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三年目の同窓会

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 あどけなさの残る彼女は、今年二十歳になったばかりの女の子で、最後に会ったのは、まだ彼女が中学三年生の頃くらいだっただろうか。同じあどけなさと言っても、あの頃はまだまだ素朴さだけが目立って、可愛らしさはあったが、女性として見るには、幼かった。今はすでに化粧も覚え、綺麗さを引き立てる術を知っている。声は以前より明るくなっているにも関わらず、思い切り抑えているように思うのは、それだけ話が切実なものであることを物語っていた。
 彼女の名前は、坂出亜由子。同窓会の言い出しっぺの坂出の妹であった。
――ということは行方不明になったのは、坂出ということか?
 一番行方不明には縁遠いと思っていた坂出が行方不明というのは、話を聞いただけでは、俄かに信じられないことであった。それだけ坂出に中途半端な行動が結びつかないのだ。無責任な行動は絶対に取らないと思われたからで、そこに自分の見る目がなかったのか、それとも想定外の出来事が起こったのか、自分にもすぐには理解できかねることだと思う川崎だった。
 坂出は、確かに旅行が好きだった。社会人になっても、一人で出かけることがあると聞いていた。それは本人から聞いた話で、
「俺は学生時代から、一人で出かけることが好きだからな。社会人になっても、一人で旅行に出かけることもあるよ」
 と言っていた。そして最後に、
「もちろん、亜由子もそのことは分かっているさ。何と言っても二人きりの兄妹だからな」
 と言って、言葉を結んだ。
 そういえば、いつも坂出との会話では、最後に出てくるのは、妹のことだった。そんなに妹のことが気になるのは、坂出の家庭問題にあるからだと思っていた。
 父親が早く亡くなり、母親一人の手で、二人の子供を育ててきたのだ。母親も大変だっただろうが、子供の目線から見れば、幼い兄妹の方が、よほど気になってくる。それは当然仕方がないことであろう。
 坂出は、妹のことをいつも気にしていた。同窓会でも、妹の話が出てくると、皆は一応は聞いているが、
――またか――
 と思っているようで、早く終わってほしいと思っている。男が相手なら仕方がないだろうが、女の子も同じように思っている。きっと、坂出に対してのイメージが、妹を思いやる優しいお兄さんとしては写っていないからではないだろうか。そう思うと、なぜか川崎は、羨ましく思えてくるのだった。
 川崎は一人っ子だった。男兄弟よりも、女の兄弟、特に妹がほしかった。
 実は、川崎には姉がいたらしい。川崎が生まれる前に死んでしまったらしいが、親はそのイメージが強く、女の子に対しては、過敏に反応する。一人っ子になってしまったのもそのせいではないだろうか。
 家に坂出が遊びに来る時、たまに妹の亜由子を連れてくることもあった。その時の母親はまるで娘が帰ってきたかのような喜びようで、高級菓子を用意したり、マフラーを編んだからと言って、渡したりしていた。その行動は常軌を逸していたが、さすがに事情を話すと亜由子も快く了承してくれ、暖かい目で、母親を見てくれた。
 そんな亜由子は、まだ中学生だったのだ。いかにも中学生ということで行儀もよく、礼儀正しい亜由子に対して、母親は、まるで自慢の娘のごとく、
「目の中に入れても痛くない」
 と、少々大げさであるが、決して言い過ぎではないほどだったのだ。
 亜由子の突然の来訪は、川崎を驚かせはしたが、内心嬉しくもあった。実は、亜由子が現れる三日前に、亜由子の夢を見たからだった。その時は、
「久しぶりに会えて嬉しいね」
「本当にそうですよね」
 という会話から始まって、また会える約束をするあたりまでを見た記憶があった。そしてまた会える可能性をかなりの確率で感じていたのだが、普通、夢であれば、同じ夢の続きを見るなど、なかなかできないことのように思えていたが、川崎に限っていえば、続きを見ることができる確率は決して低くはなかったのである。
 だから、この予感も夢の中で現実になるのだろうと思っていたが、まさか、リアルに訪れてくれるなど、想像もしていなかったのだ。それだけに自分の気持ちの整理をいかにつけるかが、最初の問題だったのだ。夢が正夢となって現実のことになることは、夢の続きを見ることとは逆に、ほぼ皆無に近いことだったからである。
 それにしても、兄の坂出が行方不明というのはどういうことだろう?
「坂出のことだから、旅行にでも行ったんじゃないかい?」
「いいえ、それなら私に必ず一言は話してくれるはずなんです。それなのになにも言わずに行くなんて、私には信じられないんです」
 亜由子は、悲しそうな目が潤んで、そのまま涙目になっていた。
 川崎には、さらに合点のいかないことがあった。
――同じグループとはいえ、どうして、亜由子は俺のところに来たんだろう? 俺と坂出はそれほど仲がいいわけではないのに――
 と思うことだった。
 坂出が妹の前では、
「俺は川崎と仲がいい」
 というような類の話をしていたのだろうか? もしそうなら、どうしてそんなことを口にしたのだろう? 何かあった時に、自分を訪ねてくるように妹に吹き込んだのだろうか? 合点のいかないことが結構あったのだ。
 だが、それでも川崎はよかった。気になっていた亜由子と会えたのだから、それはそれでよかったと思う。亜由子に対しては、普通の恋心ではない。どちらかというと妹を愛しているような感覚に似ている。妹がいない川崎にはハッキリと分からないことだろうが、それでも嬉しいと思っている。
 亜由子は、川崎を以前から慕っていたように思うのだ。元々、友達の妹なのだから、禁断の相手であると思っていた。手を出すなどとんでもないこと、中途半端な仲にある坂出の妹だという意識を十分に持っていたが、亜由子は自分にとって、可愛い娘には違いない。――亜由子が坂出の妹でなかったら――
 という思いを何度抱いたことだろう。川崎という男は、それほど、男と女の関係の狭間で揺れ動くなど考えたこともなかったのだった。
――亜由子を女として見ているのか?
 思わず、顔を左右に振って否定の態度を自らで取っていた。妹として見ていたはずなのに、どうしてなのか、いつの間にか女として見ている。訪ねてくれて嬉しいと思う気持ちは、自分の中で素直な気持ちとして分かるのは、彼女を女性として見ているからだという結論を感じるからだった。
 亜由子が川崎を訊ねたことで、亜由子の中で安心感が芽生えているように見えた。
「亜由子ちゃんは、他の誰かのところにも、お兄さんの話を聞きに行ったのかい?」
 少し亜由子は考えながら、
「はい、他の人にも聞いてみましたが、皆さん、誰も知らないと言われました」
 なるほど、思った通りだった。本当なら、自分のところに最初に来なかったことで、少しがっかりするところなのだろうが、亜由子にはそんな気持ちはなかった。逆に、後になってきてくれた方が、都合がいいと思ったほどであった。
――最後に辿り着いた俺に安心感を初めて抱いたわけか――
 そう思うと嬉しい反面、是が非でも、亜由子の期待にそぐわなければいけないと思うのだった。
作品名:三年目の同窓会 作家名:森本晃次