音楽徒然
2019.06.29 バスクラリネットのこと(出会いと構造)
バスクラリネットとは、クラリネットを長くして音域を下げた楽器です。
そんな楽器きいたことない、という方も、40人編成の吹奏楽部の演奏をよーく見てください。「ん? 何かやたら細長い黒い楽器が...」それがバスクラリネットです。
世間一般ではマイナーな楽器ですが、吹奏楽ではメジャーな楽器です。30~40人編成で一台、60人近くいる強豪校では二台あったりします。
バスクラリネットで有名な曲といえば、チャイコフスキー「くるみ割り人形 第三曲 金平糖の精の踊り」という曲です。
ディズニーの音楽アニメーション「ファンタジア」の「魔法使いの弟子」の冒頭でこの曲が使われています。
鉄琴の美しく不可思議なメロディのあとに「デレレレレーン」と低音で下降していく音、これがバスクラリネットです。
私はこの楽器を高校三年間+卒業してから何年か吹いていました。
確かビュッフェ・クランポン社のものだったかと思います。
楽器との出会いは新入生歓迎の演奏で、当時高校三年生だった先輩の演奏を見て一目惚れでした。
黒く縦にに長い風貌、その上で銀色にきらめくキィ、足の間に立てて吹くスタイル、柔らかく響く低音...
確かあの日は雨で室内での演奏だったのですが、外での演奏が不向きなバスクラリネットにはいい音を聞かせられる好条件だったのかもしれません。
その数日後、吹奏楽部の練習場所に行き、いろんな楽器を試奏させてもらったのですが、一番すんなり音が出たのがバスクラリネットでした。
新入生歓迎のときから一番吹きたいと思ってた楽器が、一番相性がいいなんて...これは運命だー!と思い、即決で入部しました。
当時奏者は三年生の方がおひとりで、それ以前も吹いていた人がずいぶん前に卒業したきりだそうで、独学で吹き方を覚えたと言っていました。
やっぱりみんなやるなら花形のフルートやクラリネット、サックス、金菅ならトランペットをやりたいわけで(この楽器、とんでもなく難しい。またその話は後日...)中低音楽器で目立たないバスクラリネットをやりたいという人がいなかったそうです。
奏者の多くは運指が同じクラリネットからの転向で、始めからバスクラリネットだけやりたいという人はあまりいないそうです。なので「どうしてもバスクラリネットが吹きたいんです」と言ったとき、ものすごく喜んでくれました。
吹奏楽初心者の私は、そういう説明を聞いても「へえ...そうなんですか(なんで人気ないんだろ、こんなにかっこいいのに)」と答えるしかなく、あっさり入部が決まりました。
当時はインターネットで他人のブログや感想を見ることができなかったので、「バスクラリネット最高!」の価値観を揺るがすものは何もなく、奏者は私ひとり、手探りでやりながらも幸せな三年間でした。
改めて「バスクラリネット」で検索すると、「やりたがる人が少ない」とか「最初は嫌だった」とかそんな言葉ばかり先頭に上がってきてしまって、心が弱かったあの頃にネット環境がなくてよかった...とも思うのでした。
いろんな楽器をやってきた今思うのは「けっこう難しい楽器だったんだな」ということです。
同じ木菅楽器、Bフラット菅(ベー菅)のテナーサックスと比べると、運指(指の動かし方やキイの押さえ方)が複雑です。
テナーサックスはアルトリコーダーと同じ運指です。実音は一音下(楽譜のドを吹くと、耳に聞こえる音はシフラット)が鳴りますが、楽器の裏側についているオクターブキイを押さえると、同じ運指で1オクターブ上の音が鳴ります。ドなら上のドがなります。アルトリコーダーで楽器の裏側にある穴を指半分で押さえる、アレと同じです。
しかし、バスクラリネットはそうはいきません。クラリネットも同じなんですが、楽器の上部にGシャープキイ、Aキイというものが存在し、レジスターキイ(サックスのオクターブキイに似て非なるもの)を押さえても1オクターブ上の音は鳴りません。ドレミファソまではいいんですが、Gシャープキイでソシャープ、Aキイでラと鳴って、両手十本の指を駆使してあちこち押さえまくるシの音。そこからドレミファといきます。
レジスターキイなしでドの音が鳴っていた運指は、レジスターキイを押さえると上のソの音が鳴ります。
しかもクラリネットはリコーダーと同じように穴が空いてます。銀色の指輪みたいなものやサイドキイもありますが、まああちこち空いてます。
リコーダーで経験された方も多いと思いますが、この穴を指で塞ぐのが本当に大変。特にバスクラリネットは本体が長く、リコーダーより複雑にできているので、ちょっとでもすきまがあると音がならないんですよね...
ラ→シの動きなんか悶絶もので、レジスターキイひとつしか押さえてないところから、一気に全部の穴を塞ぎつつ下の方のはみ出してるキイも押さえるわけです。
この動きが頻発するとどれだけサックスが羨ましかったか...(サックスにはサックスの苦労があることを知るのはまだ先の話)
この動きにはコツ(裏技)がありそれを知るのはずっと先のことなんですが、たったひとり、黙々と練習しました。
バスクラリネットとの出会いと構造だけでずいぶん長くなってしまったので、次回に続きます。