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「発展性のない」真実

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 自分の性格が短気で、発展性のないことを、自分なりに確信したのは、彼を見てからのことだった。それまではウスウス気付いていても、それを認めることが怖いと思っていた時期があった。
 後輩を見ていて、イライラしてしまう自分に気付く。それは自分にイライラしているのと同じであった。
 釣りに出るようになった本当の理由は、後輩を見て、
「このままではいけない」
 と思ったからかも知れない。
 琴音と出会ったのはもっと前のことだったので、自分の性格を知る前であった。ただ、性格がエスカレートする前だったのかは分からない。それでも釣りをしている弘樹を見て、琴音はどう思っただろう?
――少し、性格が丸くなったのかしら?
 とでも思ったであろうか。釣りに勤しむ姿など、当時の弘樹から想像もつかなかったに違いない。偶然とはいえ、出会ったことがお互いの気持ちに何かの変化を与えたのは事実で、ひょっとすると、彼女の方では、最初に燻っていた思いが、再燃したのではないかと思うのも無理のないことだった。
「人の振り見て我が振り直せ」
 というが、弘樹にとって反面教師がいたのは、不幸中の幸いだったかも知れない。
 久しぶりに会った琴音は、最初分からなかったほど、大人になっていた。元々顔を覚えるのは苦手であったが、しばらくしても思い出せないほどの変わりようであった。
 ただ、今は当時の琴音を思い出すことができる。それは、琴音を抱いたからである。切なそうに弘樹を見つめる目、あれは明らかに弘樹の記憶にあったものだ。しかも、琴音を見ていて、一番印象深い表情だったことは間違いない。身体が正直に反応したことがその証拠であろう。
 琴音を抱いたことを後悔しているわけではないのに、何か気持ちの中に自己嫌悪を感じる。
 琴音という女性が、正直であることを今さらながらに気が付いたからだ。
 単なる噂で、根も葉もない根拠のないことだと思いながらも、当時の琴音への誹謗中傷を全面的に否定できなかった自分を思い出したからだ。
「僕に、琴音を抱く資格なんてあるのか?」
 という思いが頭を巡る。
 弘樹は、頑固なところがあるが、人に流されているところもある。どうしようもない性格だが、
「人に流されるのも、正直な証拠。正直ではなくなるくらいなら、人に流されてもいい」
 とまで思っているほどだ。
 弘樹は性格の中で往々にして、正反対の、しかも悪い性格が同居していることがある。短気で諦めが早いのも同じことだ。
 だが、性格には表裏一体のものがあり、隠れている部分が、前に出ている他の性格と結びつくこともある。それが相反関係を示すことで、悪いところだけが表に出てしまう。
「どうして、僕のやることは、そんなに目立つんだ?」
 と、学生時代に感じたことがある。それも、悪い方に目立つのだ、
 他の人が同じことをしても、何とかなっているのに、自分がすると表に出て問題になったりする。不公平な気持ちを抱いたまま、ずっとここまで来たが、その答えは今も出ていない。
 弘樹は、一度、夢の中で見たことがある女性と知り合ったことがあった。知り合った時、夢で見た相手だとは気づかなかったが、何となく、彼女に好かれている気がしたので、自分もその気になり、彼女を口説こうとした時であった。
「何するのよ」
 と、罵倒されたのだ。
 少し言い寄った感じではあるが、しつこく言い寄ったわけではない。むしろ、気を遣いながらだったように思う。彼女の雰囲気は、一目見て、
「気が強そうな女性だ」
 と、思うほど、つりあがった感じの目をしていたのだ。
 いい雰囲気に持っていったのは、彼女の方だった。それまではつり上がったような目線ではなく、逆に、相手に委ねるような目線だったのが、急に豹変したのである。最初から目が釣りあがっていたのであれば、彼女が夢で見た女性であるということが分かったはずである。
「私のこと、どう思っているのよ」
「好きになりそうな相手だと思っているよ」
「何ですって? たったそれだけのことで私に言い寄るなんて、百年早いわよ」
 この現実では信じられないようなセリフも、夢の中そのままだったように思えた。
 だからこそ、思い出せたのだ。夢の中の女は、豹変したわけではなく、最初からそんな感じだった。一番苦手で、嫌いなタイプのはずなのに、夢でなければ、絶対に近づくはずのない相手である。夢であるとしても、一体どうして、こんな女のそばにいることになったのだろう? 弘樹は、夢と現実の狭間にいることを自覚していた。
 気が強そうな女性に近づいたことがないわけではない。最初から気が強そうに見える相手であれば、潔さを気に入っている弘樹にとって、彼女としてみることができるかは別にして、気になる相手となることは間違いないだろう。決して、自分から避けるようなことはしないはずだと思うのだった。
 彼女のことを夢で見たというのを思い出したのは、罵声の瞬間だった。まったく同じシチュエーションだと思ったからだ。だが、後から思い返してみると、どうやら、同じシチュエーションではなかったようだ。どちらかというと、表情にだけ気を取られていて、逆に性格は、それほどきついものではなかったように思えた。
 ただ、人を遠ざけるようなオーラはあった。引きつけないオーラとすれば、偉大すぎて近寄ることができないといういい面を持った人であること、また逆に、喜怒哀楽が激しすぎて、周りから受け入れられない性格である面を持った人の二通りが考えられる。どちらも、弘樹には悪い性格だとは思えない。喜怒哀楽が激しい人であっても、激しすぎるがゆえに、受け入れられないだけで、芯はしっかりしているので、人から頼られる性格でもあるだろう。だが、それが女性であるがゆえに、損な性格だと見られがちなところもあり、却って人を寄せ付けないのだろう。
 彼女は、同じ大学で、重なっている講義がいくつかあって、お互いに気にしても無理のないことだった。
 講義室では、二人とも、あまり後ろに座ることはなかった。
 弘樹の場合は、講義が好きだというわけではなかったが、他の連中のように後ろで屯するのが嫌だったのだ。
「わざとらしいんだよな」
 後ろの方にいたからといって、講義を途中で抜けられるわけでもない。中には抜けれる講義もあるにはあるが、抜けれない講義に対して、わざと後ろに座ることもないだろう。
 講演台に立ってみれば分かるが、講義室の後ろの方というのは、却って目立つ。遠ければ遠いほど、近く見せようとして高い位置になっている。それだけ、相手の水平目線に近づくのだから、目立って当然ではないだろうか。
 それなのに、大学の講義というのは面白いもので、前に陣取って、しっかりノートを取っている者、奥の方で、集団で講義のことなど眼中にないと言わんばかりに、自分たち本位の世界を作って言う連中、真ん中がぽっかりと空いている感じだ。
 弘樹は、真ん中あたりに座っている。一緒に講義を受ける人がいるわけでもなく、必死にノートを取るわけでもない。一人ゆっくりできるのは、真ん中の席だ。
 講義も面白ければ、真面目に聞くが、面白くない講義であれば、本を読んだり、好きなことをしていた。
作品名:「発展性のない」真実 作家名:森本晃次