すきま 探偵奇談18
無情にも電車は行ってしまい、二人はホームに残された。色あせた時刻表を見ると、下りの電車が来るまでに二時間近くある。
「瑞やべえよ、ここ圏外だ!」
「うっそ!」
二人してスマホを見てがっくり肩を落とした。電話も出来やしない。ここで二時間、下手すりゃもっと長く待たなければならないなんて。
「コンビニもねーし…」
「ごめん夕島、俺が寝過ごさなきゃこんなことにならなかったのに…」
「それはもう悔やんでも仕方ねえだろ。とにかく座ろう」
ホームにぽつんとあるベンチに、二人で腰掛けた。向かいのホームもこちらと同様に粗末なもので、田んぼがすぐ脇にある。水を張った田んぼは、夕焼けを映して鏡の様に光っていた。
「バス停もないよなあ。俺らの他に利用者もいないし」
「あっちに自販機があるだけだ」
「腹減ったなー」
夕焼け空を見上げて、瑞は息をつく。早く家に帰らなくちゃいけないのに。気持ちが焦ってくる。いつか電車は来るだろうし、向こうには公衆電話がぽつんと見えているから、いざとなったら迎えを頼める。それでも、不安だった。夕焼け空を見ていると、家に帰らなくてはという思いがせり上がってくる。子どもの頃の習性が、まだ残っているのかもしれない。
陽が沈むまでには、帰っておいで。
そう言われて育ってきたからかもしれない。
そうだ。本当なら、もう家に帰らなくてはいけない時間。
だって夕暮れは怖いんだ。
魔物が出るから。
作品名:すきま 探偵奇談18 作家名:ひなた眞白