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三年目の同窓会

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 却ってその方が楽だった。うまくタイミングを計るのは、相手を気にしなくていいからだ。
 おかげで、うまく自然消滅により別れることができたが、まわりには、譲が自分を裏切ったかのように見せるようにするのが一番だと思い、それには、同窓会メンバーとの一線を画すというやり方も、やむなしだった。
 一石二鳥とはこのことで、うまく別れることができた上に、同窓会メンバーと一線を画すことで、自分も一皮むける気がしたのだ。
 殻を破らないと、自分の性格に気付いた今、自分が前に進むことはできないと思ったからだ。
 何日か旅を続けていく中で、どこかで見た二人を見かけた。思わず隠れてしまったが、何も隠れることはないと思った。確かに二人組のうちの一人は同窓会メンバーだった。だが、もう一人は……。
 直子が見かけたのは、兄を捜し求めている亜由子と、同伴している川崎だった。
――どうして、あの二人が一緒にいるの?
 直子は不思議でならなかった。
 直子は、亜由子のことは知っていた。亜由子が坂出の妹で、ただ、それだけではないことも知っていたのだ。直子の中で、高校の時に見た光景がよみがえってきた。
 あれは、直子が予備校からの帰りのことだった。
 近道でもある、近くの神社の境内を通りかかった時、
「お願い、やめて、お兄ちゃん」
 という声が聞こえた。それは、坂出が妹の亜由子を蹂躙している姿だった。露骨な乱暴ではなかったが、抱きしめてキスをしているその時の直子の状態から、とてもその場に飛び出していくだけの勇気もなく、何よりも、その場に立ち尽くしたのだ。
 直子はその時に助けに飛び出すことのできなかった自分に嫌悪感を感じ、しばらく、憔悴していた。その直子を見かねて声を掛けてきたのが、当時の譲だったというのも、実に皮肉なころではないだろうか。
 譲に声を掛けられた直子は、そのまま譲と付き合うようになったのだが、その時の譲には、懐の深さを感じたのだ。
 どことなく余裕のある様子は、笑顔を自然に見せ、満面の笑みは、何ら疑いを抱かせるものなどなかったのだ。
 ものぐさでルーズなのは分かっていたが。それもその時に限り、
――私がしっかりしていればいいんだわ――
 と、何も考えずに毎日を過ごしていた自分には、いい刺激になると思ったのだ。
 それでも、直子は、最初から譲に心を開いていなかったのかも知れない。
 譲は全幅の信頼を直子に置いていたからだ。余裕を感じたのは最初だけ、途中から、まったく余裕なくすべてを委ねてくる譲を鬱陶しくも感じるようになっていた。
 譲に鬱陶しさを感じるようになってから、他の同窓会メンバーが気になってきた。特に、川崎、美穂の二人には、何も屈託を感じさせないところがよかった。本当であれば、坂出にも何ら屈託はなかったのだが、リーダー格である坂出の見てはいけないところを見てしまったという罪悪感が、直子を責めたてるのだった。
 だが、誰に相談できるわけもなく、黙っていたが、ある日、美穂と出会ったことがあった。
「直子、直子じゃないの?」
 喜々とした笑顔で近づいてきた美穂を見ると、思わず、直子も笑顔になり、微笑み返す。その表情を自分で鏡で確認してみたくて、思わずすぐにトイレに入ったくらいだった。
 直子は、自分の顔を時々確認してみたくなるくせがあった。それは、今まで自信を持つことができなかった自分に、少しでも自信を持てるようにしたいからで、直子は、美穂と一緒にいる時も、そう感じたのだった。
 直子は、その時、鏡を見て、満面の笑みの浮かべている自分に安心した。やはり、美穂だけは、他の人たちと違っている気がした。
 女同士というのは、時として、やりにくいところもあるが、美穂に関してはそれを感じない。
 美穂との会話は楽しいものだった。何もわだかまりもなく、普通に会話ができ、それでいて、他のメンバーのこともさりげなく話してくれる。そこには何ら人の悪口は存在せず、懐かしい話に終始するだけだった。
 直子は、その時、三時間ほど一緒に話をしたが、時間があっという間に過ぎてしまったことに驚いていた。
 譲と一緒にいる時には、感じることのできない時間の感覚、それを新鮮と言わずに、何というかであった。
 直子にとって、譲との時間よりも美穂との時間が大切になり、美穂と一緒にいることを知らない譲は、直子が自分に内緒にしていることがあるのを、完全に誤解しているようだった。
 もちろん、言い訳をする気もないし、美穂と会っていることを話す気にもならなかったのだ。
――勘違いしているなら、それでもいいわ――
 勘違いをいいことに、それが口実になって、譲と別れることもできると思ったのだ。
 ただ、直子には後ろめたさがあった。
 それは譲に対してではなく、美穂に対してだった。
「譲と別れる口実に、美穂とのことを理由としてしまうのは、後ろめたい感覚に違いないわ」
 いくら、言葉にしないとは言え、仲がいい友達を引き合いに出すのは、卑怯な気がするからだった。
 だが、それでも、美穂と、譲とを別次元の人間だと思うことで、何とか、直子は自分の中に正当性を持つようにしていた。
 確かに正当性を持っていることで、直子は自分の中の美穂を守ろうとした。そうでなければ、自分自身がおかしくなりそうで、嫌悪が増してくると思ったからだ。
 譲と別れて、旅に出る時も、本当は美穂に対してだけ気になっていた。
 旅に出ることを告げると、
「それもいいかも知れないわね。あなたのことは誰にも黙っていてあげる」
 と言ってくれた。
 川崎も、もちろん、そのことは知らなかった。直子は旅に出て数日で、川崎と亜由子がいるところを目撃した。
 まさか、坂出がいなくなり、それを追いかけているなど、思いもよらなかったが、どうも普通ではないことは分かっていた。
――どうしてあの二人が――
 直子は勘が鋭いところがあるので、川崎が亜由子のことを好きで、亜由子も川崎に委ねているのを見ればよく分かった。
 だが、二人はそれを相手に隠そうとして、なかなか正直に態度に示さない。それは傍から見ていると、ぎこちなく見えるが、川崎を知っている直子であれば、二人の心の動きは手に取るように分かった。
 直子は、確かに兄から蹂躙されている亜由子を知っている。ただ、その時に見かけただけで、その後どうなったのかも、知らなければ、よく兄妹の仲が壊れなかったことに疑問すらあった。
 そう、亜由子の欠落している記憶はこの時のことだった。
 そのことは、実は誰も知らない。兄の坂出も、実はその時、同じように、記憶が欠落しているのだ。これは自らが忘れようという思いを胸に秘めていたことで、忘れてしまったのかも知れない。
 川崎が、どうして亜由子と兄を探していることが分かったのか、直子にも分からなかったが、二人を見ていると、何となく分かってきた。
――私も女だからかな?
 それだけでは説明がつかないが、
――ひょっとして、川崎君を、私は以前から気にしていたのかも知れない――
作品名:三年目の同窓会 作家名:森本晃次