すきま 探偵奇談18
瞼の裏側から、眩しい光が透けて見える。強烈なオレンジ。
たたん、たたん、たたん、と身体を揺らす規則的な揺れ。そうだ、電車だ。自分は電車に乗っているのだ。
瑞(みず)は、ゆっくり目を開ける。強烈な西日が、車窓を通して飛び込んでくる。夕焼け空。田植え前の水を張った田んぼ。山の稜線。田舎の風景。もうすぐ日が暮れるのだ。
「瑞、おまえやっと起きたのか?」
「え?」
隣に座っている者に声を掛けられ、瑞はようやく自分の置かれている状況に意識が向いた。
「…俺、寝てた?」
二両編成のディーゼル車。窓際に長い椅子が向かい合わせに置かれている。乗客は、自分と、隣の男だけ。瑞は制服を着ている。手には、弓と矢筒。
「瑞、おまえ寝ぼけてるのか?しっかりしろよな」
同じ制服姿のこいつは…そうだ、夕島(ゆうじま)だ。同じ弓道部の同級生。彼もまた、瑞と同じような弓具を持っている。
「遠征終わりで疲れてんのはわかるけどさあ。寝すぎだろ」
「遠征…?」
ああ、そうだ、練習試合の帰りだ。それにしては、なぜ二人だけなのだろう。弓道部は総勢30人を超えているはずだ。遠征ならば、部員が二人しかいないのはおかしいではないか。
「みんなは?伊吹(いぶき)先輩とか、一之瀬(いちのせ)は?どこ?」
「おまえがグースカ寝てる間に、みんな最寄駅で降りて帰ってったよ。おまえ起きねーんだもん。ほっといて隣町の終着駅まで行ったら大変だから、俺だけ残って付き添ってやったの」
感謝しろよ、と夕島に肩を小突かれる。
「まじかよ…ほんとごめんな。ありがとう」
作品名:すきま 探偵奇談18 作家名:ひなた眞白