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三年目の同窓会

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 それに亜由子は、最後に自分のところに来てくれたということは、やはり兄と自分との間の仲が、それほど親しくないということを悟っていたのだろう。
 その方が好都合な気がした。汚いやり方ではあるが、
「兄とそれほど親しくないのに、自分のために動いてくれている」
 という感情が芽生えれば、好印象に繋がってくる。しかも、坂出のためではなく、亜由子のためだという思いが強いということだ。
 この思いを相手が持っていれば、自然と女は男に靡きやすくなるのではないかというのが、川崎の考え方でもあった。
 それだけ亜由子に対して、女としてのイメージが強くなっているということで、亜由子にはありがたいことだった。
 だが、それは川崎の勝手な思い込みであって、亜由子の本心がどこまでなのか分からない。ただ、
「兄を私は探そうと思っています」
 と、言った時の亜由子の表情の真剣さに、まるで川崎を試そうというのではないかと思うほどの雰囲気があった。試されることは嫌なのだが、相手が亜由子であれば、別であった。
――それほど俺のことを――
 と、いう思い込みから、姿を消してしまった坂出が、どんな気持ちで今いるのかを想い図ろうとまで思ってみた。それは坂出の失踪の理由に女性が絡んでいるのではないかと思ったからだ。それだけ坂出という男は優しさを持っている。特に相手が女性となればなおさらのこと、今の川崎とどう違うのかを、勝手に想像してみるのだった。
「とりあえずは、心当たりを当たってみるしかないね」
 と、言っても、川崎に今の坂出が立ち寄りそうな場所の見当などつくはずもない。頼りになるのは、亜由子しかいなかった。
「兄のことは、私も少しだけ調べています。本当は私が心当たりを当たらなければいけないんでしょうけど、女一人で立ち寄るには少し不安な気がしましたので、ご迷惑かと思ったんですが。川崎さんのお力をお借りしたいんです」
 なるほど、亜由子なりに調べはつけてくれているわけだ。それならそれで、好都合である。本当は、亜由子に今から心当たりを探ってほしいという、難しいお願いをしなければいけないことを、どう切り出そうかと迷っていたのだった。亜由子が前もって調べてくれていたのなら、それを生かさねば、男ではない。
「ありがとう、これで少し手間が省けたよ。一緒にお兄さんを探しに行こうね」
 この時に、川崎は敢えて坂出を、「お兄さん」と呼んだ。敢えてそう呼んだことに深い意味があると川崎は自覚していなかったが、亜由子はどうだっただろう? 少しだけ一瞬ではあったが、訝しげな表情を浮かべたのを、川崎は気が付いていた。
 坂出の家には、今までに何度となく行き、彼の部屋にもそのたびに入ったが、あまり彼は自分の部屋にロックを掛けたり、貴重なものを隠したりしておくようなタイプではなかった。
「家族しかいないんだから」
 という安心感があったのだろうが、あまりにも無頓着だと思ったほどだ。それだけ家族を信頼していたのか、失踪する時でも部屋を開けっ放しで、しかも心当たりの場所が検討のつきそうな手がかりを残しているとすれば、そこには、彼の失踪に関わることが見え隠れしていたのではないだろうか。
 まず考えられるのは、失踪が、いきなり思い立ったものではなかったということだ。
 誰かに探されないように手がかりを残さないようにするくらいは、少々無頓着な人間でも考えそうなことだ。それをしなかったということは、失踪が急遽思い立って行われた衝動的な行動だったのかも知れないということだ。
 また、そうなれば、もう一つ考えられることとすれば、失踪するということにまでなるとは、本人も考えていなかったのではないかということだ。すぐに帰ってくるつもりでいたにも関わらず、急遽、帰ってこれなくなった何かが、家を離れた後に起こったのではないかということだ。
 どちらも似ているように思うが、状況として、今後の展開を左右する意味では、かなり違ってくるのではないだろうか。
 もし突発的な失踪であるなら、そこには彼の意志というよりも、まわりの環境が、彼を帰すことを許さない雰囲気になっているということである。その場の環境を帰ってくることができるように、彼なりに努力しているかも知れないということで、捜し当てた後、彼に協力することもできるだろう。
 しかし、逆に、彼が失踪を最初から意図していなかったとすれば、話は変わってくる。ちょっと出かけたくらいのつもりでいたのだとすれば、彼にとっての突発的なことだったからである。
 ということは、そこに彼の意志が十分に働いていている可能性があるからだ。
――人にとって突発的な出来事――
 なんであるかまでは、想像もつかないが、相手があることには違いないと思えた。しかもそこに見えるのは女性の影、あまり考えたくはなかったが、女性がらみで、結果として失踪したかのように思えるのは、坂出に限らず、誰もが想像のつくことだった。
――亜由子が、俺に力を貸してほしいと願い出たのは、裏に潜む女性の存在を危惧したからだろうな――
 坂出の心当たりの場所に、女性の、しかも、彼女一人で訪れるには忍びない場所が存在していることを示していた。そして、もし最初に訪れた相手が、もし知らないと言った場合に、その近辺を探るためには、本当に女性一人では難しいだろう。そこまで考えているとするならば、亜由子という女性も決してあなどれない。
 亜由子が、最初に川崎を訪れた時、川崎の会社の近くの喫茶店で落ち合ったのだが、話が進んでいくうちに、時間があっという間に経ってしまい、気が付けば、四時間近くも話していたのだ。
 話の内容は、そこまで深い話ではなかった。実際に詳しい話になったのは、二回目以降に会ってからで、最初に会った時は、どんな話をしたのかがおぼろげなくらいに、川崎としては情けないが、半分舞い上がっていた。
 それは坂出が失踪したというショックと、亜由子が自分を訪ねてくれたという喜びからのドキドキ、その二つの複雑な思いが交差し、時間の感覚をマヒさせているかのようだった。
 亜由子と一緒に入った喫茶店は、普段、一人でしか入ったことのないところだ。馴染みの常連さんもいたので、少し躊躇したが、思い切って入ったのは、最初から込み入った話にはならないだろうと思っていたからだった。
 最初は、何をどう話していいのか、亜由子も迷っているようだった。確かに内容を聞いてみると、込み入った話だったこともあって、順序が難しいのも、無理のないことだった。
 それでも、ちゃんと準備をしているところはさすがで、どこから当たればいいのかは、最初から迷うことがなかった。
「お兄ちゃんは、今まで結構旅行が好きで出かけていたのは、ご存じですか?」
「うん、知ってるよ。俺も結構学生時代は旅行が好きだったから、彼の気持ちは分かる気がしていたんだ」
「でも、いきなり誰にも言わずに出かけることはありましたか?」
「それはないね。少なくとも、友達の誰かには話していたよ」
「でも、お兄ちゃんは、家族の誰にも言わずに急に出かけることもあったんですよ。後で聞くと、急に思い立ったって言うんですけどね。一言でも声を掛けてくれれば嬉しいと思うのに」
作品名:三年目の同窓会 作家名:森本晃次