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三年目の同窓会

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 一時期、毎日のように見舞いに来ていた亜由子が、ある日を境にバッタリと見舞いに顔を出さなくなった。どこから聞きつけたのか、同窓会メンバーの何人かが見舞いに表れたからである。
 川崎が喋るわけもなかったので、警察が訪れたのだろうか? ハッキリとは分からなかったが、皆それぞれ単独で見舞いに来ていたのだ。
 最初に来たのは、美穂だった。
 普通の会話を少しだけしたかと思うと、それ以上、余計なことを話さずに、すぐに帰っていった。坂出はリーダー格の雰囲気はまったくなく、別人のように変わり果てた姿を見て、落胆した雰囲気はすぐに分かった。
――美穂は、思ったよりも、自分の感情を表に出すタイプなんだ――
 喜怒哀楽というよりも、落胆だったり、憔悴だったりする姿が、すぐに態度に出たりする。普通だったら、あまりいい傾向ではないのだが、美穂が相手だと、誰も違和感を感じることなく、素直に、その表情を受け止めることができるだろう。
 次にやってきたのは、直子だった。
 川崎は意外な気がした。直子なら、一番最後だろうと思ったからだ。
 直子は痛々しい様子の坂出を見て、涙を流していた。それが本心からの涙なのか、川崎には判断しかねた。だが、坂出は驚いたような顔をして、すぐに感無量な顔になった、ひょっとすると、直子のそういう顔を見たいと思ったのは、川崎だけだったのかも知れない。
――直子は、坂出が好きだったんだろうか?
 学生時代には、考えられないことだった。
 直子には、譲がいた。譲がどんな男なのか、直子には分かっていたのだろうか? 分かっていたような気がする。
――分かっていても、どうしようもない自分がいる――
 それが、直子なのだ。
 生まれてからずっと、自分のことを分かっているのか、どうなのか? 直子は、他の人から見ると、実に神秘的な女性であった。ただ、それ以上に影が薄く、付き合ってみようという男性は、既得に見えた。それが譲であって、譲の性格から考えると、何か、打算的なものがなかったのかと、疑いたくなってくる。
 そういう意味では、譲が選んだ相手が恵子だというのも、分からなくもない。
 恵子はプライドが高いが、直子のように、どうすれば、あそこまで影を薄くできるのかという神秘的な性格ではないだけに、結婚相手としては、直子よりもよく見えたのだろう。譲が恵子を選んだのは、恵子のアクションの強さにもかなり影響されたに違いない。譲の優柔不断さは、恵子にしてみれば、操縦しやすかったからに違いないからだ。
 譲は、結婚すると、すぐに我に返った。結婚を後悔するに至るまでに、それほど時間はかからなかった。恵に出会ったのは、その時だったのだ。
 恵は、譲にとってオアシスだ。最初は、立場的に恵の方が上だったが、いつの間にか逆転していた。
 恵は譲を、どのようにするつもりだったのかと、後から思えば譲は感じる。
 最初は、恵子と別れてでも恵と一緒にいたいとまで思っていたはずなのに、途中から少し怖くなってきた。
 それは恵という女性に対してというよりも、恵が風俗嬢だということを、冷静な目で見るようになったからだ。
――風俗嬢とは、しょせん、結婚できない――
 それはプライドからなのか、それとも社会的な立場からなのか、恵に対しての気持ちが定まらなくなってきた。
 そんな時に思い出したのが、直子だった。
――あれだけ影が薄いと思っていたのに――
 直子のイメージが大きく膨れ上がってくる。
――直子は、想像の中では、果てしなく膨れ上がる要素を持った女性なのだ――
 と、感じさせられた。確かに、想像しているだけで、学生時代に感じたことのないイメージの直子が頭の中で広がってくるようだ。
 直子は、譲が自分のことをどのように思っているのか、知っているのだろうか?
 もはや、譲は、直子の中では存在していないのかも知れない。
――友達以上には思えない――
 それは、一度別れた相手に対して、二度と恋愛感情を持たないという直子の中での、ある種のルールづけではないだろうか。直子の中の個性だと言ってもいい。その考えがなければ、直子の直子たるゆえんではないだろうか。
 直子が、坂出の見舞いに現れた。今まで、同窓会メンバーの中で、これ以上ないというほど目立たない性格で、Mっぽさまで感じさせるほどの彼女が、一人で見舞いに来たのである。
 目立たない女性というイメージが残ったままで、一人訪ねてきた直子は、目立って見えた。矛盾した考えに戸惑いながら、坂出は、素直に直子の訪問を喜んだ。
 坂出も、その頃にはかなり回復していて、警察の事情聴取にも答えていたのだ。
「自殺など、考えていない」
 というセリフを警察は、そのまま信じたようだ。
 裏付けでも事件性は考えにくかったのだが、川崎には、警察が引き上げたあとも、疑念は残っていた。
「俺、欠落していた記憶が、何となく繋がってきそうな気がしているんだ」
 と、坂出は言った。
 もちろん、欠落している記憶があることを知っているのは、他には誰もいないので、自分だけに言っていると思っていたが、それが間違いだったことを、まもなく知ることになるのだった。
 坂出の記憶が欠落しているのを知っているのは、川崎だけではなかった。
 川崎は、坂出に対して、かなり思い込みがあったようだ。勝手に自分の中での坂出像を作り上げ、妄想していたのかも知れない。それを思い知らされると、今度は、坂出の存在自体に恐怖を感じるようになっていた。
 しかも、坂出は、川崎が妄想したことが分かるようで、自分でもどうしようもない状況で、川崎の妄想の中であがいている自分を感じているようだった。お互いに探り合いながら、相手の存在にもがいたり、恐怖を感じたりしているようだ。
 坂出の記憶が欠落していることを知っているのは、直子もだった。直子が訪ねてきたのは、見舞いももちろん、坂出の記憶が戻るのが怖かったというのもあった。だが、坂出の欠落している記憶の中に直子が関わっているわけではなく、坂出は、記憶の中に直子の、
「隠しておきたい事実」
 を、認識していたのだ。
 直子はそのことを知らずに、坂出に気を遣っている。坂出は、直子が隠しておきたいことが、それほど重要なことだという認識もなく、見舞いに来てくれたことも、親切心からだと思っているので、何ら気にしていない。
 ただ、直子を、親切な女の子だと思っているだけだった。
 疑い始めると、止まらなくなるというが、直子もそうなのだろうか?
 川崎は、直子の態度の中に隠しているものがあることを知っている。それは偶然、坂出の言葉から出たことで、坂出に悪気のないことではあったが、川崎の中で、
「これは使える」
 と、感じさせることだった。
――ひょっとすると、坂出の今の状況を作り上げた一端を担っているのは、直子なのかも知れない――
 と、感じたほどだ。
 川崎は、本当は坂出がいそうな場所に心当たりもあった。以前から、坂出が行ってみたいと言っていた場所があったからだ。自分と亜由子が辿り着く前に、直子を差し向けて、直子と会せれば、どうなるかということを想像してみた、
作品名:三年目の同窓会 作家名:森本晃次