すきま 探偵奇談18
知らない、友だち――
「瑞、大丈夫か?」
冷たい汗が背中を伝う。眩暈がする。何だろう。いま何か大事なことを考えていたはずなのに、忘れてしまっている。霧散していく。
「…なあ瑞」
夕島の声がすぐ近くから聞こえる。瑞は目を閉じる。
「帰れるかなあ、俺達」
「…帰れるに、決まってる」
「瑞、本当にそう思うのか?」
夕島の声は、なぜだろう楽しそうだ。ウキウキと浮かれているような声色だった。
「ずーっと電車が来なくてさあ」
耳を塞いでも、夕島の声が鼓膜を震わせる。
「ずーっと夕焼けのままでさあ」
首筋を走る、得体の知れない怖気。
「だーれも助けに来なかったら、どうする?」
なぜそんな、楽しそうに?夕島は、笑いをこらえているかのように息を漏らす。
瑞の本能が告げている。
この声を聞いてはいけない…!
ポーン
「…!」
持って行かれそうだった意識を呼び戻す音が、ホームに響いた。
ホームに設置してあるスピーカーからだ。
『間もなく電車が参ります。黄色い線の内側でお待ちください。〇△駅で起きた人身事故の影響で、ダイヤが大幅に乱れ、御迷惑をおかけしました。間もなく電車が参ります…』
無機質なその音は、天の救いのように思えた。
作品名:すきま 探偵奇談18 作家名:ひなた眞白