すきま 探偵奇談18
それは悪いことをしてしまった。夕島を自分の居眠りにつきあわせてしまったというわけだ。
主将が呆れてたぞ、と笑って、夕島は身体をひねって背後の車窓から外を見る。
「停まった駅で乗り換えて、戻ろうぜ。しかし結構遠くまで来たな。完全に知らない風景だわ」
「うん…」
田んぼと、山と、時折見える民家。どぎついくらいの夕焼けが燃えるように景色を染めている。次の駅に着いたら乗り換えて町に戻ればいい。だけど片田舎の駅では電車の行きかう本数が少ないから、待ち時間は発生するかもしれない。そうすると、町に戻るのは夜になってしまう。つくづく夕島に申し訳ない。
「無暗に降りないで、ちょっと大きい駅で降りて、バスに乗り継いだほうが早いかも」
「だなー。無人駅で何時間も待つのはきつい」
「まず、ここどこ?ちょっと調べる…」
瑞がそう言ってスマートフォンを取り出したとき、車内に無機質な声が響いた。
「お客様にお知らせします。〇△駅で起きました人身事故の影響のため、当電車は次の駅で停車致します。繰り返します…」
人身事故、と瑞は夕島と顔を見合わせた。最悪だ、この田舎の駅なら間違いなく無人駅であるし、バスとも連絡していない可能性が高い。
案の定止まった駅は無人駅だった。ホームには屋根すらない。改札も駅舎もなければ、切符売り場もない。ホームのすぐ横は農道で、周囲には民家も見えなかった。
「あのー、俺ら町まで戻りたいんですけど、無理すか?」
夕島が停車した電車の外から、車掌に尋ねた。不愛想な年輩の車掌は、無理だねと答えた。
「この電車は点検で一つ前の駅に引き返すことになってるから、町には戻らないよ。次の下りの電車が来るのを待ちなさい。ただ事故の影響で、電車が時刻表通りに来る保証は出来ないね」
まじかよーと夕島が肩を落とす。
作品名:すきま 探偵奇談18 作家名:ひなた眞白