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三年目の同窓会

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 嫌いでもなく、好きでもない。そばにいても、あまり意識のない空気のような存在だと思っていたが、意外とそんな相手の方が一緒にいることを望む気持ちになっているのかも知れない。そう思うと、直子は、自分の中にある気持ちを一度整理してみようと考えるのだった。
 ただ、川崎に対しての気持ちが、美穂に対しての気持ちに似ているのを感じた。もし、川崎が笑顔を向けてくれたら、直子も同じように笑顔で返すに違いない。それが、川崎の考え方だった。
 川崎は直子のことを、好まざる相手だと思っていないことは確かである。
「そういえば、川崎は、グループの中で、恋愛関係が成立していない人だわ」
 それは、美穂と二人きりではなかったか。
 坂出は別にしてだが、譲ばかりが目立っているが、川崎の存在も、気になる人の一人であったことに違いない。
 直子は、旅に出てから川崎を先に見つけた。その横にいるのが、亜由子であることは、すぐには分からずに、
「川崎君が女の人と」
 と見てはいけないものを見た気がしたのだ。
 そう思った時、相手の女性を思い出した。
――見てはいけないもの――
 そう、それが坂出との諍いだったのだ。急いでその場から離れた直子は、その時後悔した。だから、今回、川崎と亜由子を見つけた時、気付かれないようにしながらではあるが、ずっと追いかけてみようと思ったのだ。
 自分が旅に出かけた理由そっちのけではあったが、それでも、直子は諦めることをしなかった。
 元々、旅行に意味はなかった。気分転換が一番の目的、その次に、本当の自分を見つけることだった。
 本当は逆なのかも知れないと思ったが、気分転換さえできれば、本当の自分を見つけることができるかも知れないという思いもあったのだ。直子にとってのこの旅は、気楽なものから始めたかったのも事実である。
 川崎を追いかけていると、その後ろを何とか追いつくようにして歩いている姿が殊勝に見える亜由子がいる。
――いかにも、恋人同士という感じにも見えるわね――
 怪しい感じを受けることはなかった。それだけ、二人はお似合いなのかも知れない。
――それって私には皮肉だわ――
 と、亜由子を見て、彼女の表情のあどけなさを疑って見ている自分に、少しだけ嫌悪感を感じているのが、気になるのだった。
――皮肉というのは、自分だけではなく、相手があることなんだわ――
 とも、感じるようになっていた。
 坂出は、旅に出てから、自分がなぜ旅に出ることになったのか、半分忘れてしまっていた。会社に対しては、さすがに裏切りを受けたことは許せなかったし、憤りも感じている。だが、まだ自分は若いのだし、やり直しはいくらでも利く。逆に、ズルズルろくでもない会社にしがみついていて、年を取ってから、会社に利用されて捨てられるよりは、若い今の方がマシだったと、考えることもできるだろう。
 旅に出ると、欠落している記憶の方が気になり始めた。自分の記憶がどうして欠落しているのか、そして、最近知った妹の亜由子の記憶までが欠落していうことを、どう解釈すればいいのだろう?
 坂出は、そこに川崎が関わっているような気がして仕方がなかった。
 そんな旅で出会った一人の女性、彼には男性を癒すことができる雰囲気が感じられる。坂出自身がそばにいて、癒される喜びを感じたからだ。今までは、絶えず自分がリーダーで癒されることを感じたことは、ほとんどなかった。ただ、妹の亜由子は、見ているだけで癒しを感じる。妹なのに不思議だった。
 また、自分と同じような気持ちになっているのは、川崎も同じではないかと思った。川崎も、幹事をすることが多いので、立場としては自分と同じ、可哀そうなやつだと思う。だが、そう思った瞬間に、とても嫌な気分になった。川崎に自分と同じ心境を感じることを、坂出は心の中で拒んでいるのだ。
 坂出は、川崎とは共通点がかなりあると思っている。それだけに、グループの中でも心許せる相手として敬意を表していたのが、川崎も、坂出に対して同じように思ってくれていると感じていたが、少し違うようだ。
 確かに態度だけを見ていると、その通りなのだが、途中から、少しよそよそしくなってきて、その頃から、同じような接し方でも、どこかが違っている。それは坂出が、というよりも、川崎の方から、遠ざかっているのか、それとも余計な気を遣っているのか、どこか、ぎこちなさを感じるのだった。
 亜由子との関係の間に川崎が存在していることは、以前から胸騒ぎのようなものがあったが、
――川崎に限って――
 という思いから、自らで打ち消していたところがあった。
 それが、自分の中にわだかまりという壁を作ってしまい、欠落した記憶を生み出してしまったのかも知れないと思うと、自分ばかりが後ろめたい気持ちになる必要はないように思えた。
 そこでの気分転換に、旅に出たのが、旅の一番の目的だったはずだ。その答えがすぐに見つかるとは思えないが、彷徨うことも今の自分には必要に思えたのだった。
 恵とは愛情という感情で結ばれる気がしなかった。確かに癒しを感じさせる女性だが、彼女を愛することは、自分の心の中にある傷をさらに広げてしまう気がしたからだ。恵の方でも、きっと坂出を恋愛感情では見ていないだろう。どこかに警戒心を抱かせ、初対面であるがゆえの警戒心ではなく、むしろ、どこかで繋がりがあることを分かっていて、同じものを持っていることを相手に感じているかのようである。お互いに訳ありで出てきた旅行、傷を舐めあってうまく行くほど、それぞれに抱えた悩みは、単純なものではないはずだ。
 坂出が、次第に自分のことに気付き始めている頃、川崎は、亜由子と二人、坂出が生まれ育った街に出かけていた。
 そこは、亜由子にとって懐かしいところなのだろうと思ったが、どうやら、亜由子には、ほとんど記憶がないらしい。
 この街にやってきて、亜由子が不思議な気分になっている時、川崎も、ここ数日で起こったことを思い起こして見ると、気になることを思い出していた。
「そういえば、スナックのママは、亜由子に対してと、俺に対して見る目が対照的な気がしたな」
 亜由子に対しては、憐みの目を向け、逆に川崎に対しては、何か敵対したイメージで見つめていたのだ。
 一緒にいる時は分からなかった。亜由子に対しての視線だけは感じていたが、自分に対して普通に話をしてくれていることと、亜由子に対して、自分が抱いている憐みのイメージとは違う目で見ていたことで、分からなかったのだろう。
――なぜ、スナックのママは俺にそんなに敵対するんだ? まさか――
 心当たりがないわけではないが、まさか坂出が話したりしたのだろうか?
――いや、坂出は知らないはずだ。そして何よりも、坂出が知らないことをいいことに、俺が黙っていれば、それで済むことなんだ――
 川崎は、罪の意識を表に出さないことを心掛けていた。
――罪の意識なんて、相手が気付かなければ、意識する必要なんてないんだ。だけど、気付かれたらどうしようという思いだけは、ずっと持っている。欠落した記憶をありがたいと思ったが、今では却って追いつめられているような気がする――
作品名:三年目の同窓会 作家名:森本晃次