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「発展性のない」真実

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 どちらも経験があるが、弘樹にとっては、好かれたから相手を好きになる方がいい。ドキドキした気分になり、いとおしさがこみ上げてくるのは、後者の方だった。
 受け身な態度は、女性に対しての自分の態度ではないと思っていたが、そう考えると、実際には受け身な自分も、本当の自分なのではないかと思うのだった。
 弘樹にとって、好かれることは、自分の中でのバイタリティのようなものだと思っているのかも知れない。
 今回の来訪で出会った女性、琴音。彼女とは初めて出会ったはずなのに、初めてではないような気がしたのはなぜだろう? デジャブというのがあるが、一度も行ったこともない場所や、会ったことのない人と、どこかで見たり、会ったりしたという経験である。
 デジャブがあるなら、最初から感じることであり、もしすぐに感じなかったとしても、前兆のようなものがあったはずだ。
 それなのに、今回はそんな感覚は感じられない。感じたのも、家に帰ってから、夢に見たからだった。夢に見なければ、初対面だったという思いだけで、ひょっとすれば、すぐに忘れてしまったかも知れない。
 夢で見た琴音は、弘樹を愛しているという言葉を連呼していた。普通なら、連呼するような女性には胡散臭さを感じ、何か怪しいと思うのだが、琴音に対しては、そんなことを感じなかった。それは、以前に出会ったことがあったからだという思いが起因しているようなのだが、夢で感じるはずのないものを、ことごとく感じた気がしたからだ。
 まずは、琴音が着ていた服。真っ赤なセーターに、ジーンズ系のスカート、帽子も赤く光っていたように思えた。
 光っているのも、夢では感じられないものに思えた。それは、夢の世界の終わりが、光りが訪れると思っているからである。
 逆に、夢が終わる時のパターンとして、まったく逆の闇に包まれるパターンもあった。
 明るい夢を見ている時に、さらなる光を感じる時。そして、寂しくて暗い夢を見ている時に、闇に包まれるのを感じた時、それぞれで、夢の終わりを感じるのだった。
 相手が琴音であれば、光しかありえないと思った。光を感じたその時、弘樹は、琴音の服の色を初めて意識した。
「夢から覚めても、忘れたくない」
 という思いがあったからだ。
 この思いは二つのことが影響している。
 今、自分が夢を見ているという感覚と、夢から覚めようとしている感覚である。
 どちらかというと、夢だと分かってしまえば、覚めようとする感覚は容易なものであった。逆に夢を見ている感覚を感じるのは、難しい。
「夢を見ているという感覚を、夢を見ながら感じることはできない。感じてしまうと、たちどころに夢は冷めてしまうだろう」
 という感覚だ。
 冷めるというのは、「覚める」ではない。感覚的に気持ちが冷たさを感じることであった。
 冷たさを感じた時点で、もはや夢ではない。夢から覚めていく間、何かを考えようとしていたが、それは夢を忘れないようにしたいという思いであった。
 そんな思いは虚しく砕け、目が覚めてからボーっとしている頭がすっきりしてくるにしたがって、思い出せない世界に入り込んでいくのだ。
 思い出そうとしてもムリなのは、考えている世界が違うからだ。夢の共有を考えた時、
――どうして、夢の共有という考え方が思い浮かばないのだろう?
 と、思ったが、それは、違う世界で思い浮かべようとしても無理なことを理屈では分かっていても、実際には、気付かないからだ。
 弘樹は、その日の夢で、琴音と出会った頃だと思わせるような景色を見た。それは、自分には馴染みのある場所だったのだが、そこに長い時間いた記憶はなかった。
――イメージとは、そんなに一瞬で印象が焼き付いてしまうものなのだろうか?
 温泉旅館とは、似ても似つかない場所だった。そこは秋に行ってみたいと思わせるようなところで、大学時代のキャンパスを思わせる。けやきか、銀杏の葉の舞い散る小道であった。
 真っ赤なセーターに、ジーンズのスカート、長い髪を束ねて、ポニーテールにしている雰囲気は、ちょっとおちゃめな感じがあった。
 初めて大学のキャンパスを歩いたのは、銀杏の時期で、黄色いじゅうたんは、果てしなく続くのではないかと思わせるほどだった。
 高校三年生の秋、受験勉強の合間に、志望校を見学に行ったが、すっかり、銀杏並木に魅せられて、第一志望が、この景色で決定したと言っても、過言ではないほどだった。
 その時にすれ違った大学生は、凛々しく見えて、大人の雰囲気を十分に感じさせるものだった。
――早く大学生になりたい――
 この思いが、受験勉強のストレスを少しでも解消させてくれた。もしこれが、ただ大学生になって遊びたいだけのような気持ちであれば、ストレスを解消する前に、楽な方にしか頭が回らず、真面目に勉強に勤しむのは難しかったかも知れない。考え方に発展性はないかも知れないが、真面目な性格であることに変わりはなく、
――僕は真面目が信条だ――
 という思いがあるからこそ、先が見えるというものである。
――大学のキャンパスを思い出すということは、高校時代の最後の方か、大学入学直後くらいに見たことがあると思っているからだろう――
 今から、二十年以上も前の記憶を思い出すことなど、最近ではない。ただ、夢で見るのは、大学時代のことが多かったりする。
――あの頃に、何か気になるものを残してきてしまったのではあるまいか?
 と、感じていた。
 残してきたとすれば、女性とのことかも知れない。男の友達もたくさんいたが、その日に何か気になることがあっても、次の日には解決してきた。それが、大学時代の弘樹の信条であり、自分のまわりにも同じような考え方の友達が揃っていた。
 しかし、次第にその日や、翌日だけでは解決できないような、簡単ではない出来事が徐々にであるが、増えてきた。
 そのため、次第に苛立ちが募ってきた。友達と話しをして解決していけばいいのだろうが、解決できないことが出てくると、その人との関係もそこで終わることが多かった。
 後悔などなかった。友達をさほど大切にするわけでもなく、少なくとも自分と意見をたがえるような人であれば、それはすでに友達ではないと思う。そんな考えばかりしてきた弘樹は、相手をバッサリと切ることで、何も残さないようにしていたのだ。今さら後悔もなければ、残してきたなどという記憶もありはしない。
 やはり、女性のことなのであろうが、今度は女性のこととなると、あまりにも以前のことだというイメージがあり、大学時代に付き合っていたり、好きだった女の子のイメージが湧いてこない。
「今自分が大学生になったとしても、きっと、同じような女性しか相手にしないだろうな」
 という思いが強い。
 どちらかというと、惚れっぽい性格であるくせに、好かれたから好きになるタイプなのだ。プライドが高いと言われたこともあったが、確かにそれも認める。しかし、それだけではないことは、自分でも分かっているつもりであるが、プライドというよりも、ポリシーに近いのかも知れない。
「自分の気持ちには、素直でないと」
 と、大学時代の自分に言い聞かせていた。
作品名:「発展性のない」真実 作家名:森本晃次