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短編集51(過去作品

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「で、その時にその女の子がまるでお父さんに好意を持っているんじゃないかって錯覚を起こして、お母さんのことをその時だけ忘れてしまっていたんだ。妄想の中だけの恋人として、目の前の女の子を見つめていたんだな。だが、結局我に返ると、目の前にいるのはお母さん、それがお母さんと結婚を決めた最終判断になったんだ」
 分かったような、分からないような話である。
「お父さんは、赤い色しか見てなかったな。だけど、相手はいろいろな色を見ることができるんだな」
「よく分からないけど」
「お前にも分かる時が来るさ」
 と言われ、彼女との結婚はもちろん賛成だった。
「お父さんもオトコだし、お前もオトコなんだよ。真面目な人間こそ、心の中のトンボが見えるというのかな? 通らなければならない道なのかも知れないな」
 秋になって、彼女にプロポーズする。彼女は快く申し出を受けてくれたが、その時の表情が印象的だった。
 目が赤い色に見えたからである。それが美術館で見た女の子の表情にそっくりだった。
――あの時の女の子は、彼女の幻だったのかも知れない――
 と思えてくる。
「女性って、結婚までに結構迷うものらしいんだけど、私はあなたとの結婚を迷ったことはないわ」
 とプロポーズの時に言っていた。
「あなたのすべてを知っている気がするの。あなたが私にいくら隠し事をしようとしても無駄ですからね。きっとあなたが気付かなくても、私には全部分かる気がするのよ。それだけあなたって、態度に出やすいのかも知れないわ」
「君だからじゃないかな?」
 しばらく考えてから、ゆっくりと頷きながら、
「そうね。きっとそうよ」
 自分に言い聞かせるように彼女は答えた。
 その時の目が真っ赤である。
――トンボの目――
 はっきりと感じた。
 トンボというのは、七色メガネというではないか。童謡だけのことかも知れないが、何か信憑性があって歌になっているに違いない。自分に見えない何かをまわりの人の七色の目で見つめられている。父親の言った、
「通らなければならない道」
 というのは、人生の中でいくつかあり、その中でトンボの目が自分に光っているのではないだろうか。トンボを意識し始めたのも偶然ではなく、自分の中にある常駐的に潜在しているものがトンボを意識させたのであろう。
 これからの人生、何匹のトンボに出会うのだろう。集団で行動しないトンボ、それが武田自身なのかも知れない……。

                (  完  )

作品名:短編集51(過去作品 作家名:森本晃次