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「発展性のない」真実

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 確かに後ろの方で、好き勝手やっている連中とは違っている。少なくとも、他の人に迷惑は掛けない。前で必死になってノートを取っている人たちにとって、後ろの方の連中は、邪魔でしかないに違いない。騒がしい時は、本当にまわりが見えていないからだ。
 彼女は、そんな弘樹のそばで、一人佇んでいる。絶えず本を開いているが、ずっと読んでいる雰囲気ではない。何を読んでいるのか興味もあったが、ファッション雑誌であったり、音楽の本であったりした。
――多趣味な人なのかな?
 弘樹は、多趣味な人に興味があった。
 大学時代に、趣味を持っているわけではなかった。 たまにミステリーを読んだり、絵を見に行ったり、といったところだが、ミステリーにしても、絵画にしても、共通性があるわけではなかった。
 ミステリーも好きな作家がいるわけでもなく、絵画にしても、画家にこだわったり、流派にこだわることもなかった。
 流行に流されるわけではなかったので、他の人が見れば、
「おかしなやつだ」
 としか見えなかっただろう。
 ただ、それを弘樹は、多趣味だと思っていたのだ。
 共通性のないことが、自分の趣味を広げてくれると思っていたのだ。それでも、
「一つのことを極めるのが、趣味の醍醐味だ」
 と思っている人から見れば、おかしな考え方だろう。
 だが、弘樹も、
「平均的な人よりも、一つのことに秀でた人になりたい」
 という気持ちに変わりはない。
 だからこそ、いろいろなことに手を出している。自分の趣味と呼べるものが確立されているわけではないので、逆に共通性のないものから何かが見いだせればいいと思っているのだった。
 ただ、結局一つのことに秀でた趣味を見つけることができず、中年になってから、釣りに目覚めたというわけだった。
 だが、それでも、他の趣味を諦めたわけでもない。考える時間が増えたことが、釣りを始めたことで一番のよかったことだろうと思っている。釣り糸を垂らしながら考えている時間は、他のことをしている時間とは明らかに違う。やはり趣味をしている時間だという自覚があるからなのだろう。
 彼女は、講義室の中でも、人を寄せ付けない雰囲気を持っていた。そばに誰もいないのは、場所もあるが、彼女のオーラが誰も近づけないのだ。
 人のオーラを気にならない人は、無意識に遠ざけてしまっていることに対して、違和感を感じない。感じないどころか、彼女の存在自体、ほとんど意識がないのではないだろうか。弘樹のように意識している人間にはオーラが見えるが、オーラに流されている人には、オーラを感じることはないからだった。
 弘樹が、自分と合わない人には、身体が反応しないことを知ったのは、夢に見た女性と出会ったことと、風俗に通い始めたかことからだった。
 彼女に対しては、身体が反応することはなかったが、それよりも風俗の女性には、ほとんど身体が反応するのは、相手のテクニックによるものだけではなく、与えてくれる癒しを、自分に合わせてくれていることで、感じさせてくれたのだろう。
 時間が決まっているというのは、寂しいようで、弘樹にとっては、却って大切にできる時間だと思えるのだ。ダラダラ一緒にいるのが楽しい時期という年齢では、もはやなくなってきているとも言える。ただ、それでも、
「もっと長い時間一緒にいられれば、どんなに楽しいことか」
 と、考えるのであった。
 風俗嬢たちへの身体の反応は、彼女たちを喜ばせるもののようだ。
「これが癒しというものか」
 最初にそう感じた時、弘樹の身体がまるで宙に浮いたような感覚になっていた。
「お話しているだけで、楽しいと思える女性との感覚は、普段の友達では味わえないものだからね」
「それが私たちだって言うの?」
「そうだよ。僕がおかしいのかな?」
「ううん、そんなことないと思うわ。私だって、弘樹さんとご一緒できるのが嬉しいですよ」
 いつも同じ店に通いながら、最初は、何人か相手にしてもらったが、結局、一番最初に相手をしてもらった女の子と、懇意になっていた。
「最初だから、僕も緊張していたしね」
 他の女の子を何人か指名したことを正直に話したが、嫌な顔をするどころか、心底喜んでくれた。
「私のところに戻ってきてくれたのね?」
 という言葉にウソは感じられない。ありがたいと真剣に思ってくれているのだ。
 その時から、弘樹の夢の中に、その女の子が現れることが多かった。
 お店での名前は、ゆりなという。
 ストレートなロングヘアに、全体的にふっくらした体型が可愛く、笑顔がとてもよく似合うゆりなに、中年のおやじは、メロメロ状態だった。
「お父さんくらいの年齢かも知れないよ」
「そうですね。でも、私年上の方が大好きなので、弘樹さんと仲良くなれて嬉しいわ」
 もちろん、店の中だけでの仲ではあるが、それでも弘樹は満足していた。
 ゆりなと仲良くなって、店の外で会いたいと思ったこともあったが、
「風俗の娘だから表では会えない」
 という思いではなく、
「店の中だからこそ、夢のような世界が広がるんだ」
 と思うようになった。
 もし、もっと自分が若ければ、他の考え方を持ったかも知れない。この年で、独身で、しかも風俗通いなどというと、女性たちに、
「あの人、きもいわ」
 と、言われかねない。確かに表から見れば、自己嫌悪に陥っても仕方がないくらいであるが、今は不思議と自己嫌悪になることはない。
 それが年齢によるものなのか、それとも、ゆりなと夢でも会えるからなのか分からない。今までに感じていた夢の世界と、ゆりなとの夢の世界では、違った感覚が弘樹の中に広がっているのだった。
 夢の世界といっても、夢というより、どっちが現実なのか分からないと思うような世界だった。
 ゆりなが出てくる夢の世界は、風俗の世界ではない。自分が勝手に想像したゆりなの、普通の女の子としての生活だった。知り合ったきっかけは定かではないが、
「気がつけば、いつもゆりなは僕のそばにいる」
 と思わせる。
 つまり、いつもそばにいるにも関わらず、気がついていないということである。こんな感覚は普段では味わうことなどできるはずもない。それが分かっているからこそ、見ているものが夢だということを分かっているのだ。
 しかも、夢の中で、シチュエーションを勝手に想像している。親子であったり、恋人であったり、先生と生徒の時もある。ゆりなはセーラー服が似合っていた。
 普段お店では、私服のワンピースが似合っていると思っていた弘樹が、夢の中ではいつもセーラー服のゆりなばかりを想像している。
「本当は、コスプレが好きなのかな?」
 と思ってしまうが、夢で無意識に見るのだから、否定できない。
 高校時代は、あまりいい思い出はなく、異性に興味はあったが、同い年の女の子よりも、むしろ、年上の女性ばかりに目が行っていた。想像するのも、大人の妖艶さに魅了されて、異常な性欲が浮かんできて、ドキッとしてしまった自分に情けなさを感じていた。
 恥じらいと、自己嫌悪が渦巻く中で、初めて好きになった女性は、女教師だった。ありふれた恋愛感情だったのだと思うが、本当に好きだったのかと言われると、自信がない。
作品名:「発展性のない」真実 作家名:森本晃次