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「発展性のない」真実

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 弘樹の誘いに、琴音は拒否の姿勢を示さなかった。手を差し出すと、握り返してきた手が汗に滲んでいるのを感じたが、それはまるで、熱い血潮がたぎっているかのようにも感じられた。
 手の平を通じて伝わってくる感情は、さっきまでの琴音と違っているようだ。いや、感情を押し殺しているような雰囲気があったのは、今の感情を押し殺していたからなのかも知れない。
 そう思うと、弘樹は今までに感じたことのない興奮を味わっているような感じがした。それは風俗嬢に会いに行く時とは違っていた。今まで女性との出会いに、どこかわざとらしさを感じていたのが、ウソのようだ。
 新鮮さを感じる。しかも、その新鮮さは、今まで感じていた新鮮さとは違ったもの、新鮮さにも種類があるのだと、感じた。
 背が高い弘樹に対して、琴音はさほど身長は高くない。さらに密着度を高めたいのか、琴音は、今度は腕にしがみつくように、腕を組んできた。
 弘樹の肘が、琴音の胸に当たっている。弾力のある胸は、肘を押し返すが、そのリズムが先ほどの手を握った時に感じた鼓動とリズムが似ていたことで、さらに興奮を高めてしまった。
 公園のベンチに座り、少し話をしようと思った。公園には誰もいなかったので、ゆっくりできると思ったが、今さら何を話そうか、話だけで場が持つのかも疑問だった。
 やはり、琴音は公園に入ろうとする弘樹を抗った。
 弘樹は、琴音を見下ろしたが、下を向いたまま、顔を上げようとしない琴音を見て、自分も覚悟を決めなければいけないと思い、そのまま公園を通りすぎ、ネオン街に消えていった。
 そのうちの一軒に入ったが、琴音が抗うことはなかった。
 腕にしっかりしがみついた琴音をエスコートするように部屋まで一気に進むと、重たく感じた扉を開いた。
 重たく感じたのは、扉に冷たさを感じたからだ。部屋は一瞬、真っ暗だったが、照明は感知式になっているようで、すぐに明るくなった。扉を開けた瞬間、足元を抜けていく冷たい空気が、すぐに暖かさに変わったように思えた。
 部屋に入り、二人きりになると、どちらからともなく抱き付いた。琴音の方が、一瞬早かったような気がする。それは弘樹が気後れしたわけではなく、最初の暗さに怯えを感じた琴音の反射的な行動だったのかも知れない。
 抱き付かれたという感覚よりも、自分から抱き付いた感覚の方が強いから、
「どちらからともなく、抱き付いた」
 と、後から思った時に感じたのだろう。
 お互い、同時に抱き付いた方が、強い密着力を感じる。相手の力の強い時は、こちらは相手に合わせ、相手が少し力を弱めると、こちらが一気に攻める感覚である。
 舌と舌が絡み合っている時、最初に身体が反応していることを感じる。感じるというよりも、「知る」と言った方がいいかも知れない。無意識に感じているわけではなく、相手の気持ちを探ろうとしている自分には、明らかな意識があるからだ。意識がある場合は、感じるというよりも、知ろうとしていることに他ならない。
 弘樹は、琴音の何を意識しようとしているのだろう?
 琴音が弘樹に対して、何かを感じようとしているのを感じるから、弘樹も琴音を意識しているのかも知れない。
 そもそもアルバイトをしていた時の会社の人と偶然会ったというだけで、ここまでするものだろうか? 琴音という女性の性格を考えた時、どうしても、アルバイトをしていた時の彼女を思い出そうとするのだが、彼女がいたという意識すらないのだ。
 最初は思い出せなくても、これだけ一緒にいれば思い出せそうな気がするのに、意識の中では思い出すことは不可能なようだ。今までであれば、思い出せたような気がする。それなのに思い出せないというのは、彼女の言っていることがウソであるか、それとも、よほど、当時意識を残さないように振る舞っていたかのどちらかとしか思えない。そのどちらにしても、容易に理解できるものではない。それだけに、琴音という女性を余計に意識してしまっても無理のないことである。
 ただ、不思議なのは、琴音を抱きしめていると、抱きしめた感覚が初めてではないように思えてきた。
 以前にも抱きしめたことがある感覚。そんな思いは、本当に抱きしめたことのない女性に感じるなど、考えられないことであった。
――思ったよりも、華奢だな――
 服を脱がせていく中で感じたことだ。
 ゆっくりと無言で、そしてなるべく無駄のない動きで、脱がせていくさまは、まわりから見ていると、感情のない機械的な動きに見えるかも知れない。だが、相手に恥かしさを感じさせないようにするには、これが一番効果的だということを、弘樹は知っていた。それを悟らせてくれたのは、風俗の女の子で、彼女たちから、癒しだけではなく、他にもたくさん与えられたものがあることを感じている。いろいろな世界で作法があるように、男女の作法を教えてもらえたことだけでもよかったのだと思える一つであった。
 琴音の華奢な身体、確かに覚えがあった。
 以前から本当は、華奢な身体の女の子は苦手であった。どこか計算高い女の子のイメージがあったからだ。風俗嬢の中にも計算高い女の子もいた。そんな女の子は、ほとんどが華奢だったからだ。
 もちろん、その思いは弘樹の勝手な思い込みであり、誰にも言えないことだが、誰でも自分なりの思い込みを持っていることだろう。そういう意味では、弘樹のような男性を生理的に苦手だと思っている女の子はいるはずである。
 華奢ではあるが、反応は、今まで接してきた華奢な身体をした女の子と、少し違っていた。
――どこが違うんだろう?
 と感じたが、それは考えればすぐに分かることだった。
――身体の反応に、恥じらいを感じさせるんだ――
 言葉で説明するのは難しいが、快感がツボにはまった時の敏捷性は、まるで条件反射であった。だが、すぐにそれを引き戻す力が働く。ただ、これは条件反射ではない。明らかに感情、意志が働いていた。
――意志が働いているとすれば、どんな意志なんだ?
 と感じたが、その答えはすぐに見つかった。なぜなら、弘樹にとって、その行動は、願っている行動だったので、完全に、
「願ったり叶ったり」
 の状態だったのだ。
 身体の反応を楽しんでいると、今度は、聴覚への刺激を感じた。
 聴覚への刺激は、そのまま弘樹の身体を反応させる。相手の身体の反応だけでは得られなかった快感を感じるには、聴覚への刺激は不可欠であった。
「ああ……」
 たったこれだけの言葉で、彼女がどれほどの快感に身を震わせていたかを感じることができる。
 身体の中には、五感というのがあるが、一つだけでは中途半端、他の快感と結びつくことで、沸騰してくる感覚が得られることを教えてくれたのも、風俗だったと思っている。
 もちろん、風俗だけで得られたものではないのだろうが、
「身体の快感だけではなく、心身ともに癒しを与えたい」
 と思ってくれている彼女たちだからこそ、弘樹は安心して身を任せることができるのだし、与える方も、冥利に尽きると思ってくれているのだろう。
作品名:「発展性のない」真実 作家名:森本晃次