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短編集53(過去作品)

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 話が進んでくる中で、やはり彼女も偶数、奇数に何かを感じていた。だが、それは三浦に比べてネガティブである。不吉な方に意識が強いからである。
「私の好きな人が、ロッカーでいつも十七番を使っているんです。あなたも十七番ですよね?」
 スポーツクラブでの番号を知っているようだった。
「ええ、でもいつも空いてますよ」
「あなたとは正反対の日に来るんですよ。彼は私にとって好きな人なんですが、彼は私のことを何とも思っていない。この間、彼の夢を見た時、その後ろにあなたの存在を感じたんです。その実感があって、今日はあなたが出てくるのを待っていたら、このお店に入られた。これは偶然では片付けられない気分になりました」
 その日、彼女からの一方的な話だけで別れた。それ以上の話に触れようとすると、彼女は寡黙になり、口を開こうとしない。雰囲気が悪くなるのだ。
――またここに来れば遭えるさ――
 と思って何度か通うが、彼女と出会うことはできない。
「この席に座っている女性、最近来ませんね」
 とマスターに聞くと、
「そこには男性しか座りませんよ。それもアベックですね。四番目に女性が座って、三番目には男性です。しかもいつも同じ人ということではないようですよ」
 と答えてくれた。
――おかしいな――
「そうそう、そういえば、四番目にいつも座る女性があなたのことを気にしていましたよ。いつも三番目に座る男性は元気ですかってね。元気ですって答えておきました」
「偶数は不吉だって言ってたのに?」
「いえいえ、彼女は奇数が不吉と言って、必ず四番目に座っていますよ」
 真逆の人がいるのだ。まるで鏡のようだ。
 では、三浦が探している女性も必ずどこかにいるのだ。彼女も別の世界にいて、きっともう一人の三浦を探しているのかも知れない。
 世の中には整数は偶数、奇数の二種類しかないが、その二種類のものに、影となっているものが別世界に存在しているのかも知れない。白と黒、光と影、二つしかないものの奥に存在するもう一つの世界。そこは「魔逆の世界」なのかも知れない……。
 奇数とは、本当に数奇な数なのである……。

                (  完  )

作品名:短編集53(過去作品) 作家名:森本晃次