ある程度実力も伴っているからだ。しかし、人を疑うことを前提として、自分を疑うことをしないのだから、本当の自信に裏付けられたものであるかは、疑わしいものだった。
 そのために、おじさんから誘われた時も、一瞬戸惑いはあったが、おじさんが自分を見る目に輝きを感じたことで、迷いは消えた。本当は淫蕩な目の輝きだったはずなのだが、まだ少女だった洋子にそんなことは分からない。
――このおじさんは私に興味があって、私を引き立ててくれる――
 と感じたのだ。
 二人きりになると、おじさんは言葉巧みだった。洋子のことを褒めちぎる。ただ、それも普通の会話に基づいた褒め言葉であって、身体ばかりを褒めるわけではない。
 キチンと話を聞いてくれる大人の人に出会ったのは初めてだった。
 大人の人というと、親や近所の人、親戚や学校の先生。どの人たちも酔うことは微妙な距離である。
 大人の人とは、相手から話しかけてくれることがないと会話をしない。それは洋子に限ったことではなく、洋子の友達も同じだろう。
「大人の話に子供が口を出すものじゃない」
 それは、もっと小さな頃、まだ小学校三年生くらいの頃だったのだが、親戚のおばあさんが亡くなったということで、通夜に連れて行かれたことがあった。隆子はちょうど体調を崩し寝込んでいたので、祖母に隆子の看病を任せて、母親は洋子を通夜に連れていった。
 姉でもいれば、少しは違ったのだろうが、その時の洋子は、人見知りすることもなく、通夜の席ではあったが、人がたくさん集まっているのが嬉しかった。少しでも話をしたいと思って、近くにいたおじさんやおばさんに話しかけたが、それは相手の会話を妨げる結果になってしまった。子供心にそんなことは分からなかったが、母から、
「ちょっと、こっちに」
 と言われて、廊下に出て、そこで母に言われたことが、
「大人の話に子供が口を出すものじゃない」
 ということだった。
「分かったわ」
 と、一言答えたが、その時に洋子がどんな表情になったのか、母親は洋子を睨み返した。
 その時洋子は、ゾッとしたのを覚えている。
――大人の会話に口を出しちゃいけないんだ――
 洋子はそう思い、自分が改めて子供であり、大人との絶対的な距離を自覚した。
 大人の人から声を掛けられなければ、こちらから意識しないようにするようになったのはその頃からだった。
 だが、逆に言えば、声を掛けられれば、ついていくという危険性もはらんでいた。小学五年生の時の洋子はまさにその感情を一番感じていた時だった。
 どんな風に声を掛けられたのかはハッキリとは覚えていないが、疑う余地はまったくなかった。
 身体を触られた時、一瞬身を引いたのを見て、おじさんはニヤリと笑ったが、どうして笑ったのか分からない。洋子とすれば相手が触ろうとしたのを拒否したと思っている。本当なら、相手は怒り出すのではないだろうか。そう思うと、おじさんは少々のことでは怒ったりしない人だという意識を持った。
――大人の話に入ることを嫌った母親とはまったく違う。このおじさんは、私のことを分かってくれる唯一の大人の人なんだ――
 と、思うと、触られることも嫌ではないような気がしてきた。
 一度、身体がビクッと反応し、拒否の姿勢を見せたが、おじさんは拒否したとは思っていないようだ。しつように腕や首筋に触れてくる。
「どうしたのかしら?」
 洋子は、鳥肌が立つのを感じながら、思わず声を出した。
「どうしたんだい?」
 ニヤニヤ笑うおじさんは、本当は分かっているくせに、わざと聞いてきたのではないかと思わせた。
 今までの洋子なら、そこまで考えることはなかった。
――大人の人を遠い存在だなんて思わなくてもいいんだ――
 それは自分が、相手の気持ちを分かりかけていると感じたからだ。あれだけ遠い存在だったと思っていた大人の人の気持ちが分かるなんて、自分もまんざらではないと思うのも無理のないことだろう。
 洋子が自分に自信を持つようになったのは、その時が最初だったのかも知れない。
 この時持った自信は、その後、自分の心境にどんな変化があろうとも、しぼんでいくものではなかった。一度身についた自信が、何かあったくらいで揺らいでいたのであれば、それは本当の自信とは言えないという気持ちになった。間違ってはいない考え方だが、人によって持つ自信は違っている。その時の洋子には、自信の裏付けに、確信というものがあることを知っていた。ただそれが紙一重のところに存在していて、表裏一体であるというところまでその時に分かっていたかと言われれば、微妙だったのかも知れない。
 おじさんの指は巧みだった。
「このおじさん、上手だわ。気持ちいい」
 触られている時は、おじさんが慣れているという意識はなかった。
「私に対してだけなんだわ」
 後から思えば、そんなことあるはずないのに、そう思ったのは、自分の思い込みが大きかったからに違いない。
 そこに独占欲が存在していた。
 実は、同じ独占欲をおじさんも抱いていることに洋子は気付かなかった。
作品名:隆子の三姉妹(前編) 作家名:森本晃次