すきま 探偵奇談18
「瑞、顔色悪いぞ。大丈夫か」
「ああ、うん…平気」
「そんな心配しなくても、ちゃんと帰れるって。飲むか?」
夕島がペットボトルを差し出してくれる。よく見るパッケージ。それを見た途端、瑞は猛烈な喉の渇きを覚えた。ありがとう、とそれを受取ろうとしたとき。
ピリリッ
「うあ、なに?」
大きな電子音が響き、夕島とともに瑞は驚く。瑞のスマホが鳴ったのだ。
(俺の設定してある音じゃない。こんな大音量にしてないし…)
それにここは圏外のはずだ。なのにメールが届いている。それも。
(…兄ちゃん?)
紫暮(しぐれ)からだ。兄とは滅多にメールのやりとりなどしない。珍しいというより嫌な予感がする。
「なに、メール?圏外じゃなかったっけ?」
「…電波ってたまに復活したりするから、それかもね」
「誰から?」
「…迷惑メールだよ」
素早く文面を読み。瑞はスマホを制服のポケットに仕舞った。迷惑メールだと嘘をついたのは、兄から送られたそのメッセージがあまりに不可解だったからだ。怖い。なんだこれは。
『瑞、夕ご飯の時間だよ。早く帰っておいで。そちらのものを口にしては駄目』
なんのつもりなのだろう。そもそも兄とは離れて暮らしている。一緒に夕ご飯を食べられるわけもない。それともこちらに来て、祖父とともに瑞の帰りを待っているのだろうか。もしもそうだとしても、最後の一文の意味が全くわからない。
わからないのに。
(何かおかしい…ここは、何だろう?)
何か危険な感じがするのだ。
夕焼けの風景も。
誰もいないホームも。
利用者のいない自動販売機も。
そして隣にいる、この――
(…考えちゃだめだ)
指先がすうっと冷たくなる感覚。夕焼け。沈まない、日。知らない駅。
そちらのものを口にしては駄目。飲むな、ということ?兄からのメール。こない電車。
作品名:すきま 探偵奇談18 作家名:ひなた眞白