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「発展性のない」真実

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「ごめん。僕は寝汗を掻くことが多いので、病院で診てもらったことがあるんだけど、その時は、何ともないという診断でしかないんだ。何度か定期的に、病院を変えたりもしたけど、別に異常はないらしい」
「汗を掻くという話は私も聞いたことがあります。あまりいい傾向ではないという話だったんですけど、病院に行かれているのでしたら、大丈夫でしょうね」
「そうだね。汗を掻く時というのは、いつも夢を見ている時なんだけど、目が覚めると、いつものように忘れているから困ったものなんだよ」
「私も夢を見て、気が付けば、汗を掻いている時ってありますよ。でも、私の場合は、夢の内容を覚えているんです。怖い夢を見たので、汗を掻いたというのが、私の場合ですね」
「僕の場合、夢は覚えていないものだというのが、いつものことなんですよ」
「それは、覚えていないと言うよりも、現実の世界に引き戻される時のショックが、夢を思い出の世界に封印してしまっているんじゃないかって思うんですよ」
 夢の話をしていると、以前急に腹が立ってきたことがあったのを思い出していた。相手が誰だったのか、どこから腹が立つ内容になってしまったのか覚えていない。ただ、腹が立ったのは内容に対してというよりも、その時の雰囲気だったのだろう。夢というのも、覚えていないのは、その時、夢の中でどのような心境だったのかが思い出せないからだ。
 今回、この宿に来て、女将とどう顔を合わせようかと、思っていたが、顔を見た瞬間、急に気持ちが冷めてしまっていく自分を感じた。
 いつも冷めてはいるので、冷めてくる感覚を思い出すことはなかった。
 普段から冷めている人間が、冷めてくる感覚を感じることがないのは当たり前のことなのだ。
 ただ、女将の顔は、無表情だった。寂しそうな顔に見えたことで、
――癒してあげたい――
 と、感じたが、以前の時に、癒されたのは自分の方だったことで、いくら冷めてしまっているとは言え、以前と正反対の気持ちになるとは思えなかった。
 弘樹は、癒しを受けるのは、相手が風俗嬢の時だと、割り切っている感覚があった。風俗嬢に対しては。自分の身を任されるという気持ちと、いくら自分が癒してあげようと思っても、相手は風俗嬢、
「自分ごときが相手になるものではない」
 と、感じるようになった。
 癒しを受けることが、彼女たちの気持ちに触れることでもある。弘樹は。身体よりも彼女たちには、気持ちの面を求めている。それは、他の人に感じることのない満面の笑みを見ることができるからだ。
 確かに営業スマイルなのだろうが、それでも、他の女性にできるものではないはずだ。自分がいかに感じるかということが、一番大切なことではないだろうか。
――女性にモテないことでの、言い訳のようなものなのかも知れない――
 とも感じたが、誰からモテたって、そこに愛が存在するかどうかで違ってくるのだ。普通に付き合っていたとしても、そこに打算が存在すれば、それが分かった時のショックは大きいに違いない。
 風俗通いしている連中と、仲良くなったことがある。
 確かに彼らの考え方には特徴があり、弘樹には信じられない考えもあった。だが、共通して話ができるところも多く、他の誰と話をするよりも、話に花が咲くのだった。
 話が盛り上がるということは、感情で話をしているからだ。一歩間違えば、喧嘩になるのではないかと思うほど、話は白熱している。
――白く燃える――
 静かに燃えているように見えるのだが、光りの明るさによって、目の焦点を外され、さらに、気が散らされているのだ。
 気が散ってしまうことで、見えなかった入り口が見えてきた気がする。白さも中に飛び込むと、明るさは半減する。シルエットに大きく映る姿に自分を感じると、シルエットの自分が、白熱した会話の中心にいるのだ。
 客観的に自分を見ていることに気付いたのは、そんな話を聞いた時だ。風俗通いの連中は、皆白い球の中にいて、客観的な自分を冷静に見ている。だから、風俗に通う自分を冷静に分析しているからであった。
 だから、感情で話していても、喧嘩にはならないのだ。
 激情してくれば、喧嘩になるのは必至。そんな状態は、すでに危険と背中合わせなのだ。
 一度、同じ女の子を贔屓にしている男の人と知り合った。相手が彼女のことを客としてだけでなく、深い感情を抱いているのも分かっていた。
 弘樹はそれを知りながら、
――負けたくない――
 と思った。自分から身を引くことは、決してしてはいけない。なぜなら、相手に対して失礼だからだ。
 では相手とは誰のこと?
 それは、好きになった女の子に対しても、また、ライバルの男性に対してもであった。
 どちらに対して失礼さは強いかというと比較にはならない。比較してはいけないのだ。なぜなら、失礼な感覚は段階を持って、大きくなってくる。その段階を踏む上で、どちらが先であっても、二人への思いが連鎖しているのを感じるからだ。捕獲してしまっては、連鎖を解いてしまい、連鎖が解ければ、好きだという感覚は消えてしまい、そのせいで、今後、他の誰も愛することができるのではないかと感じるのだ。
 風俗通いで仲良くなった友達は、今までの友達に比べて、何か発展性を感じる。そう思うと、今までの友達が、表面上だけの結びつきに思えて仕方がなかった。
 もし、弘樹に何かあった時、助けてくれるとすれば、普段の友達というよりも、風俗通い仲間の方が強いように思うのだ。少なくとも彼らとは、共通した好きなもので繋がっている仲である。形があるものが強いというのは、自然の摂理だと言えないだろうか。
 弘樹は、女将と身体を重ねた時、風俗嬢の誰かを思い出したような気がした。好きな女の子もいるが、いつも同じ女の子だとは限らない。好きになったのが風俗嬢だったというだけで、気持ちの高ぶりは、今までと何ら変わりはない。ただ、気持ちの中で、
「この娘は僕のものなのだ」
 と、感じることができるのが、決まった時間だけだということに、虚しさを感じないわけにはいかなかった。
 だが、いつでも一緒にいられるという関係であっても、実際に一緒にいられるのは、どれくらいだろう。普段は仕事をしていて、週に一度か二度、夕食を共にして、その後の時間ということになるのではないだろうか。その時間にしても、一緒にいる時間よりも、その日の午後くらいから徐々に盛り上がってくる気持ちが新鮮ではあるが、実際に会ってからというのは、どれほどの感動を味わうことができるというのだろう。
 風俗の場合は、部屋の雰囲気も手伝ってか、好みの女の子と一緒にいるだけで、ドキドキした気持ちが収まらない。サービスを受けるのを忘れても一緒にいたいだけだという人もいるらしいが、その気持ちは分からなくもなかった。
 普段の生活に発展性を感じない弘樹だったが、風俗では、何かを期待してしまう。実際に風俗通いの人と友達になってみれば、その気持ちがさらに大きくなる。
 釣り糸を垂らしている時にも、風俗の女の子のことを考えていることがある。風俗では普段誰にも話さないことでも話ができるのが楽しみの一つだった。もちろん、釣りが趣味だという話も、常連の女の子は知っている。
作品名:「発展性のない」真実 作家名:森本晃次