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「発展性のない」真実

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「だって、私が今、暗いという表現をした時に、表情が変わったのが分かりましたからね」
 と言った。
 ということは、ハッタリを掛けたのと同じではないか。表情に変化を付けさせることを聞いておいて、相手の出方次第で、如何様にも返事を変えることができるような、そんなやり方である。
 手品師が使う心理を読むやり方のようだ。
「何だ」
 と、思うかも知れないが、だからと言って、相手の心理を読むのは、ここからが難しいのではないだろうか。手段としての方法は尽くしても、そこから先は、度量がいるものだ。簡単にいくものではない。
 琴音と最初に会った時、暗い雰囲気だと感じたのは、間違いではないが、性格が暗いと思うことは間違いのようだ。暗い雰囲気と、暗い性格とでは、同じものではない。暗く見えたとしても、それはいろいろ考えてしまうことで、相手に何かを悟られたくないという思いから、相手の興味を遠ざけようと、わざと何を考えているか分からない素振りを、感じさせようとしているのだ。
 今までにも同じような女の子を見たような気がした。その子は弘樹が最初に好きになった女の子で、
「僕は、何か含みのある雰囲気の女性が好きなのかも知れないな」
 と、思った時でもあった。
 惚れっぽい性格ではあったが、本当に好きになるということはなかった。女性を好きになるということの意味が分からなかったからだ。
 思春期は、女の子を好きになるというよりも、思春期独特の性欲に目覚めたことが、そのまま異性への目覚めだと思っていたが、そうではないと思ったのは、生来の生真面目な性格の成せる業だったのかも知れない。
 中学時代に、友達から聞かされた性行為に対する知識、ドキドキしながら聞いたものだ。今でも思い出しただけでも、顔が真っ赤になるほどだ。
 しかし、新鮮であったのも事実で、性欲というのは、諸悪の根源のように、まわりの大人は言っていたが、それだけに友達から聞かされた内容は、インパクトに満ちていた。
 実際に最初、風俗に行った時に感じた興奮は、その時に友達から聞いた話に新鮮さとインパクトを意識として残していなければ、終わった後には、後悔と自己嫌悪しか残らなかったに違いない。
 後悔や自己嫌悪を持ったことから、風俗通いを止められただろうか?
 いや、止めることはできなかったに違いない。やめてしまえば、自分の中に残ったストレスを解消する術がなかったはずだ。風俗通いをしているおかげで、他の趣味にも一生懸命になれるのだ。今の弘樹にとって、それは釣りであり、一生懸命に釣りに勤しんでいる自分を思い起すと、そこにあるのは、自分に対してのいじらしさであった。
 元々が大人しい女の子を好きな弘樹は、最初に好きになった女の子に、何か違和感を感じていた。何を話していいか分からなかったのは、その違和感のためだったが、相手も、同じように何か言おうと思いながらも、言葉にできないようだった。
 お互いに言葉を発しようとしたタイミングはまったく同じ。お互いに遠慮して言葉にならない。
 そんな場面をドラマなどのシーンで見かける。見合いの場面などであれば、まるで茶番を見ているようである。
 そんな場面を繰り返しているうちに、どちらからともなく、冷めた気分になってきた。お互いに一言も話すことなく別れてしまったが、後から思うと、本当はこれほど気が合う相手はいなかったのではないかと思えた。
 話すタイミングが合わないくらいに、同じタイミングで声を発しようとしていたのだから、気が合うのは当たり前だ。
 だが、後悔したわけではない。
 もし、同じ場面で同じようなシチュエーションに、同じ人となったとしても、弘樹はまったく同じことを繰り返すであろうし、相手も同じだと思えたからだ。時間が過ぎたとしても、それは、流れただけで話を先に進めたりなどの意志を働かせることはできないに違いない。
「人生を遡ってやり直したい」
 という人がいる。
「いつのどの場面に遡りたい?」
 と聞くと、相手は必ず言葉を詰まらせることであろう。
 弘樹も、きっと言葉に詰まるに違いない。それは、あまりにも漠然とした設定だからだ。過去に遡ることができたとしても、それは、危険と背中合わせであることは分かっている。現在が過去からの積み重ねによって形成されているのもであるのだとすれば、過去を変えてしまえば、今はないのだ。「今」があったとしても、それはまったく違った「今」である。
「パラレルワールド」
 過去から未来への橋渡しは、放射線状に広がった輪の中にあるという考えだと、弘樹は思っている。
 後悔するということは、過去を振り返すことだ。
「過去を振り返ることは、後ろ向きの人生になるので。、よくないことだ」
 という話を聞くが、弘樹は違う意味で、過去を振り返ることはしない。
「過去を振り返るのは、隣り合わせになっている危険をほじくり返すことになるのだ」
 という考えがあるからだった。
 好きになった人を嫌いになることは、今までにはなかった。皆は、嫌いになったからだと思うかも知れないが、決して嫌いになったわけではなく、
「気持ちが冷めた」
 という感情が強くなっただけなのだ。
「同じことではないか」
 と言われるかも知れないが、大きく違う。嫌いになるのは、相手に、嫌いになられる理由が存在するからで、冷めてしまうのは、相手の理由のいかんは関係ない。
 好きになった女の子に含みが感じられたのは、
「気持ちが冷めることはない」
 と、直感したからなのかも知れない。明るい女の子よりも暗めの女の子が好きなのは、自分の接し方次第によって、自分好みの女の子にできるのではないかという思いもあった。
 別にサディスティックなところがあるわけではない、逆に苛められたいと思うことが高校時代にはあったくらいだ。
 もちろん、本当に苛めに遭うのは嫌だったが、刺激を与えられたいという思いがあり、それには苛められることが一番だという思いを抱いたのも事実だった。
 その頃、初めてSMという言葉を知った。
「僕には理解できない世界だ」
 と、他の人が誰でも思う同じことを、弘樹も最初に感じた。
 アブノーマルという言葉と、同じではないが、意味としては同種のものであり、自分がそのアブノーマルな性格であるという自覚はあった。さすがに一気にSMと結びつくことはなかったが、いつの間にか、苛めが刺激を与えてくれるものだということを理解していた。
 アブノーマルには、男と女の関係が、必ず絡んでいるものだと思っていた。時々女性に対して急に冷めてしまう自分の心境が、アブノーマルと絡んでいるのではないかと思うようになったのだ。
 自分好みに相手をいくらでも変えられるという想像を抱くことは、サディスティックな性格を持っていることもあるだろうが、それだけではないだろう。弘樹は、思春期の自分の中に弱さを感じていた。
 ただ、それは思春期なるがゆえの弱さで、成長期にある中で、しっかりしていなければいけないはずの土台が、本当にしっかりしていたのかどうか、自分の中で怪しいと思っていたのも事実であった。
 そこに弱さを感じていたのかも知れない。
作品名:「発展性のない」真実 作家名:森本晃次