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「発展性のない」真実

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 その日の釣りは、可もなく不可もなくで、まったく釣れなかったわけではないが、成果があったというわけでもない。
 それでも初めて釣りというものに、興味を持って見た人にとっては、それなりに面白いものに映ったようである。
「なかなか面白そうでしたわね。私にもできるかしら?」
 その日も一緒に釣り糸を垂れてみようと話をしたのだが、
「足手まといにならないように、まずは見ているだけにします」
 と、言って笑っていた。
 途中で退屈するかと思っていたが、最後まで興味を持って見ていた。
 ゆっくり確実に落ち着いた性格を持った彼女が短気だとは思えないが、釣りに対して興味を持ったところを見ると、短気な部分も隠し持っているのかも知れない。
 短気な人は、弘樹が知っているかぎり、三種類に分かれる。一つは、なるべく短気であることを知られたくないと思う人と、隠そうとしても、隠しきれない人にであった。中には、短気なことを隠そうともしない人がいるが、どちらに近いのだろうと考えたことがあった。隠す気がない人というのは、本当は短気ではないのかも知れない。短気に見えるが、冷静沈着な面を持っていて、人に対して自分が短気であるということを示すことに、何らかの計算を含んでいるのかも知れない。計算高い人だと言えよう。
 彼女にも計算高いイメージが感じないので、短気だとは思えない。やはり贔屓目なのか、自分をことを知っていると聞かされただけで、若干贔屓目に見えてしまうのも、仕方のないことだろう。
「釣りって、面白いと思います?」
「ええ、自分では、まだそこまでは思いませんが、釣りを楽しいと思っている人の気持ちは何となく分かった気がします。」
「逆じゃないんですか?」
「私の場合は違うみたいですね。人が感じたことが最初で、自分はその次になってしまうんですよ」
「そういえば、お名前、伺っていませんでしたね。僕は野村弘樹と言います。年齢は、もう中年ですけどね」
 と言って、苦笑いをした。
「私は、山村琴音と言います。二十代後半ですね」
「女性がお一人でご旅行というのは、珍しくないように思いましたが、もっとガイドブックにでも載っているような素敵なところに行かれるものだと思っていましたので、意外ですね」
「そんなことはありませんよ。友達と一緒の時は、ガイドブックに載っているようなところにも行きますし、流行を追いかけたりもします。でも、一人になりたい時ってあるもので、そんな時は、一人で、ガイドブックにも載っていないところに出かけることも多かったりしますね」
「ここは、初めてなんですか?」
「いえ、何度かありますよ。二、三泊することが多いんですけど、何も考えずに本を読んだり、温泉に浸かったりする時間を持ちたいと思っているんです」
 顔立ちのクッキリとした美人を思わせるが、美人が言えば何でもありに思えてくるから不思議だ。琴音の言い方を聞いていれば、確かに琴音くらいであれば、ここに一人でいても絵になるように思えた。部屋の縁側にある安楽椅子に腰かけて、湯上りに浴衣姿で、本を読んでいる姿を思い浮かべるだけで、ホッとした気分にさせられる。浮いているように感じながら、浮いて見えないという矛盾した考えが、普通にイメージできるのが、琴音だったのだ。
 聞いていいのか悪いのか、気にはなったが、それ以上に自分が気にしていることを聞かないと気が済まない性格であることには勝てなかった。
「お付き合いされている方はおられないんですか?」
「ええ、今はいません。この間まではいたんですが、どうもお互いに性格が合わないことにお互い気付いたんですね。どちらからともなく別れました」
 お互いにまったく同じ時期に別れを思い立つわけでもない。必ずどちらかは傷ついたことになるだろう。
――どちらも気づいているかも知れないな――
 と思えた。
 ただ、自分が苦しんでいるとすれば、相手は苦しんでなどいないと思いがちの考え方だが、実際には大きな間違いなのかも知れない。
 自分が苦しんでいるのが、相手から苦しめられているからで、苦しめている相手は、自分が苦しんでいないからだと思えてならなかった。だから、自分を苦しめている相手に対しての復讐にも近い思いを抱くのだった。
「復讐を企てているような人が、自分でも苦しんでいる姿を復讐の当事者に見せるかどうかは、その人の性格によるのかも知れないな」
 と思っていた。
「俺はこれだけ苦しんでいるんだから、復讐を企てることは悪いことではないんだ」
 という思い、
「相手に復讐している自分が、相手よりも苦しい思いをしているのでは、埒が明かない」
 という思いと、それぞれである。
 琴音はどちらなのだろう?
 復讐を企ているような、そんな気性の荒い女には見えない。だが、一人を好み、寂しい温泉に浸かりにくるような女性は、どこか変わった要素を持っていてしかるべきだと思った。
 性格の不一致という言葉は、実に都合のいいものだ。
 弘樹も同じように以前付き合っていた女性から、
「性格の不一致」
 を理由に別れることになったが、この時は、明らかに相手からの一方的なものだった。
 弘樹も、言いたいことはあったのだが、性格の不一致という一言で片づけられてしまうと、何も言えなくなってしまったのだ。
――性格の不一致って、何なんだ――
 と、言いたかった。
 相手が勝手に思い込んだ性格の不一致、相手が言うなら、こちらも言いたい。
「勝手なこと言いやがって」
 という言葉を飲み込みながら、しょせんはこんな女なんだということで諦めるようにしたのだ。
 諦めというよりも、愛想を尽かしたと言った方がいい。言いたいだけ言わせておいて、それだけで我慢しなければいけないのは理不尽だ。弘樹は、その女に苛立ちを感じながらも、
「変な女と別れられて、よかった」
 と、思えればそれでいいではないか。
 弘樹にとって、そんな女たちばかりではないとは思えたが、なぜか弘樹のまわりにはそんな女性ばかりしか集まってこない。発展性のない考え方ばかりするようになったのは、まわりの女性の雰囲気から、そう感じるようにもなったのかも知れない。
 女性と付き合っても、あまり長続きする気がしなかった。
 大学時代にも何人かと付き合ったが、付き合い始めてからすぐ、
「この人とは、長くないな」
 と、思うようになっていた。
 その理由の一番は、
「僕が、すぐに冷めてしまうからだ」
 と、思うからだったが、実際に付き合っていると、未練がましく思えてくるのは、弘樹の方であった。
 ただ、付き合った女性はずるがしこい人が多かったのか、それともほとんどの女性がそうなのか、別れを言い出した時には、すでに自分の気持ちは決まっている。つまり、相手に言い訳をさせることなく、間髪入れずに問答無用というのが、今までの女性の常套手段だった。
 冷めてしまうと、こちらも話をするのも嫌になる。相手も気持ちはすでに決まっている。あまりお互いに引きずることもなく、別れに向かうのだが、弘樹はスムーズでありながら、どうにも許せない気持ちだけは残っている。
 その気持ちを誰にぶつけていいのか分からないし、誰にもぶつけることができないと思っている。
作品名:「発展性のない」真実 作家名:森本晃次