すきま 探偵奇談18
「俺、飲みもん買ってくる」
「うん」
夕島が線路を渡って、向かいのホームの自販機に歩いていくのを、瑞はじっと目で追った。
なぜだか猛烈に不安になる。もしもいま電車が目の前を通過したら、その後向かいのホームから夕島が消えているかもしれない。そんなことを考えてしまうのだ。こんな、何もないところに一人で取り残されたら…。
(俺、なんでこんなに不安なんだろう…)
夕焼けが、そうさせるのか?
瑞は空を仰ぐ。雲も美しい橙に染まっている。風がさわさわと木の葉を揺らす音がする。誰もいない。自分達以外に。
「やー、向かいのホームからも見渡したけどさ、まじで誰もおらん」
水のペットボトルを片手に戻ってきた夕島が言う。農道らしきものは続いているが、民家がないせいか人気がまったく感じられない。この時間では畑仕事も終わっているだろうし、当然といえば当然なのだが。
「ちょっと歩いて、人のいるとこ探すか?」
夕島の提案に、瑞は首を振った。ここを離れてはいけないと、瑞は強く感じていた。自分でもなぜそう思うかはわからないのだが。
「…やめとこう。ここを離れている間に、もしかしたら臨時電車でも来るかもしれない」
「そうだな。大人しく待っとこう」
じっとりと額に汗がにじむ。瑞はハンカチでそれを拭った。
作品名:すきま 探偵奇談18 作家名:ひなた眞白